第12話 ワタシ移動手段を得る。

それは本当に一瞬の出来事だった。


シュンッていう効果音が付いたかどうかくらいで、ワタシの存在はその場から消えて、


満開の桜の花が咲く、鹿さんの立派な角の、比較的見晴らしの良い天辺辺りに移動していた。


素早くワタシは下を見る。


鹿さんの睫毛は無事だった。良かった…ではなく、いや、良かったんだけど、見たかったのはそこじゃない。


ワタシが元々いたらしい場所、鹿さんの鼻先らへんだ。


…何も無かった。抜けた痕跡みたいなものとか、本当に、何も無かった。


でも、その代わり其処以外にはワタシの分身みたいな可愛い色とりどりの花が咲き乱れていた。


そこに混ざれないのはちょっと残念だけど、代わりに?大好きな桜の花に囲まれているからまぁ良いか。


ワタシの居場所♪素敵だ♪最高だ♪


もう良いか?という風に鹿さんがそっと顔を動かした。


ご機嫌で風に揺れるワタシ。


えっと、こういうの何て言うんだっけ?木に宿る別の植物。


そうそう、宿り木だ!


幸運だって言われてる植物だよね!


あれ?でもちょっと待って、これは枝に見えても鹿さんの角だよね?


動物に生える植物?は確か別にいたよね?


てか、あれは植物じゃなくてキノコで菌で、宿主を栄養にして育つ…うん、なんかこわくなったので思考をシャットアウトした(笑)

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