1st ACT:ダンジョン&マーダーミステリー

第4話 (慈雨奏視点)

 私の名前は※※※※15歳……成績普通、運動神経普通、趣味なし、友達なし、彼氏なし。

 このまま私は、同じ15年を生きて、気付けば30歳になっていたんだと思う。


 でも――きっとその方が幸せだった。


 突然、真っ白な空間に連れて行かれて聞かされた転生の話。

 とても信じられない話なのに、どうしてか真実なんだって確信していた。


 そしてもう一つ……あの場では言えなかったけど、私は――『ダンジョンの召喚士』を多少読んでいた。


 本当に多少。

 読んだのは文庫本にして半分くらいのページだったと思う。

 展開がゆっくりで途中で飽きちゃったけど、設定や世界観に惹かれた。


 だから少なからず知識は持っている。

 転生先がどういう世界なのか、どういう学園なのか、どんなに過酷なのか。

 ――誰が死ぬのか。


「……最初に死ぬのは…………私だ…………」


 慈雨奏――それがこの世界での、私の名前。

 そして、原作小説では最初に死ぬモブキャラの名前だった。




 これから私達は迷宮学園へと入学する。

 原作小説ではあまり触れられていなかったけど、迷宮学園の新入生は全員が貴族なのだ。

 迷宮学園の外は、日本と殆ど変わらない世界観なのに、それでも爵位制度が残っている。


 慈雨家は子爵家だ。

 爵位序列的には真ん中……高位になるほど家の数も少ないから、子爵でも高い方だと思うけど、それでも権力という権力はないに等しい。


 入学後は、敷地内での寮生活となる為、家族と顔を合わせるのも残りわずか。

 といっても、その時間もまた、平和ではなかった。


「え……?」

「ですからね、奏さん。公子の交際相手になれたのですから、早く跡継ぎを産んでくださる?」


 この母親は何を言っているのだろう。

 これから高校へ入学するというのに、直前になって跡継ぎの話だなんて……。


 というか、私に交際相手がいるだなんて話は初めて知った。

 こんな話……原作では慈雨奏が死んだ後でも無かったと思うんだけど。


 けど相手は公爵家の子息……公子だ。

 悪くない相手ではあるんだろう……私が転生者でなければ。

 そして――相手の名前が、小説に出てこないモブの名前でなければ。


「迷宮学園への入学手続きは済ませているけど、入学式までの一週間……彼の家へと行って夜這いなさい」

「……はい」


 この世界のアイテムカードは便利なもので、日常品から不思議な道具まである。

 高級ではあるものの、子を孕む予兆を判別するアイテムカードもあるということ。


 私に拒否権はない。

 恐らく……妊娠すれば、迷宮学園への入学は取り消されるだろう。

 それは不味い。

 この国では、迷宮学園へと入れない貴族の扱いは凄まじいほどに酷い。


 迷宮学園の退学者と併せて、完全な落ちこぼれというのが、常識として根付いている。

 それも容姿の良い女であれば、想像もしたくない末路が待っているだろう。


 もちろん、私がお世継ぎを孕んだとして、公子は平気な顔で迷宮学園へと入学できる。


 とはいえ、夜這いして性交渉したところで、母親の思い通りにはならないだろう。

 それは大前提として、この物語が破綻してしまうから。

 ――私は、ダンジョンで最初に死ななければいけない、必要な犠牲なのだから。


 だから、神様は私に子を授けてくれない。


 どの道、こういう話なら……私がどうして死ぬ嵌めになるのか、何となく察しが付いた。

 迷宮学園へ入学後も、私は公子に従って動くことになる。


 つまり……公子に思惑に巻き込まれて死ぬのだ。


 希望があるとすれば……公子が転生者である且つ、前世が女子である可能性に賭けるしかない。

 天の声の話では、誰が誰に転生するのか明かされていなかった。

 あれは、性転換の可能性があることを仄めかしていたに違いない。


「きっと、そう――そうであってください」


 慈雨奏の容姿は、かなり良い。


 艶のある銀髪に、琥珀の瞳。

 豊満な胸に見合うモデル体型。

 美人……というには、顔は可愛いけど、肌は真珠のように白く綺麗。


 前世とは比べ物にならない容姿を鏡で見て、私自身惚れてしまいそうになった。


 だからこそ――手を出していいと言われて出さない方がおかしいだろう。


 公子の好みでなくても、使い道が沢山あるのだ。

 どの道、私に幸せな未来という希望は僅か。


 ――そう希望と絶望の未来を脳内で繰り返しながら、気付けば私の乗る高級車は、公爵家の目前へと迫っていた。











୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『マナ石』

 モンスターを撃破することでドロップするか、踏破報酬によって入手可能。

 学内商店では、このマナ石でカードを購入できる。

 また迷宮学園に毎月一定数以上納める必要があり、この納石数が【学内序列】にほぼ直結する。

 ダンジョン内では、マナ石の所持量によって、近場のモンスタースポーン確率が上昇する為、適度に地上へと戻ることが推奨される。


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