第3話 天の声(2/2)

 ボクは今、どんな顔をしていたのだろう。

 自覚はある。

 ゲーム如きの目標一つで、何をそんなに感情的になっているのか、と。

 でも、人間の悩みなんて……そんなものだろう?


『皆さんの不安は御尤も! ですが、きちんと衣食住には困りません! 先ほども申し上げましたが、転生先は小説の世界です……ダンジョンがある、ジャンル《現代ファンタジー》の世界ですから、日常生活に困ることはありません! もちろん、爵位制度など多少の中世要素もありますけども』


 ……ん?

 今、聞き逃せないことを言われた気がする。

 ダンジョン……だと?

 話が変わって来た。

 ボクはダンジョンに……夢を持っているのだから。


 小学生のようなガキ臭い夢かもしれない。

 だがボクは、夢でもいいからあの世界……『サモテン』のようなダンジョンへ行ってみたくて――。


『さて、皆さん気になる原作小説ですが……発表致しましょう! その小説のタイトルは【ダンジョンの召喚士】です!』


 嘘……だろ?

 ボクはその小説を読んだことがない。

 しかし、タイトルは知っている。

 何しろ、当タイトルは……『召喚士と七大神殿』の原作小説だったはずなのだから。


『結構、地球でもコアなファンの多いライトノベルだったのですが、まあ皆さんご存知ないでしょう』


 あれ……?

 ボクは知ってはいるけど……。

 さっきまでボク達の心を見透かすような口調だったけど、もしかしてボク達の心が読めている訳ではないらしい。


 いや、天の声もそこまで万能ではないのか。


「お、俺……知ってるぜ? 読了してる」


 突然そう呟いたのは、市川カズトだった。

 クラスメイト達からは、「おおーっ」という声が上がる。

 ボク以外にも……というか、ボク以上に詳しそうなヤツがいた。

 だが――――


『そうなんですかー。まあ原作小説ではダンジョン殆ど踏破できていませんけどねー』


 意外にも、天の声の反応は淡白。さっきまでの口調からして、天の声は『ダンジョンの召喚士』のファンっぽかったけど、同担拒否なのだろうか。


 そんなことより、ボクは早く転生について説明してほしいんだが……!


『さて、まあわからないタイトルを言われても、皆さん何にもわかりませんよね。では、あなた方の転生先の世界について、前情報を授けましょう!


 そこは、カードを用いてモンスターを使役し、ダンジョンの深層を目指す世界。

 あなた方の転生先は、ダンジョンが付属している迷宮学園の新入生です。一度死んだら終わりのデスゲームですが、転生者の皆さんは自由に行動して構いません。


 あなた方はダンジョンへ挑む者……ユーザーです。


 ダンジョン100層へ到達したユーザーには、あらゆる願いを叶える特典を与えてさしましょう!』


 天の声の言葉に、クラスメイト達の顔色は明るくなる。

 あらゆる願いを叶えるという言葉……そしてその恩恵を受けられるのが、先着1名などではなく暗に何人でも、と言っているのだから。


 しかも願いが1つだなんて言っていない。

 地球に帰ることもできれば、願いを増やすことだってできるのだ。


『ただし、皆さんの誰が誰に、どのクラスの生徒として転生するのかは、明かされません。迷宮学園の新入生には、原作小説のネームドキャラもいますし、非転生者の現地民も含まれますから、仲間を探すのも、ソロで挑むのも自由です! もちろん、今世は誰とも慣れ合わず一人で生きてみたくて、自分が探されたくないよって子もいると思うから、少し経ったら転生者同士連絡を取れるようにしてあげます。これが出来うる限り最大のサポートだと思ってくださいね。


 では――準備のできた方から、扉へとどうぞ』


 天の声が告げると同時に、現れた大きな扉。

 その向こうには、真っ黒な空間が広がっている。

 次々と入って行くクラスメイト達。

 皆、転生に希望を持って、疑うことができない。

 天の声は――嘘を言っていないのだから。


 そう、嘘は言っていない。

 だが、ボクだけは――知っている。


 ダンジョン100層……それは『サモテン』の最終エンドコンテンツ。

 その難易度は――――不可能。


 それは『サモテン』世界のダンジョンが、普通ではない構造をしているからである。

 ある階層から、このダンジョンは『ランダムステージ』というユーザーの攻略や対策をすべて無に帰す鬼畜システムが採用されているためだ。


 恐らく★6のモンスターカードに、★6超越装備カンストレベルが揃っても、60層が限界だと思う。

 だが、もし……もしも★6超越装備のカンストレベルが99でないとすれば、不可能ではないかもしれない。


 その場合、到達できるユーザー数は最大9名だろう。

 超越装備は9つしかないからである。

 それとも長い時間をかければダンジョン100層も不可能ではないのだろうか。


 まあボクは――超越装備のうち、2つ以上あって初めて現実味を帯びる話だと思うけどな。


 すなわち、もし本当に『サモテン』世界へと転生するなら、超越装備の獲得競争になる可能性が高い。


 とはいえ……だ。

 『サモテン』はユーザー数が殆どいないVRMMOゲーム……しかもボクはランカーだ。

 つまり、このままいけば知識で超越装備の2つ3つは獲得できるかもしれない。


 『ランダムステージ』が原因で、知識があっても独占できる超越装備の数は限られてくる。


 ただ超越装備を獲得するための超越ステージは初心者ユーザーが簡単に挑戦できる難易度ではない。

 知識がいくらあっても、である。

 そしてボクが成長する間にも、獲得までの過程となる情報はクラスメイト達の耳に入るだろうし、独占は不可能である。


 そうはいっても、最初から獲得条件やバグを知っているアドバンテージはボクにある。

 やり込んだゲームの世界……熱くなれない方が異常だ。


 ボクも……大きな扉へと、足を進めていた。




 そして目覚めると、そこは――ベッドの上。

 ただのベッドじゃない。天蓋の付いた上、フカフカで明らかに豪華な装飾の施された高級感溢れるベッドだ。


 近くにあった大きな鏡を見て、ボクは自分が誰なのか気付いた。

 ボクはこのキャラクターを知っている。


 そうだ、ボクの名は――――












୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈目録┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧


・『モンスターカード』

 モンスターを封印したカードであり、契約者の命令に絶対順守する。


・『装備カード』

 モンスターカード一枚につき、装備スロットの数だけセット可能。

 無属性を除き、モンスターカードに装備する場合、同属性にのみ装備不可。

 ユーザーもまた装備可能であり、全属性に対応可。


୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧

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