「いまのわたしは」

警棒を手に

駐屯地の周りを

暗闇の中を歩いていく

営内舎の裏手にある丘からは

福知山の街が一望できる

美しい街の灯りを見るたびに

このひとつひとつに

家族の営みがあり

こんなにも沢山の

しあわせがあるというのに

鉄帽を被り

戦闘服に身を包んで

ひとり闇に佇んでいる

いつの日か

あの灯りを手にすることが

できるのであろうか

そうおもいながら

いつもあの丘を下った

あれから

あの灯りをたしかに

手にしたこともあったが

束の間の灯火であった

いまのわたしに

許されている景色は

鉄格子の隙間から

見える青空と

風に揺れる草花だけである

美しいはずの

それらを見ても

いまのわたしは

なにもおもうことはない

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