第3話

a.s.c.p本部が置かれているビルの一室。部長は、『国会議員殺害事件における異星人関与の可能性』と書かれたレポートを机の上に置くと、くわえていたタバコの煙を静かに吐き出して伊波に語り掛けた。



「伊波君、君の報告は実に素晴らしい。引き続き犯人確保に向けて捜査を続けてくれ。」

「部長、ありがとうございます。ところで、小山田刑事の方の捜査で進展はありましたか。」

「彼らの方では、死亡していた右翼団体幹部を犯人として捜査を打ち切るつもりだ。」



部長は眉をひそめながら、重い沈黙を破った。



「しかし、異星人移民が関係しているとなると簡単に諦めるわけにはいかない。一般の警察が見落とした可能性のある証拠を見つけ出すことが、我々a.s.c.pの責務だ。」

「はい、部長。私が責任をもって事件の解決に向けて全力を尽くしたいと考えております。それと、報告書にも書いていたお願いなのですが.......」

「わかっている。ギル星人の女の子だろう。伊波君の要望どおり、協力者として捜査に参加してもらうことになった。しかし、彼女はギル星人だ。くれぐれも用心してくれ。」

「彼女には十分、配慮します。一般人ですから。」



伊波は部長に対して力強く宣言した。伊波の言葉に部長は満足そうに頷いたが、まだ懸念を抱いているようだった。



「伊波君、ヤー・チャット・ラーに関しては、異星人であるということを考慮しながら、情報開示には慎重に取り組んでくれ。もしかすると、彼女の周辺に事件の関係者が潜んでいるかもしれないのだからな。」

「了解しました、部長。事件解決に向けて全力で臨みます。」



部長はうなずき、伊波に信頼を示した。



「伊波、君は優秀な捜査官だ。頼んだぞ。」

「ありがとうございます、部長。」

「厳しい捜査になると思うが、頑張ってくれ。あと、戸口信の検死が終了したとの連絡を受けた。詳細の説明は担当の者に聞いてくれ。」

部長は優しく励ましの言葉をかけた。


伊波は部長に一礼すると、意志を新たにして部屋を出た。彼は、事件の真相を明らかにするため、ヤー・チャット・ラーと捜査に取り組む決意を固めた。



伊波とヤーは、戸口信の死因について監察医からの詳細な説明を受けるため、法医学部門へと向かった。彼らが到着すると、担当者は既に待っており、彼らを迎え入れた。



「伊波刑事、ヤー・チャット・ラーさん、こちらの報告書に目を通してください。」

担当者は厳かな面持ちで二人にファイルを手渡した。

「戸口信議員の死因は、一見すると胸に刺さったナイフによるものと思われましたが、実際の死因はそうではありませんでした。」



伊波がファイルを開くと、そこには詳細な解剖結果が記されていた。”脳組織が溶解している”という衝撃的な事実が、冷徹な医学用語で記述されていた。



「これは一体どういうことですか?」

伊波が問いかけた。



「議員の脳は、何らかの強力なエネルギーによって内部から溶かされています。外傷は一切なく、このような現象は私の経験上、未知のものです。」

担当者は深刻な表情で答えた。



ヤー・チャット・ラーはその言葉を聞いて、静かに息を呑んだ。彼女は伊波に向き直り、重大な秘密を明かす覚悟を決めた。



「哲司、私たちギル星人には、第三の目があるのは知っているわね。この目は特殊な能力を持ってて、光を放つことができるの。そして、その光を直視した者の脳は溶かされてしまう。」



伊波はヤー・チャット・ラーの言葉に驚愕し、彼女の額にある第三の目を見つめた。その目は閉じられており、何の光も放っていなかったが、その存在が示す意味は計り知れないものがあった。



「つまり、この犯行は......」

「私たちギル星人の犯行よ。」

ヤー・チャット・ラーの声は小さく、確かなものだった。



伊波は深くため息をつき、新たな事実を受け入れた。この事件が異星人による犯行であるという確固たる証拠を手に入れることになった。



右翼団体の会議室は、緊張感に包まれていた。壁には国旗が掲げられ、中央のテーブルには戸口信議員が集めた資料が無造作に置かれている。部屋の隅には、黒いスーツを着た男が立っていた。彼の額には、閉じられた第三の目がある。その男こそが、戸口信を殺害したギル星人アー・メット・ライだった。



「これで国会議員たちを思いのままに操れる。戸口信が死んで、これほどまでに我々の手に力が集まるとはな。」

団体のリーダーが資料を指しながら言った。



「私の力を使えば、地球人を殺すことなど造作もないことです。ただし、私の要求が満たされること。それが条件です。」

「当然だ。お前には、地球での不自由ない暮らしを保証する。その代わりに、お前の力を貸してもらう。」

「いや、気が変わりました。地球人の話すことなど信用できません。ここで死んでもらいます。」



アー・メット・ライの第三の目から放たれた閃光が会議室を包み込むと、右翼団体のリーダーはその場に倒れた。彼の脳もまた、強力なエネルギーによって内部から溶かされてしまったのだ。アー・メット・ライは冷静にその様子を見つめながら、次の一手を考えていた。



「地球人たちの政治を操ることは、私の目的ではない。奴らに、報いを受けてもらうことだ。」



アー・メット・ライは、自分の行動がもたらす影響を深く理解していた。彼は、地球人が異星人を奴隷のようにこき使う現実を憂いていた。差別と偏見に満ち溢れた社会は、地球人に与えられている権利を異星人だからという理由で与えていない。



地球での暮らしは彼の心を腐らせるには十分だった。アー・メット・ライが地球で暮らしていたある日、地球人の女性と出会う。彼女は、異星人に対する偏見を持っていなかった。二人は、お互いの文化を尊重し合いながら、徐々に距離を縮めていく。



やがて、アーは、彼女との関係を通じて、地球人と異星人が互いに理解し合い、支え合うことの大切さを学ぶ。彼は、自分の力を使って、異星人と地球人の間に新たな架け橋を築くことを決意する。



しかし、この幸せも長くは続かなかった。彼は、恋人との幸せな時間が彼の心に深く刻まれる中、突如として地球人の暴漢に襲われ彼女を失った。その日以来、彼の心は激しい憎しみと復讐心に満ち溢れていた。



彼は、地球人たちによって奪われた愛する人のために復讐することを決意した。彼の心は、ただ一つの目的に向かって燃えさかり、彼は地球人への復讐を果たすために全力を尽くすことを誓った。



「嫌なことを思い出しましたね。」

アー・メット・ライは精気の無い声音で言葉をつぶやいた。

「それでも、私は前に進まなければならない。異星人移民が虐げられるこの地球を変えなければ。そして、あの人を奪ったことへの贖罪を地球人に......」



彼は、戸口信殺害事件の犯行声明を行うため、地球全体に向けて動画メッセージを送ることに決めた。彼の目的は、地球人たちに自らの存在と異星人移民たちが受けている差別や苦しみを知らしめ、地球の支配から解放されるための闘いを呼びかけることだった。アー・メット・ライのメッセージは、地球のテレビ局やインターネット上で一斉に放送され、世界中の人々に届けられた。彼は、冷静かつ強い口調で語りかけ、自らの行動の理由や目的を明確に伝えた。



「私はアー・メット・ライ。異星人だ。戸口信を殺したのはこの私。」



彼は、戸口信の殺害についての責任を認め、その理由を述べた。



「戸口信は、異星人移民たちを差別し、弾圧する地球人の政策を支持していた。彼は我々の存在を脅威と見なし、我々を排除しようとしていた。しかし、それは許されることではない。」



アー・メット・ライは、地球人たちに対して自由と平等を求め、異星人移民たちの権利を守るよう訴えた。



「地球に住む異星人移民たちよ、地球人の支配から解放されるために戦え。これからは、私たちが異星人移民が地球を支配する。」



彼のメッセージは、地球全体に大きな衝撃を与えた。地球人は彼をテロリストと非難したが、異星人移民は彼の言葉に共感し、彼の呼びかけに応える準備を始めた。アー・メット・ライの行動は、地球人と異星人移民の関係に大きな影響を与えることになる。彼のメッセージは、自由を求める新たな運動の始りとなった。

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在地球異星人犯罪特別警察ーa.s.c.pー 殿下 @dennka

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