第20話 ダンジョンライバー

 『サモテン』はクソゲーだ。

 そのクソさは運営がユーザーの期待を徹底的に踏みにじる……ランキングとかいうクラス間の競争に見せかけた茶番や、ダンジョンの鬼畜難易度だけではない。

 単純に――バグが存在しないのだ。


 いや、正確に言えばバグは存在する。

 しかし一度ネットの海へ投下されれば、運営が迅速にバグを潰すのだ。

 問題は、その不手際の対応である。


 ゲームなら当たり前のことだろう……例えば簡単に無限レベリングを可能とするグリッチが発見された場合、バグを修正する。

 そこまではいい――――が、『サモテン』の運営はユーザーが不正に得た利益の10倍を没収するという横暴に出た。


 そしてこの世界でも同じ。

 公式が認める以外のグリッチは、『サモテン』の修正された後の状態だ。

 あまりの夢の無さに、ボクは泣いた。


 前世で流行っていた知識チートなんて、所詮はご都合主義なのだ。

 結局、ボクの持つ知識も、後から追い付けるアドバンテージに過ぎない。


 だが――ボクの目的はあくまでエンドコンテンツであり、最強になることじゃない。

 そして今はまだゲームでいうところのチュートリアルにあたるフェーズ。

 まずは、これからの準備の為――金策、この世界でいうマナ石を多く収集する術を手に入れなければならない。




 天の声が予告していた『転生者チャット』が実装されるまで、まだ数時間ある。

 ボクは5層で増やしたマナ石を使用して『学内商店』で『クリエイトツール』を何枚か購入しておいた。


 ★3以下のアイテムカードは、店員を通さずともタッチパネルで購入可能なので、ボクという個人が識別される心配もない。


 今日の探索ではかなりの収穫があった。

 ダンジョンのモンスターは撃破或いは捕獲によって、マナ石を主にドロップしてくれるのだが、稀にマナ金石という上等品が落ちる。


 属性バードは100体近く撃破したが、『アイスウィング』の捕獲時に、マナ金石がドロップした。


「コレについてくらいは、既に学びましたので、知っていますが……使わなかったのですか?」


 マナ金石は、学内でのレートでマナ石50個分である。

 とはいえ、使い道はそう無く……アイテムカードに引き換えるのが一般的。

 学内商店ではマナ金石でしか買えないアイテムも多い。


「検証したいことがあるんだ。もしかしたら、大金持ちになれるかもしれないから、まだ手放したくない」


 部屋の共有金庫に、仕舞っておく。

 ダンジョン内では、マナ石の所持量が増えるほど、モンスターと遭遇する可能性が増える傾向にある。


 下手にダンジョン内でマナ金石を持っていても、良いことだらけではないのは想像に難くないだろう。

 もちろん、経験値が寄ってくれるのは悪いことではないけど……より有効活用すべきだ。


「ところで、慈雨はボクの端末を勝手に使って何をしているんだ?」


 彼女と同じ部屋で暮らしている中、彼女の学内端末は使い物にならない状態なので、暇つぶしにボクの端末を貸し与えている。


 すると、彼女は何かしらの動画が映る画面をスクリーンに映しだした。


「ライブ配信です。これは先輩方の探索活動記録ですが、こちらでもダンジョン内の様子がわかりますから」


 動画ではなく生配信だったらしい。

 そういえばこの世界には、『ダンジョンライバー』という職業があったことを思い出す。


 投げ銭機能で稼ぐ人気の職業ではあるが、取れ高を狙った死亡事故なんて悲惨な配信も、稀にあると言う。


 自分の手の内を晒してまで、人気者になろうとするのも大変だ。

 それも承認欲求か……。


「見てください、彼女……迷宮学園の3年生なんですけど、国内トップクラスの人気なんです」

「へぇー」


 配信画面を見れば、場所はダンジョン12層。

 確かにそこまでくればトップクラスの一員に入るだろう。

 その強さの根幹は、★5モンスターカード『バジリスク』……11層以降の伝説ステージに生息するモンスターだ。


 だが、それよりも気になる存在がそこにいた。


『はい、ポーション。まだ行けるかな?』

『ありがとう四辻。まだ行ける』


 配信者の女性ではなく、彼女のパーティーメンバーに目移りした。


「そういえばこの人……四辻って。しかも、公子様に似ていますね」

「この世界での……ボクの兄だな」


 ボクは公爵家の次男。

 長男が迷宮学園の上級生として在籍していることは知っていたが、直接顔を合わせたことはない。


 だが、彼の迷宮学園入学前までは、四辻聖夜と接点があった人物に当たる。

 『サモテン』では登場しなかったキャラクターだけど――


「関わったら、面倒そうだ。よし、そろそろ配信を閉じて、『クリエイトツール』工作するぞ」

「はい……」


 端末を取り上げると、しゅんとして落ち込む慈雨。

 彼女はボク相手に反抗しないから、こういう時どうすればいいかわからない。


 従順でいてくれた方が使いやすくていいんだが、何というか……調子が狂う。


「今回はボクも工作するから」

「公子様が……?」

「作りたいものがあるんだ。時間は1秒も無駄にできない」


 後回しにしても良かったが、作りたいアイテムがあるのは嘘ではない。

 早速『クリエイトツール』を取り出し、粘土状の物体で工作を始める。


 創り続けている内に、窓から夕陽が差し込んだ。

 思っていた以上に慈雨は工作のセンスを持ち合わせており、1日目にして、幾つか必要なアイテムが揃い始めてきた。


 そして――いよいよ『転生者チャット』のインストール通知が届いた。












୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『クリエイトツール★~★★★』

 消費型素材アイテム。粘土状。

 装備やアイテムを作製するにあたり、使用できる一般的な素材。

 ランクは★1~3まで存在し、完成品はランクの上下1差内が存在。

 何の能力も持たない物体が出来る可能性もある。

 四辻により『クリエイトツール概論』には、作製可能なアイテムをすべて網羅しているため、充分な練度さえあれば、手間がかかるだけで有用なアイテムを多く作成可能。

 また同じランクでも、ガラス素材や金属素材、原木素材などの種類がある。


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