第7話 カード公開

 モンスターカードのランクには大きく三段階の違いがある。

 まず★1・2は一部属性付きがいるものの、殆どが生身の人間でも戦える雑魚だ。

 次に★3以上からは、殆どのモンスターカードにスキルが追加される。

 最後に★4以上からは……英雄というカテゴリーのカードが追加される。


 ダンジョン内ではランダムステージと呼ばれる11層以降でしか出現しないから、パック限定と言っても過言ではない。

 英雄カテゴリーは、人間と相違ない姿形をしているものの、その力は現代人の比ではない。


 彼らは神話の時代にダンジョンへと沈み、カード化したとか、または何者かがカードに保存したとか、所説ある。

 まあ……実際には後者が真実であると、後に判明するのだが。

 それはともかく――


 英雄クラスもまた……超越装備と同じ、唯一無二の個体と言えるのである。


『英雄ハクア★★★★』


 君塚澪が公開したモンスターカードは、まさかの英雄カテゴリ。

 さすがのボクも、これには驚いた。


「えー、★4……すっご」

「いやランクより、英雄カテゴリの部分がヤベーよ」

「英雄……?」


 すかさず、ボクはクラスメイト達の様子を見る。この世界の住人において、これもまた常識の話だ。

 何人か転生者を確信した生徒を発見し、ボクはメモを取った。


 ちなみにボクの引き当てたモンスターカードは『サンダーバード★★』と『ウォーターフロッグ★★』……恐らくこの2枚をレベル10にしてもpvpで、『英雄ハクア★★★★』レベル1には手も足も出ないだろう。

 ランクには、それだけの差があるのだ。


 1組代表として名乗りを上げた君塚を筆頭に、周りのクラスメイト達も次々と手札を公開する。


「おい、俺のもすごいんじゃね?」


 そう言ったのは一ノ瀬壱郎だった。

 身長が高いから、すぐに名前が出てきた。

 彼が公開したのは『トレント★★★』……土属性のモンスターカードだ。

 『トレント』はいずれ進化先が強いので、育成しがいのモンスターカードという認識を持っている。


 そして、最後にもう1人、声を上げる者がいた。


「あ、あの……これどうでしょうか」


 声の主は、慈雨奏。

 そして公開したカードは、『ライトシープ★★★』だった。


「★3以上のモンスターカード所持が、最初から3人だと……? こりゃ1年生の中じゃ1組が圧倒的だな」

「そうなんですか?」


 清原先生の興奮気味な言葉に、二宮が質問する。


「ああ。何しろ、『入学記念カードパック』は★3以上のモンスターカードの確率が最底辺のパックだからな」


 これで最底辺……それは先生の言う通り。

 つまり来月からは徐々に★3以上のモンスターカード所持者も増える。

 だが、肝心なのはスタートダッシュということだろう。


「だからこそ、クラスに1人でも★3を当てた奴がでると、他クラスよりリードできる! もしかしたら、早々に上級生のクラスの順位を越える可能性だってある!」


 清原先生は声高らかにそう言って、生徒達を奮い立たせる。


「じゃ、じゃあ――」

「おう、今年1年……1組が断トツかもしれないぜ」

「おおおぉぉ!!」


 教室内が喧騒に包まれる。

 自分達の【学内序列】が悪くても、クラスによる救済で、チャンスがあるというのは、それだけ肩の荷が下がるというもの……なのかもしれない。


 だが、ボクは思う。

 ――んなわけあるか。


 ハッキリ言って、クラス順位なんて宛にする方が馬鹿だ。

 個人の序列で得られるパックは2つ。

 どう考えても、個人の力を伸ばすようにした方が効率的だ。

 他人に頼って、怠けて生き残れると考える連中の先は短いだろう。


 ここまでボクがクラス重視をコケにするのには、しっかりとしたエビデンスがある。


 これは『サモテン』でも検証勢しか知らないことだが、全7学年×1学年4組=計28組に配られる『序列カードパック(クラス序列N位)の排出率は、上から順に均等して7種類しかない。


 すなわち、単純な経験値不足で25位~28位にしかなれない第1学年において、クラス間の競争は、茶番でしかないのである。


 もちろん、『サモテン』世界では、第1学年でクラス序列1位を強引に勝ち取るなんて、バカみたいな検証をしたユーザーもいた。


 その方法とは、4月~2月の間、クラス全員の納石数を在籍要件の最低限まで減らし、11カ月連続28位から、第1学年最後の3月にすべてのマナ石を納めるという力技だった。


 ……普通に非効率の極みであり、ユーザーの間で『クラスランキング』とは、初心者を騙す運営の悪知恵とまで称されていた。

 まあ『サモテン』は一般ユーザーにはクソゲーと言われるだけあって、運営が鬼畜の極みだから、仕方ない。


 という訳で、ネタを知っているボクからすると、先生の台詞にも寒気を覚えるというものだ。


「誰かが問題を起こして、退学にでもならなけりゃ、1年は安泰だ。くれぐれもバカはするなよ? んじゃ、今日の授業はこれで終わりだ。お疲れさん……明日の初ダンジョンに向けて、よく眠るんだな」


 そう言って満足そうな清原先生は教室を後にした。

 しかし、その瞬間――教室の空気が少し悪くなる。


「誰かが問題って――」

「……さか、一ノ瀬くんの――」

「……だよね」


 ふと見れば、転生者っぽい反応を見せた数人が、こそこそと話していた。まるで調子に乗った誰かがいなくなるかもしれない……そんな風に聴こえる話だ。


 そんなことより、だ。

 『英雄ハクア』……素直に羨ましい。

 1学年全4組で144パック分。

 ★4排出確率が0.1%だと仮定して、1枚以上排出される確率は13%……けしてあり得ない話ではない。


 ただ確率は低いし、英雄カテゴリの具体的な確率なんてわからないけど、更に希少性が高いのは間違いない。


 だから……怖くもなる。

 ボクが前世で愛用していたモンスターカード『英雄シェナ』を先に誰かが引いてしまったら……そういう考えが怖い。


 尤も、『英雄シェナ』のステータスは全英雄の中でも最底辺なので、こちらが英雄カテゴリを持ってさえいれば、交渉の余地は充分にある。

 ただ……出来れば自分で引いておきたい。


 どうせ前世の知識アドバンテージがあるんだ。

 確率を上げる小細工はするつもりだが、本腰を入れた方がいいかもしれないな。












୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『属性』

 モンスターカード及び装備カードに設定される属性は主に6つである。

 そのうち無属性を除く5つには、属性相性が存在する。

 ←火←水←土←風←雷←

 無・希少属性。

 希少属性は、それぞれメイン属性に特殊な相性を持つ。

 ただし同属性のモンスターカードと装備カードを揃えるのは、他属性に比べて難易度が高い。


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