第10話 初ダンジョン

「ホワイトカード受け取ってない奴、もういないな!」


 ダンジョンは入口の前で、清原先生が1年1組の面々を点呼させた後、暫くしてそう声をかけた。


 ホワイトカード……それはただの真っ白なカードで、そのままでは何の役にも立たない。

 だが、すべてのカードの原点とも言える。


 ダンジョン内に出現したモンスターは、このホワイトカードを使用して捕獲できるのだ。

 もちろん、どんなモンスターでも捕獲できるような万能品ではないので、適度に弱らせてから確率で捕獲が成功できる……といった代物である。


「よしそれじゃあ、グループの方も、お前ら全員作り終わったか?」


 ダンジョンの入り口は意外と小さい……と言っても、迷宮学園にあるダンジョンの入り口はここ1つではなく5つあるらしい。


 ――まあ、実は学園も把握していない6つ目のダンジョン入り口があるのだが、今は割愛しておこう。


 ともかく、今この場に1組の生徒しかいないが、他クラスは他の入り口から同じ時間に入るのだろう。


「おい四辻。1人でいいのか?」

「構いません」


 清原先生が困った顔で訊いてきたが、ボクは率直にそう答えた。

 相手は一応、この学園の教師……雑に対応してレッドカードを食らうかもしれないので、態度だけでも敬意を払うように見せた。


 まあわかっていたことだが、ボクと組みたい奴は1人もいないようだ。

 昨日のことを考えれば、当然の話だろう。


「まっ、お前がそれでいいなら、止めやしなぇよ。だが、間違っても初日は6層以降に潜るなよ?」

「もちろんです」


 素っ気なく一言で答えると、清原先生は溜息を吐いてから1組の皆々に顔を向き直す。


「いいか、お前ら。今こいつに言った事は、1年全員に当てはまる話だ。ダンジョンには、階層以上に越えちゃいけないラインが存在する。5層と6層は出現するモンスターのランクと同じ★の数が、それまでと変わる。最初のラインが、そこだって話だ」


 教師が口を酸っぱくして言うのも無理はない。

 基本……この学園では24時間いつでもダンジョンへ出入りしていいことになっている。

 調子に乗って、帰って来ないまま……6層以降へと挑戦してしまう生徒がいることを危惧しているのだ。


「わかったグループから、ダンジョン活動開始だ」


 清原先生は手を叩いて、話は終わりだとボク達をダンジョンへと促す。

 1・2層に限れば、生身の人間が死ぬことはないだろうし、ダンジョン内で迷子になることが一番の危険だろう。


 まあその為に、生徒達に支給された専用の携帯端末がある。

 ダンジョン内での通信は、この特殊な端末がなければできない。

 また生徒の居場所と生存を確認するための特殊なSIMが内蔵されており、危険なエリアに入った時点で、救助班が向かう仕組みだ。

 ……今回の場合、6層以降がその危険なエリアに当たる。


 さて、長かったが、いよいよダンジョンへ入れるのだ。

 その興奮はボクだけじゃない。

 1組の皆は次々とダンジョンの中へ。

 先行する彼らへ続き、ボクも初ダンジョンへと足を踏み出した。




【ダンジョン第1層】


 どれほど歩いただろうか。

 学園の端末を見れば、時間は把握できる。

 入ってからまだ30分といったところらしいが、やはり険しさを感じる。


 ダンジョン1層に生息するモンスターは、基本的にこの『ゴブリン★』と『コボルト★』だけだ。

 しかし、1層ともなると数すら少ない。


 今の時点で6体と遭遇……ボクはナイフで撃破している。

 ★1のモンスターを捕獲するのは、ホワイトカードの無駄だ。


 学校から無料で支給されたホワイトカードは、たったの3枚しかなく、以降は『学内商店』での購入が必要となるからである。


 だが、こんな少数相手に数回戦った程度で、疲れを覚えるのは、中々に堪えてしまう。


「運動不足……というより、経験不足だな」


 この世界では、人間にも見えないだけで、レベルが存在する。

 モンスターを撃破してレベルを上げれば、自然とスタミナも増えるだろうが。


 ボクが敢えて自前のモンスターカードを使わないのは、まず自分のレベルを上げることが最優先だからである。

 『サモテン』では、レベルを上げればホワイトカードの捕獲率も上昇していたからな。


「序盤はあいつらも、大変だろう」


 ふと1組の連中のことを考える。

 ボクはソロ……たった1人で行動する。

 とはいえ、何も一切クラスメイトのことを考えない訳ではない。


 もちろん一番の理由はボクが自由に行動できるようにするため。

 ボクという悪役がいることで、あのクラスは団結するだろう、という意図もある。


「親切……利他とは結局、利己の為だからな」


 この世界で言うなら、絆とは自分が危機に瀕した時、助けてもらうための保身だ。

 ボクがそれを……彼らを切り捨てるような真似をしたのは、あいつらに自分を助けてもらえる能力を感じ取らなかったからだ。


 来年はどうなるかわからない。

 ただこの1年は、そういう選択をしただけだ。


「おらよ! 7体目」


 視界に見えた『ゴブリン★』に、ナイフを投擲し、一撃で倒す。

 両親が持たせてくれたナイフの威力はそこそこ強い。


『携帯型ナイフ★』


 迷宮学園に持ち込み可能な★1装備カードの中でも、一級品だろう。

 もちろん、ボクには『サモテン』の経験があるから、得物がなくとも戦えるけどな。

 効率化のためになっている。


「あ、てめえ……!」

「ん?」


 すると、消失した『ゴブリン★』のドロップ品……1つのマナ石がドロップした場所に、他の生徒の姿が見えた。


 しまった……もう他の生徒に遭遇してしまうとは。

 迷宮学園にあるダンジョンの入り口は複数あるが、それぞれの入り口が近くとも、ダンジョン内に入った先が遠いなんて設定があった。


 つまり、相手は他クラスの生徒。

 しかし厄介なのは、3人もいるということ。


「お前、見ない顔だな。どこのクラスだ?」

「気にすんなよ」

「待てよ。人の獲物奪っておいて……マナ石置いてけや!」


 獲物は早い者勝ちだ。

 たとえ彼らが先に狙っていたとしても、関係ないことは迷宮学園のガイドライン『目録』にも記載されているはずだが……。


 まあ新入生が全員把握しているはずもないか。


「ヤダね」

「あ? ははっ、身の程がわかってないみてぇだな。俺は2組の黒羽……俺達は、お前にPVPを申し込む!」


 黒羽と呼ばれた生徒を筆頭に、腰巾着らしい2人の生徒も、次々と手持ちのモンスターカードを引いた。

 ……こうなっては仕方ない。


 PVP自体は、『目録』でも禁止されたものではないからな。


『サンドフロッグ★★』

『ウィンドフロッグ★★』

『ノーマルファング★★★』


 彼らから召喚されたモンスターを見れば、彼らの横暴な態度にも納得がいった。

 初めから★3のモンスターの所持者……こいつらも多分、担任教師に煽てられて調子に乗った口だろう。


 だが逆に、ボクもやる気が出てきた。


「おい、モンスター召喚しないのかよ! ボコっちまうぜ~?」

「生憎、お前ら如きには必要なさそうだ」

「はっ、わからせてやらぁ!」


 ★3のモンスター……生身で倒したら、経験値が美味しそうだ。











୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『ホワイトカード』

 ダンジョンに生息するモンスターの捕獲、装備品やアイテムの保存を可能とするカード。

 装備品やアイテムカードのランクは、保存した時点で定義される。

 殆どモンスターに関しては、既に迷宮学園が詳しいランクを目録に記録している。

 捕獲:使用者とモンスターのレベル差によって捕獲率が変化する。捕獲が失敗すると消失してしまう為、使用者に十分なレベルがないうちは、使用が推奨されない。


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧

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