第11話 隠しステージ

「なっ、なんでだよ……おかしいだろ……こっちは、★3モンスターなんだぞ!?」


 2組の黒羽は、自身の召喚したモンスターが撃破され、後退りした。

 その他2名も同様の反応。


 ボクは生身で、流れ作業のように3体のモンスターを片付けた。

 ……拍子抜けするほど弱かった。


「おい、どうして英雄カテゴリが★4以上しかいないかわかるか?」

「へ……?」

「本来、人間にはそれくらいのスペックがあるって話だ」


 ボクがかつて『サモテン』で使用していた『英雄シェナ』はステータス最弱……それでも★4以上の強さを誇っていたのは、類まれなる技巧力があったからだ。


 つまり、ユーザーのプレイヤースキルを極めれば……英雄カテゴリ並みの強さを得ることができるのである。


 『サモテン』PVPランキング3位『セージ』は、生身でダンジョン20層まで到達した唯一のユーザーなのだ。

 その経験をもってすれば、この結果は当然である。


 それと、7体の★1モンスターを撃破していたことで、レベルが上がっていたのかもしれないな。

 初めにしては、予想以上に動けた。


「ば、ばけもん……」

「そんな怯えずとも、殺しはしねぇよ。学園が配った端末で、バレちまうからな」

「ひいっ」


 暗に、端末が無ければ殺していたぞ、という脅し。

 実際、そうでもしなければ、犯罪もやり放題になってしまう。


 端末を携帯しない場合、ダンジョンへの入場は認められないよう学園が管理しているし、一定以上の時間所有者から離れた位置に放置されると、警告される仕組みだ。


「さて、まだモンスターカードが残っているなら続けるか? それとも、お前らも生身で戦うか……?」

「っ――撤退すっぞ!」


 足早に、ボクから逃げて行く2組の3人組。

 一度撃破されたモンスターカードは、24時間が経過するまでグレーアウト……カードが灰色に染まり、使用できなくなってしまう。


 黒羽とかいう男子生徒はプライド高そうだし、ボクのことを広めたりはしないだろう。

 早々に目立ってしまえば、ボクの計画に綻びが生じてしまう。


『ダンジョン1層マップ★』


 家から持ち込んできたアイテムカードの1枚を使用する。

 破損するまで永続型の装備カードと違って、アイテムカードには永続型と消費型の2種類がある。


 この地図アイテムは永続型。

 しかも、所有者の居場所を地図上に表示させてくれる優れモノだ。

 まあ3層以上の地図は、ランクが上がってしまい、持ち込むことができなかったが。


「とはいえ、トラップは表示されないし、ちゃんと足元には気を付けないとな」


 ダンジョンの中にはシンプルな即死トラップが沢山存在する。

 1層のトラップは1分動けなくなるという『青い土』……そのままモンスターに襲われるという危険性から、ソロは一度引っかかると、厳しい抵抗を強いられる。


 2層以降の『赤い土』ともなると、落とし穴で、完全な即死級。

 トラップは色で判別できるが、一度引っかかってしまうと、地獄行きだ。


「ふう――あと少しだな」


 1組の連中らと離れて約1時間……モンスターを次々と撃破しながら、2層への階段を見つける。


 階層を移動する階段はダンジョン内に複数がるが、実は2層以降では、エリアが分断され、階層すべてが繋がっていないことがある。

 そのおかげで、ボクは1層時点でここまで歩かされたのである。



【ダンジョン第2層】


 対して1層と代わり映えしない。

 強いて言えばモンスターの出現数が増え、その能力値が少し上がった程度だろうか。

 新入生のユーザーの数も少ない……連中にとっては初めてのダンジョンなのだし、そう早く階層を移動もしないか。


 何はともあれ、そこまで苦労せずに生身での単独撃破を繰り返す。

 そしてようやく、目的地にたどり着いた。


【初心者限定ステージ『三つ穴の祠』】


 隠しステータスであるユーザーのレベル。

 それが一定未満の時にしか入場できない、穴場のスポットである。


 『ステージ』というのは、各階層に存在するエリアのこと。

 そこは、階層とは隔絶された空間であり、生息モンスターが変わったり、ダンジョンらしからぬギミックがあったりする。


 11層以降では顕著に見られるが、それまでは殆ど存在しないし見つからないエリア。

 だが、とても旨味のある場所だ。


 『三つ穴の祠』はユーザー1人がギリギリ入れるとても狭い空間。

 もし大きめのモンスターを召喚でもしようものなら、押しつぶされて死んでしまうかもしれない。

 それくらい窮屈な場所だった。


「これ『サモテン』よりも狭くないか? この身体が大きいだけか」


 ここにモンスターは初めから生息していない。

 『三つ穴の祠』はギミック型のステージ。

 あるのは、人間の腕くらいの太さしかない穴が、たった3つあるだけである。


「さて、それじゃさっそく、供物を捧げるか」


 ボクは懐のカードデッキから、3枚の★2アイテムカードを取り出す。

 『学内商店』へと赴きマナ石へと換金しなかったのは、ここで使用する為だった。


 カードを1枚ずつ、穴の中へと落とすと――光が放たれる。

 そして3つある穴の中央に、宝箱が出現した。


 そう……これがこのステージのギミックだ。

 さっそく宝箱の中身を――――


「とはならないんだな。これが!」


 ボクは思いっきり宝箱へとケリを入れる。

 すると宝箱は本性を現した。


『ミミック★★★』


 本来であれば、ダンジョン6・7層に出現するモンスターである。


 ただでさえ戦いづらく、モンスターも召喚できない狭い空間。

 ここでユーザーは格上のモンスターと単独で戦わなければいけない。

 ……といった、初心者には少し難易度の高いステージである。


「だが……結局は初心者が攻略できるように造られているんだな」


 『ミミック』は宝箱へ《擬態》している間に攻撃すると、クリティカル……改心ダメージを与えることができるといった特性を持つモンスター。


「最初からネタが割れてれば、ただの雑魚モンスターでしかないな」


 ミミックの口が開かないよう、その躯体を壁を押し付けるようなケリを繰り返し、隙を見てナイフによる攻撃を加える。


 戦える場所が狭い……?

 なら、最大限フィールドを利用してアドバンテージを得るだけだ。


「しゃっ!」


 気付けば『ミミック』は撃破できており、消失……代わりにドロップ品が残されていた。


 ★3のモンスターともなると、ホワイトカードで捕獲できる可能性は非常に低いし、最初からお目当てはこのドロップ品だった。


『超衝撃吸収エアバッグ★★★』


 本来『ミミック』のドロップ品はランダムだが、ここ『三つ穴の祠』では確定でこのアイテムがドロップできる。


 消費型のアイテムカードだが、防御アイテムとしてもかなり優秀なアイテムである。

 防御できるのは物理攻撃だけだが、今回必要なのはこれだけだ。


「じゃ、もう一度やるか」


 『入学記念カードパック』から出た★2アイテムカードの枚数は8枚。

 つまり、もう一度ギミックを発動させることができる。


 元々、このステージはレベル制限のようなものがあり、ユーザーのレベルが一定以上になると入場できない。

 今のうちに惜しまず利用しておくのがいいだろう。












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・『ダンジョン』

 ダンジョンの大まかな境界線は、階層だけではない。

 モンスターのランクがガラッと変化する境界線が存在する。

 もちろん、同個体でも階層によってレベル差はある。

 1~5層<6~8層<9~10層<11層~

 <伝説ステージ<神話ステージ<超越ステージ

 例外:特殊ステージ・限定ステージ


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