第9話 (君塚澪視点)

 わたくしは、そこまで優秀な人間じゃない。

 前世の頃からそう――ただ運がいいだけ。


「え~、すごいじゃん※※! 宝くじ当たるなんて、豪運だよぉ~」

「あはは。でも、わたくしは未成年ですから。管理は両親に任せます」

「そっか~、新発売のパフェ、奢ってもらおうと思ってたのに~……な~んてねっ」

「ふふっ、普通にパフェの一つでいいなら、驕るわよ」


 友達にも恵まれていた。

 普通、わたくしのような人間の周りには、打算的な友人が近づいてくるものを、富裕層の子供ばかりが最初から友達で、嫉妬なんてジョークに過ぎなかった。


 そう――わたくしは恵まれている。

 でも、わたくし以外はそうじゃない。


「いやっ! 返してよ!」

「だ~め~。あんた姉が万引きで捕まったんでしょ? ちゃんと返さないと、ね?」

「それは私が自分のお金で……」

「はあ? うちの学校バイト禁止なんですけど~、知ってるよね」


 人には生まれた瞬間から、基礎ステータスが定められている。

 私はそう思った……きっと私の豪運も、基礎ステータスの一つ。

 それも、努力でどうにもならない、不変のもの……永遠に続くものだ。

 だから――


「悪いことをしたら、謝るべきよ」


 運の無い人達は、最初から負け組だ。

 救いようなんて……ない。




 小説の世界へと転生されてからも、わたくしは変わらない……生まれながらのステータスは、裏切らない。


『英雄ハクア★★★★』


 わたくし――――君塚澪は、やはり豪運の持ち主だった。

 だからこそ考える。

 この世界でなら……少しはみんなが平等になれるんじゃないかって。


 迷宮学園の生徒達は皆が貴族出身。

 家柄の差はないし、後に比べられるのは、運の差だけ。


 わたくしがこのクラスのトップとなって、みんなが平等になるよう導けばいい。

 恵まれた者として、わたくしにはその責務がある。

 そして……それを成す力を得たのだ。

 ――得たはず……だったのに。


「大事なカードを晒していると、こういうこともある」

「――――ッ」


 床に尻もちを付き、見上げた先。

 そこには四辻聖夜が、残酷な目で見降ろしながら、その手に持つナイフの先が、わたくしの大切なカードに向けられていた。


 良いカードを持つ者が上に立たないといけない。そうでないと、わたくしの野望は叶えられない。

 それがどうして……こうも圧倒されてしまうのか。


 ――話が違うと思った。

 転生してきて調べた話では、より強いカードを持つ者が上に立つ実力社会じゃなかったのか。

 しかも――――


「ほらよ」


 彼が公開したカードは、すべてが★2。

 クラス内でも★2だけしか出ていない生徒は多いけど、アイテムカードが8枚という部分を加味すれば、彼が最底辺であるはずなのだ。


 それがどうして…………こうも無力感を覚えてしまうのか。

 わたくしには、理解し難い現実だった。



 ――四辻が教室を去った後。

 わたくしの元へ、クラスメイト達が寄って来る。


「大丈夫? 君塚さん」

「あ、あんな奴の言う事、真に受けることないぜ……?」

「そうだよぉ。全員公開する空気だったしぃ」

「あいつ爵位が高いからって、調子に乗ってるよな」


 どうやら彼らは、わたくしの味方をしてくれているらしい。

 そうだ――四辻の言うことがいくら正論であろうとも、大切なのはみんなの賛同だ。

 あんな風に、1人で生きようとするなんて……死に急ぐようなものに決まっている。


「ごめんなさい。取り乱してしまったわね。わたくしは大丈夫」

「おお、代表復活ぅ!」


 わたくしが立ち上がると、みんながこちらを向いてくれる。

 やはり★4カードを入手したことで、わたくしはもう代表として認められているんだ。


 段々と、教室内に明るいムードが戻る。


「もう初っ端からさ、他クラス蹴散らしちまおうぜ? それがいい」


 クラス間の戦いは、マナ石の納石数による競争だと言っていたから、直接どうこうできる話だとは思わない。

 つまり、その言葉が示す意味は――――


「待って一ノ瀬。正々堂々と競争すべきだよ。足を引っ張ることも戦略の一つかもしれないけど、そこで手札を晒して、逆に対策されるかもしれない」

「二宮に賛成じゃ」


 早くも仲良くなったらしい一ノ瀬壱郎と二宮双真。そして三枝品未。

 三人とも、★3のカードを入手している生徒だ。しかも一ノ瀬壱郎に至ってはそれがモンスターカード。ダンジョン攻略を進める上で、大事な戦力だ。


「んだよ、二宮に三枝。四辻の味方かよ?」

「そうじゃない。が、あれは正論だった。俺は勝つためなら、気に喰わない相手のアドバイスでも取り入れたい。代表はどう?」


 ――なるほど。

 彼らはわたくしが良いカードを持っているから、認めてくれているんじゃない。

 最も他クラスに対して勝算を打ち出せるのが、わたくしだから……中心にしてくれている。


 なら――わたくしは応えるわ。

 そうだ……わたくしのやり方で、四辻くんをギャフンと言わせるためにも!


「良い案があるわ。クラスで纏まるために、わたくしだけがみんなのカード情報を知っておく……というのはどうかしら」


 まだ、今の空気なら取り戻せる。

 そしてこの先わたくしがクラスの中心にいる為に、先んじて打てる手は打っておく。


 ――結果。

 わたくしの案には過半数が賛同し、任意という形で出来るだけわたくしに情報を集中させることになった。


 ただ少し気になることもある。


「慈雨奏さんだったかしら。あなたは★3のモンスターカードを持っているわね。明日の初ダンジョン、よかったらわたくし達に協力を――」


 すると、ピクリと肩が震え、一瞬だけ彼女の怯えた表情が垣間見えた。


 ふと視界に入った、一ノ瀬くんと三枝さんの顔色が、微妙な雰囲気を垂れ流している。

 二宮くんの顔が平然とした顔をしているだけに、対照的でわかりやすい。


 妙な雰囲気だ。


「えっと……私ですか? 私は――そのダンジョン、まだ怖くて」


 この反応……もしかして慈雨奏はわたくしと同じ転生者なのかもしれない。

 この世界の若者たちは、みんなダンジョンに魅了されているのだと、調べが付いているから。


「あー、確かにそうだよな。じゃあ明日は俺と代表と3人でダンジョン入ろうぜ? な?」


 そう言ってくれたのは、一ノ瀬壱郎。

 わたくしは何を言っていいのか切り出せなかったから、彼のような人材は助かる。


 ダンジョンは3~5人の少数グループで動くのが基本とされている。

 できれば★3モンスターカード所持者3人で早めに交流を深めるのも、手だろう。


「そうね。それがいいわよ。いいわね? 慈雨さん」

「じゃ、じゃあ……よろしく」


 良かった……これで、わたくしの派閥を強固なものにできるはずだ。

 他の人に台頭なんてさせない。


 クラスランキングも単なる競争なのだし、下手をしなければ、わたくしの評価は上がり続けてくれるだけだろうから。

 コツコツ地盤作りを進めましょう。



 ――そうして淡々と進んだ話の裏に、どんな思惑があったのか、この時のわたくしは、何も知らなかった。











୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『英雄ハクア・※※※※※※※※』

 ランク:★★★★※※

 属性:雷

 獲得条件:パックのみ。

 スキル:《神鳴り》

 英雄ハクア……真明ハクア・※※※※※※※※は優れた改心率を誇る英雄である。ただし打たれ弱い。


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