第5話 迷宮学園のシステム

 一年ぶりの入学式というのは、中々笑えない冗談だ。

 まあ仮面浪人したとか、そういう話ではなく……ボクは人生で累計何年高校生をしているのか、と不安になっただけである。


 累計というのは変か。ボク――四宮誠司の人生は一度終わっている。

 これからは四辻聖夜として生きていくのだから。


 ……それはそうと、だ。

 高校生活の年数を気にしているのは、この迷宮学園が7年制という部分にある。

 それも、全員が7年生き残れる訳ではない。

 加えて言えば、ここでの「生き残り」というのは、生死だけの話ではない。


「――であるからして、ここ迷宮学園では、不要な生徒には迅速に退学処置を行いますので、真面目に生活してください」


 学園長の話が長いのは、どの高校の入学式でも同じらしい。


 とはいえ、これはVRMMO『サモテン』では聞いたこともない校則である。

 そりゃ、『退学』でゲームオーバーだなんて設定があったら、それこそクソゲーだっただろうし、仕方ない話ではあるが。


 ともかく、だ。

 この学園で油断は許されない。

 ボク達がユーザーとしてダンジョンに挑むことだけではなく、日々の学園生活も生き残る為には重要だ。


 ――――なーんて、きっと他の転生者達は考えているだろう。

 天の声のこともあって、恐らく元クラスメイト達はこの学園で協力をしようとするはずだ。


 しかし、その動きを見せる者すなわち転生者というカミングアウトに当てはまる。

 正直言って、転生者は知識不足が大半だ。

 非転生者達が持っている常識を、彼らは持っていない。

 つまり、簡単に足を掬われやすい。


 ここはそんな簡単な世界じゃない。

 ボクは――ソロで挑むつもりだ。


 最初は足踏みを食らうかもしれない。

 だが……いずれ誰にも追い付けない所まで、行ってやる。

 そして今度こそ、ボクはエンドコンテンツへと挑むのだ。


「世界中にダンジョンは複数存在しますが、すべてのダンジョンの内装、出現モンスターは同じです。我々迷宮学園は、それらダンジョンの内一つを独占しており、生徒の円滑なダンジョン攻略をサポートします」


 そう――学園長の話す通り、ダンジョンは迷宮学園の一つではない。

 だが、何処へ行こうとまるでコピーアンドペーストされたように同じなので、恐らく一ヶ所への人口集中を防ぐための設定だろう。


 ダンジョンは、各層が異常に広い。

 まだ入っていないが、入学前にネットサーフィンで得た公開されている地図によると、東京都の10分の1くらいの広さがある。


 だから、上級生の中には学園に許可を取って、ダンジョン内に構えた工房で日々を過ごす生徒も多いと言う。


 この時点で、地球の頃とは常識が何もかも違うのがわかるだろう。

 しかし、転生者達はきっと驕っている。

 心の中で、何とかなるだろうと考えているに違いない。


 ボクの元クラスメイト達の地頭がいくらよくても、『原作小説が存在する舞台』という世界観が、『簡単に死ぬことがない』という先入観を与えている。

 それも、ボク達転生者は既にこの世界で、入学前の一ヶ月を過ごしてしまっているのだ。

 ダンジョンや迷宮学園を除けば、地球とそう相違ない世界観に、心が緩んでしまうだろう。


「そのため、上級生との縦の繋がりも大切です。もちろんそこには、将来的な派閥争いに関する上級生の思惑も含まれるかもしれませんが、自らの成長のために、躊躇ってはいけません。さて――私からの話は以上とします」


 どうやら、学園長の話が終わったらしい。

 とても長かった……既にリサーチ済みの話をこうも長々と話されるのは慣れないが、転生者達にとっては重要な情報ばかりだっただろう。


『続いて新入生代表――1年1組、君塚澪さん』


 アナウンスと同時に登壇したのは、知らない生徒。

 やや紫のような藍色の髪と目を持った女子生徒の容姿からは、1年生と思えないような大人らしさを感じた。


 それはそうと1年1組とは……ボクと同じクラスだ。

 ……もしかして、彼女は原作小説のメインキャラクターとか、そういうものなのだろうか。


「新入生代表……侯爵家、君塚澪です。わたくし達は皆が貴族ではありますが、ここ迷宮学園で権力を振るう事は許されません。わたくしは皆が平等に、手を取り合っていく……そんな学年を目指したいと思っています。それはクラス対抗に関わらず、切磋琢磨できる関係を望んでいるという意味でもあります。そして――まずは1年間、全員が生き残れることを、切に願っています」


 そうして新入生代表の言葉が終わる。

 綺麗ごとを並べているが、それもまた正解の形の一つかもしれない。

 しかし、生徒全員が足並みを揃えることは難しいだろう。


 ――理由は2つ。


 まず、この迷宮学園にある【学内序列】だ。

 迷宮学園の生徒達には3つの指標が存在する。

 『校内ランキング』、『学年ランキング』、『クラスランキング』だ。

 これらは、生徒個人がどの立ち位置にいるのか、自己分析をするための指標である。


 そして、【月末報酬】……これが大きい。

 学園は月末、生徒に1パック10枚のカードが内包されているカードパックが3つ配布される。


 前述した3つの指標は、そのカードパックの質に大きな影響を与えるのだ。


 例えば『序列カードパック(クラス序列5位)』では、内容物の排出率は――――

 ★4:4%、★3:36%、★2:60%


 に比べ、『序列カードパック(クラス序列28位)』では、内容物の排出率は――――

 ★4:1%、★3:9%、★2:90%


 更に同じランクでも、モンスターカード、装備カード、アイテムカードの排出率は違う。


 迷宮学園における実力とは、運×努力。

 【学内序列】は毎月変化し、自己を伸ばすも、クラスメイト達との絆を育むのも、すべてに意味がある制度を取り入れている。


 とはいえ、それは【月末報酬】の話。

 ボク達にとっても一ヶ月後の話。

 新入生には、『入学記念カードパック』が全生徒に配布される。


 これは『サモテン』でも、同様のシステムだった。


「たしか最初のパック……★5が排出されるという噂もワールドチャットで囁かれていたこともあったっけ」


 ――無事に入学式が終わった後。

 ふと思い出したことを呟きながら、まずは1組の教室へと向かうことした。












୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『在籍要件』

 1:毎月末、マナ石の納石を怠らないこと。

 2:所持マナ石がマイナスにならないこと。

 3:所持レッドカード3枚未満。

 4:契約違反をしない。


・『レッドカード』

 迷宮学園は、素行の悪い生徒などにレッドカードを与える。

 定期試験などにおいて、劣等生と判断された者に対しても与える。

 成績や功績によって、破棄が許されることもある。


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