第19話 希少モンスター
授業をサボったボクは、そのまま寮へと帰る。
残りの授業についても、精神的なショックで寝込んでいるということにすればいいだろう。
学校はある程度汲み取ってくれるはずだ。
「あれ、お帰りなさい。授業は――」
「サボった。それよりダンジョンに行くぞ」
「えっ……!? 私はお勉強するのではなかったのですか?」
「計画変更だ」
慈雨奏育成計画の基本路線は、変わらない。
が、ボクがダンジョンに行ける時は、彼女にも付いて来てもらった方が手っ取り早い。
今の時間は同学年が授業中だし、最悪誰かに遭遇したところで、慈雨奏だと気付く生徒はいないはずだ。
【ダンジョン第5層】
万が一に備え、『第陸の鍵』の鍵で5層まで直行した。
昨日、8層で撃破したモンスターからのドロップ品……マナ石を使って『学内商店』で『ダンジョン5層マップ★★』を購入しておいたのである。
「これって……大丈夫なんですか?」
「ダンジョンの中なんだから、こういう場所もある」
ボク達がいる場所は、一言で表すと渓谷だった。
『赤い土』などによって勘違いされがちではあるが、ダンジョン内で地面を掘っても下の階層には繋がらない。
階層は次元が変わるのと同じだという認識が正解であり、階段や『赤い土』が例外的に階層を繋いでいるのである。
「深層には、海があるステージもある。空があるステージもだ」
「あの……公子様は博識なのですね」
「有名な話だよ。勉強すれば、この程度の知識は身に付く」
別に話してしまってもいいが、『サモテン』の知識に頼られる前に、常識を身に着けてもらわないと困る。
それはそうと――渓谷という環境にも、当然モンスターはいる。
『ファイアーバード★★』
『ウィンドバード★★』
属性バード系が多く生息するのが、5層渓谷の環境である。
そしてもう一つの特徴、それが――
「やつらは攻撃的だからな……縄張りに侵入されたら、一直線で襲ってくる。ナイフ!」
「……はい!」
★2モンスターはスキルを持たず、その攻撃手段は突撃による物理攻撃に限られる。
ボクはその攻撃を避けながら、拳でバードを叩き落とした。
『グエエェェェェェェッ!!』
鳥系はどうにも鳴き声が煩いが、これが逆に致命傷の判別方法に使えるので、初心者のパワーレベリングに最適なのである。
……体力も少ないしな。
「えいっ!」
慈雨の仕事は、ボクが叩き落としたモンスターを『携帯型ナイフ』で突き刺し撃破すること。
ボクの叩き落としはあくまで致命傷……撃破まで至らない。
何回かは失敗して撃破してしまうが、モンスターはバカの一つ覚えで次々と襲ってきてくれるため、数には困らない。
「これっ……いつまで、続けるんですか!?」
「200匹は倒しておきたいが……待て――」
ボクもまた攻撃してくるモンスターをあまり躊躇せず素手で倒していたが、空に『属性バード』ではないモンスターを発見する。
『アイスウィング★★★』
★3モンスター……それは本来ダンジョン5層にいないはずのランク。
それに加え『アイスウィング』はレア中のレア……『変異型』のモンスターであり、希少属性持ちである。
「何処か、特殊ステージから逃げてきたかな。慈雨、ホワイトカードの準備!」
「え、あ……はい!」
本来いないはずのモンスターがいることは、往々にして色んな推測ができるから、無視する。
ぶっちゃけ、本当に遭遇しない希少属性との出会いは、ラッキーチャンスでしかない。
《吹雪》
高い位置から、『アイスウィング』がスキルを繰り出してきた。
ボクは急いで慈雨を抱えて避けるも、何度もよけ続けられる攻撃ではない。
厄介なのは、ただの★2とは違って多少の知能があるから、降りてきてくれない点だ。
そこでボクは自分の『サンダーバード』を召喚する。
「旋回による誘導と、挑発だ」
ダンジョン使役活用術で学んだことの一つを実践してみる。
知能があるからこそ、引っかかることもある。
格下のモンスターが自身の周囲を旋回すれば、鬱陶しく思っただろう。
すると狙い通り、低空にまで辿り着き――
「《静電気》!」
慈雨が召喚した『ライトシープ』のスキルの射程距離へと入る。
《静電気》の効果である低確率スタンは発動しなかったが、一瞬でも動きが止まった瞬間を狙い、ボクが『携帯型ナイフ』を投擲した。
「《ホワイトカード》!」
急降下する『アイスウィング』に、慈雨が『ホワイトカード』をかざすと……光となって吸収されていった。
「捕獲成功だな」
「つ……疲れました……」
「一旦、部屋に戻るか」
「お願いします」
無理は禁物だ。
瀕死にまで追い込んだとはいえ、『アイスウィング』を一発で捕獲成功するくらいには、一気に慈雨のレベルは上げられただろうから。
――寮へ戻ると、何だか申し訳なさそうな慈雨の表情。
「どうした? 言いたいことは口に出してくれないと、ボクは察し付かないぞ」
「あ、はい。その……氷属性って、希少属性なんですよね? そんなレアなモンスターを私が捕獲してよかったのでしょうか、と」
どうやら自分が捕獲してしまったことに、引け目に感じているらしい。
パックによる獲得を除いたモンスターカードの所有権は、明確に捕獲者と決まっている。
もちろん申請すれば、権利を譲渡することも可能だが、彼女の場合はそもそも身分がないので、譲渡できないのだ。
「ボクが捕獲しても、使えないだろう……クラスメイトに見られた時には、何処で捕まえたんだとか、無駄に注目を浴びるだけだ」
理由は至極単純。
加えて最大の問題は、学校に説明のしようがないことだ。
部屋に端末を放置している以上、学園側からすればボクはダンジョンに入っていないのだから。
不法侵入や、『第陸の鍵』の存在がバレることは絶対に避けなければならないことだ。
「何はともあれ、お疲れ」
「お疲れ様です……初捕獲、嬉しいです」
慈雨は、嬉しそうに入手したばかりのカードを手に取って見ている。
彼女はボクの戦力だ……これからも強くなってもらうつもりだ。
その為に、ボクはサポートを惜しまない。
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
・『変異型』
数が少なく希少価値のあるモンスター。
全身の色が違ったり、サイズが違ったり、基本5種類の属性から派生した希少属性を持つ。
通常よりステータスが高い。
『変異進化』というカテゴリーとは、別である。
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