現代ダンジョンに置いてけぼりにされたFランク探索者が転生してAランク冒険者を皆殺しにする物語
川西郷授
プロローグ
——憎い。すべてが憎い。この世のすべて、あらゆるものが憎い。
……だから、世直しが必要だ。
10年前、突如として日本全国に無差別的に発生した異世界への門——通称『ダンジョン』。そして、予めそうなるように仕組まれていたかのように人々へ発現した能力の数々。それらは『スキル』と総称されるようになった。
そして、人々はダンジョンを利用した市場を作り上げ、それを中心とした階級社会を作り上げた。
持つ者は永遠の勝ち組となり、持たざる者は永遠の負け組となる。そんな世の中。
おかしいだろう? だから俺は、ぶっ壊したいんだ。この世のすべてを。
渋谷の地下深くにあるAクラスダンジョン。
鬱蒼とした赤い霧が立ち込めており、地上では見られないような褐色の植物がうじゃうじゃと生えている。
だから、この手の危険度の高いダンジョンの探索は高ランク帯の探索者にしか許されない。それは『総務省ダンジョン管理局』の規定によって定められている。
ただ例外で、そのパーティメンバーとして認められた場合において低ランク探索者の同伴も可能となる場合がある。もっぱら、それは文字通りの『チート』能力を持った探索者のみに限るが。
「おいおっさん! ノロノロしてんじゃねんよ!」
「ちょっと止めてあげなよレイトぉ~ キャハハハハ」
「……すみません」
前を歩く二人。男の方はレイト、女の方はカザミ。特に男の方はSクラスのチート能力『物理強化』の保持者であり、実際今までに出てきたモンスターの数々を一瞬で葬って来ている。
こいつらは俺のパーティメンバーであり、そして雇用主でもある。
俺の事は荷物持ち兼サンドバッグとして雇ったらしい。だが、この手の雇われ方と言うのは頻繁に起こる話だ。
日常的に繰り返される暴行に暴言。この手のダンジョンに入っている時は刑法が一切適応されない。そのためどんな行為も許される。特に上から下への暴挙。高ランク探索者による低ランク探索者への凶行は黙認されている。
「本当におせえな!」
「うぐっ⁉」
なんの脈絡も無く振り返って俺の腹に一発蹴りを入れた。
「てめえ」
ガツッ!
「みてえな!」
ガツッ‼
「クソFランを‼」
ゴスッ!
「雇ってやってるのは!」
ゴスッ‼
「俺様なんだぞ‼」
グギィッ‼
「ゴッボァ⁉」
ヤツの蹴りは五発ほど続いた。その全ては腹と胸に命中し、遂に俺は膝から倒れ込んだ。
「キャッハハハ‼ もう~レイトひどぃ~ あんまりやり過ぎると、この前みたいに使い物にならなくなっちゃうよ~」
「へっ、こんなゴミ、替わりなんていくらでもある。壊れりゃ買い替えるだけだよカザミ」
「さすがチート能力者様ァ~ キャハハ!」
「それに、トロすぎてうぜえんだよ、このおっさん」
ゴスッ‼
「ガッハァ⁉」
最後の一撃は俺の顔面にめり込んだ。
理不尽だ、あまりにも理不尽すぎる。なんで俺が。ただ生きているだけなのに。だが唇を噛んで耐えるしかない。目の奥が熱くなっても、それを零してはいけない。
序列。それはこの世界に生まれた者が背負わされる運命だ。逆らってはならないのだ。
管理局によって定められたガイドラインに従って、探索者は大まかにクラス分けされる。『Aランク』・『Bランク』・『Cランク』・『Dランク』・『Eランク』……そして、俺のような『Fランク』と。
その基準は単純で、先天的にしか獲得できない『スキル』の重要度によって決定されてしまう。そして最低ランクは何一つスキルを持っていない人間が属する階級になっている。
だが、これらは機能していない。何故なら人類の大半はそもそもスキルを持っていないからだ。
例えそれを持っていたとしてもAランクの奴らにとって都合の悪い存在となれば、管理局に圧力をかけてランクをわざと落とす。そして、人知れず消す。
だからこのランクの組分けなどAランクの奴らによって作られた出来レースなのだ。
「きゃ~ レイトォ! またモンスター!」
「へっ、また雑魚が来やがったのか」
ぼうっとする頭を何とか動かして、声がする方向を向いた。
山羊の頭を持った巨大な魔獣。2、3メートルほどはある。
筋骨隆々としたその身体からは熱が湯気として放たれ、紅い眼光をヤツら二人に向けている。
「って『ゴーテカ』じゃん! レイトォ、結構ヤバくないこれ?」
「こいつは前にも戦った事あるだろ! こいつも雑魚だ雑魚!」
「さっすがAランク様ぁ!」
「へへ。見てろよ……『物理強化』‼」
スキル名を叫んだレイトの身体が赤の先行に包まれた。
右手に持った金色の剣を大きく振りかぶり、目の前のゴーテカへ切りかかった。
それはしっかりとゴーテカの胸へ突き刺さり、ドロドロとした血のような紫色の液体がそこから漏れ出ている。
「凄いレイト! もうアイツ死にそうだよ!」
「だから雑魚って言ったろ?」
「けどぉ、アタシつまんないぃ~」
「ん? どうしてだよ?」
「だって、せっかくレイト独り占め出来てるのに、こんな簡単に終わるのつまらない!」
「へへへ、そうか……」
こんなダンジョンの中でするような会話じゃない。人の業そのもの。力を持った人間は本当に恐ろしい。
クスクスと笑いながら話す二人の視線は倒れ込む俺の方を向いている。
何をするつもりだ。きっとろくでもない事だ。だが、その目元はどこか恐ろしい。いつも俺を虐げて喜ぶ目とは違う。もっと、恐ろしい闇を感じる。
「なら、『アレ』でもっと面白くできないか?」
「アレって……ああ! 『アレ』の事ぉ~? でもどうやって面白くするの?」
「アレをゴーテカの前に置くんだよ。それで、どっちが生き残るか賭けをするんだ」
「うっそ! もうレイトったら鬼畜なんだから! キャハハ」
「でもその方が面白いだろ?」
「それな! キャハハ、マジウケる~」
何を言っている。
「おらぁ!」
ゴンッ‼
「ぅ、ぁあ‼」
背中を思い切り掴まれ、投げ出された。
目の前には遠くから見ていたゴーテカが涎を垂らしながら、今か今かと俺を食い殺そうとしている。
「おーいそこの雑魚! このゴミをエサにしてやるから、喰ってくれよ! ギャハハハ!」
「グォォアアア……」
凄い熱気と共にゴーテカが口を開けながら這いずって来る。
血生臭い臭い。それが鼻の中を突く。死が、死そのものが目の前に近づいてきている。
「ひ、ひぃ……‼」
嫌だ。死にたくない。
確かにクソな人生だった。Fランクの無能力者として生き続け、毎日高ランクの奴らにボコされてボロボロに使い倒されて続ける人生だった。
でも、こんなふざけた理由で死にたくなんかない。まだ、生きたい。
「ォァアアア……」
そんな思いは気にも留めずゴーテカは近づいてくる。
「キャハハッハ! もうレイト! 賭けにすらなってないじゃん」
「そうかぁ? でもゴミ掃除くらいにはなっただろ!」
「ウケる~!」
そう言いながら去っていくあいつら。甲高いあのクソ女の声すら、もう聞こえなくなった。
「グァァアア……!」
もう目と鼻の先にゴーテカは居る。ヤツの臭気と熱気で顔が爛れ始めている。
「……殺す」
その言葉は目の前の魔獣に向けた者ではない。
俺を捨てたあのゴミ共に。
呪い。あるいは呪詛。何でもいい。
絶対に殺す。何をしても殺す。
あんな世の中、あんな社会、あんな奴ら、全員皆殺しにしてやる。
「グォアアアア‼」
足を食いちぎられながら、痛みに嗚咽する。
だがその中で、俺の目には確実に映っていた。光の先へ消えていくあのクソ野郎二人組の背中が。
絶対に殺してやる。絶対に逃がさない。
もう半身の感覚が無い。俺は死ぬのだろう。だが終わらない。絶対に終わらせない。
「み……な、ごろ……し……だ……」
俺の一生はここで終わった。『三島泰雅』の32年の人生は。
だが、これは序章だ。『ロー・ドラゴ』と
現代ダンジョンに置いてけぼりにされたFランク探索者が転生してAランク冒険者を皆殺しにする物語 川西郷授 @kawaumi_gouju
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