【デスSIDE】好き好き好き好きだ~い好き

 「大丈夫だよオーガ。私は何処にも行かないからね」


 妖精はこの世で最も醜い生き物だ。

 それは私自信が妖精として生きていく中で強く実感できるものであり、経験に裏付けされた事実。


 よく、人間は欲深い生き物だと揶揄される。


 ゆえにおぞましく、ゆえに強く、ゆえに醜い生命体であると。


 しかしながら、妖精の欲深さはそれをはるかに超えている。

 欲のジャンルが極小であるがゆえに問題視されていないと言っても過言ではないだろう。


 私達妖精は自然現象から生まれた化身。

 私達が望むのは、自分を生んでくれた現象を愛でる事。


 昔、花の妖精が世界中の国土の9割を花で埋め尽くした事があった。

 

 その花を食べられなくなった草食動物が絶滅、連鎖して肉食動物が絶滅した。

 一機に花が増えた事により大気がガラリと変わり、食に困っていなかった動物も絶滅した。


 そう、妖精は人間以上に欲深くて愚かなの。

 そうして世界を何度も滅びの危機に陥れて、ついには満足に力を使えなくなるほど弱くなった。


 「私がオーガを捨てるわけ無いじゃない。こんなに濃い死の匂いを持つ君と一緒に居る事こそが、私の幸せなんだから」


 だから私達妖精は人間に寄生することにしたんだ。

 各妖精が持つ欲のベクトルと寄生する人間の持つ欲のベクトルを同じにして、彼等の魔力を吸いながら自分の欲望を人間を通して発散させていく。


 だけど、私達は身勝手だ。

 

 寄生した人間が使い物にならないと判断したらポイと捨てて別の人間に鞍替えす。

 それが何年の付き合いであろうとも、どんなに友好的な関係を築いていようと関係ない。



 私もつい最近までそんな妖精の一人だった。

 今目の前で泣いている運命の人に出会うまでは。


 

 「ごめんなさい……ごめんなさい」

 「大丈夫。私は気にして無いよ」


 オーガは私にとって最高のパートナーに成れる逸材だった。

 だって何度でも死んで、何度でもよみがえれる。


 自分が死のトラウマを持っているがゆえに他の生物の死にも敏感で、彼が恐怖を感じる度に私の好きな匂いがむせかえるほどに濃くなっていく。


 オーガは死の恐怖に慣れる事はなく、彼の中で死と言う現象は永遠に陳腐なものになる事はない。

 それに、彼は私の力が無ければまともに生活も出来ない状態だ。


 どうにかして彼を手中に収めたかった。

 その為なら、私の尊厳も妖精である事の誇りも捨てて良いとさえ思えた。


 オーガさえ私の物になれば、私の欲望は永遠に満たされる。

 だって彼は他生命対の命を屠る力を持ち、自分の死さえも再現無く繰り返せるのだから。

 それに、私の作る妖精剣と相性抜群と言うおまけつきだ。


 これが運命の出会いでないというのなら何だと言うのか。


 「見捨てないで……こんな俺だけど、お前が居ないとまともに生活出来ないんだ」

 「うんうん」

 「スネアの野郎の所なんかに行かないでくれ、あいつのチート能力なんかに惹かれないでくれ」

 「心配すること無いよ。私は一度だって、スネア君に興味を持ったこと無いよ」

 「本当か?」

 「本当だよ。私は君と出会ってからずっと、オーガの事しか眼中になかったんだから」


 あの日、あの町で初めてスネア君を見たあの時の事はよく覚えている。

 彼に妖精を強制的に惹きつける力が備わっているのも驚いたけど、それ以上に驚いたものがあった。


 『なんか、凄い物見ちまったな。まぁ暴れた男も捕まったみたいだし良かった良かった』


 そう言うオーガの今にも崩れそうな表情。

 大量の妖精を引き連れたスネアに対しで恐怖を感じている事が手に取る様に分かった。


 それを見た瞬間、こいつは使えると確信した。


 スネアはオーガの中にある嫉妬心を燃やす良い燃料になる。

 嫉妬心を燃やして燃やして燃やし尽くして、その先オーガの心に残るのは私への依存心になるはずだ。


 二人が居ない時、スネアに寄生している妖精達にその事を相談すると、彼女達は快く手伝ってくれたよ。


 私の体にへばりつくオーガの吐瀉物も、ボーっとする私の意識も、この痛みも、鼻から垂れる血も、首のあざでさえも、全部全部オーガが私を求める心の裏返し。


 私のたくらみは想像以上の結果を残した。

 

 壊れた機械の様に私を求めるオーガの姿の何と愛おしい事か。

 その尊い姿を見せられて、私は思わず彼に抱擁した。


 私がオーガの頭を撫でる度、綺麗に見えるよう取り繕った本心を語る度、オーガの心がズブリズブリと私に依存する。


 ああ!!

 ああ!!


 何と美しい光景だろう。

 何と素晴らしい光景だろう。

 何と愛おしい光景だろう。

 何と尊い光景だろう。


 私は今、妖精として最良の快感を得ている!!


 「口で言ってもさ、きっとオーガは気にしちゃうでしょ?」

 「……」

 「だからさ、私と本契約しようよ」

 「本……契約?」

 「そう。妖精と契約者がず~~~っと一緒になる縛り。喧嘩をしても、仮に他の人を後で好きになったとしても、どっちかが死んだとしても。永遠に一緒」


 本契約なんて生き方を縛る呪いを行使する機能が何故妖精に備わっているのか、昔の私だったら理解することは無かった。


 でも今は違う。

 

 自分にとって最良のパートナーを自分の人生に縛り付ける事がどれだけ素晴らしい物なのかを知ってしまったから。


 今まで意地悪してごめんね、オーガ。

 でも、君を私の物にするには仕方の無い事だったの。


 「これでずっと一緒だよ」


 本契約を行う為の短剣を自分の体に突き刺す。

 そして次に、オーガの体に突き刺した。


 静かになった部屋に二つの鮮血が飛び散った。

 その血は絡めあい、互いの体の中に還元されていく。


 「本当に、ずっと一緒なんだな」

 「うん。これからも、二人で楽しく暮らしていこう」

 「ああ!!ああ!!俺、お前の為にもっと頑張るよ」

 「私も、オーガの為に色んな事してあげるね」


 これからはもっと愛し合おう。

 私は君から感じる死の匂いを感じとって、君が殺したモンスターの数多の死を堪能するよ。

 変わりに私はこの体と心を貴方に捧げるから。


 互いの欲を体にかけあって、べちゃべちゃになって元に戻れなくなるまで続けて生きていくの。

 

 それこそが、私達にとっての幸せなんだから。

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精神崩壊筋肉ゴリラと狂気的な【死の妖精】が結ばれるまで アカアオ @siinsen

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