「月」

人類がまだ

月がなんなのかさえ

わからなかった頃

月は、月以外のなにものでもなかった

人類がまだ

月をただ美しいとだけ

おもっていた頃

それは月と呼ばれるようになった

人類がまだ

夜空を見上げ

歌を詠んでいた頃

月を愛しい人にかさねた

人類がまだ

世界中で戦争をしていた頃

月は暗闇を照らす

救いの明かりだった

人類がそろそろ

月に行こうと言いだした頃

いらんことをするなと

誰かしらがおもった

人類がようやく

月面に到着したとき

そこはただの枯れた球体だった

顕微鏡から覗いた

プレパラートの上の

まるめた鼻くそみたいに

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