蛤のおつゆを作ろう!

蘭野 裕

いただきます

 2024年2月22日。

 父がお世話になった方の息子さんから「冷蔵」のシールを貼った宅配便が届きました。

「活はまぐり」と伝票に書いてあります。

 雛まつりのころに蛤のおつゆを作れるように、ということでしょう。有難いことです。


 ちょうど外出しようとしていたところで、すぐ箱を開けずにそのまま冷蔵庫へ。

 帰宅してからお礼の電話をかけ、開封は午後になりました。


 掌ほどの大ぶりの蛤が1ダース……いや、そのうち1匹だけ普通サイズがいます。

 これに砂を吐かせます。大きなボウルに移し、塩水に浸してしばらく置いておくのです。

 ネットで検索すると短時間で砂抜きする方法が出てきますが、このさい母が教えてくれたのと同じ、私にとって馴染みのあるやり方にしました。


 というのも、貝を塩水に入れておくと、足を出したり水を噴いたりする様子を観察できて面白いのです。

 水滴が飛んでも困らないよう、貝を入れたボウルはさらに大きく高さのあるダンボール箱に入れ、当家で営んでいる店の倉庫に置きました。


 しかし今回はほとんど貝が動きません。冷蔵庫にいた時間が長かったからでしょうか?

 この日はほかにも頂き物をしたので、蛤は夕食になりませんでした。


 2月23日。

 倉庫を見たバイトのお兄さんが、蛤の大きさに驚いていました。

 蛤用のボウルを置いたダンボール箱の内側に水滴の跡。貝が水を噴いたようです。生きています。


 夕食に、2つ取り出しておつゆにしました。凝った調理法の話にならなくて読者の皆様に申し訳ないのですが、出汁の素を入れたお湯で加熱するのでした。

 3人家族ですがそのとき父は貝を食べたい気分ではなく、後で食べたいようならまた作るつもりでした。

 母と私はぷりぷり美味しく頂きました。


 さらに夜、明日のために3つ鍋に入れます。

 お湯と出汁の素を足して、蛤が3つとも開くまで加熱するのです。開くたびに貝殻がぶつかり合ってカタッと音がします。おたまが押されて動き、鍋の蓋がすべり落ちたりします。


 貝を生かしておく用のボウルの塩水を取り替えました。


 2月24日。

 昨夜加熱したの美味。

 ボウルの中に残っている貝は足を出したりして、数が減ったぶん前日より少し自由に動いているように見えます。


 2月25日。

 鍋に残っていたのを美味しく頂きました。

 夕食後に空になった鍋を洗い、その後、翌日のために3つの蛤をおつゆにしました。

 一つは鍋底にぶつけたせいか開かなくてこじ開けてしまいました。臭くないから多分大丈夫。


 2月26日。

 朝ごはんに昨日作った蛤のおつゆを一杯飲みました。蛤が一つ入っていて美味。

 ボウルのなかの残り4匹を、そろそろ食べないと死んでしまうのではないだろうか……と気掛かりになるころです。

「食べないと死んでしまう」の意味がふつうと違いますね。


 ボウル組の生存を確認しようとしました。出水管・入水管を殻の外へ伸ばしているのが2匹いて、つついても引っ込みません。

 夕食の支度をするとき、ボウルごと運んでいると2匹とも引っ込めました。生きています。

 4つとも、ひとつずつおたまに載せて静かに鍋に入れます。

 1つだけ、殻の接続がズレて開きません。 

 こじ開けたら開きました。

 良い匂いがします。


 2月27日

 朝、急いで蛤のお汁をお椀に一杯食べました。

 ところで、まだ書いていませんでしたが、蛤の殻はだいたい調理の段階で鍋から取り出しています。

 加熱して開くころ中身がとれてしまいがちなこともあり、お椀によそるときに中身の在処が分かるように殻を除いて見やすくしたのです。


 2月28日

 おつゆに玉子が入っていました。母は玉子が好きなので、おつゆの鍋に玉子を割り入れることがあります。

 貝の出汁が出て美味しくなっていそうです。

 しかしその朝は玉子を食べたくなくて、玉子をよけて最後の1つの蛤を掬って食べました。

 こうして蛤を家族で完食しました。

 夜に玉子のおつゆをいただきました。


 2月29日

 と思ったら鍋の底にもう1つ残っていました。

 今度こそ完食です。

 ご馳走様でした。



(了)

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