祈呪
夏伐
通り魔
「強く思うことことそが『呪い』なのではないか。
ある出来事がきっかけで、私はそう思うようになったの。
学生の頃、バイト先で、会社員になってから。
仕事のミスやトラブルがあった時に、愚痴を言ったことはない?
死ね、と言ったとしても、実際には小さな不幸が降りかかればいいのに。このトラブルの代償として罰が下ればいいのに。
口にしたものと本当に願うものの差はそんなもの。
枝毛にショックを受ければいいのに、とか。
自動販売機で飲み物を買った後に、隣の自動販売機で十円安く売ってるのを見つけて損した気持ちになればいいのに、みたいな。
そのどれも「死ねばいいのに」という言葉に集約されている。
でも実際に死なれても困る。
だって後味が悪いもの。
これは私が中学生の頃の話なんだけど。
この時の後味の悪さは、今もずっとふとした時に私の心の中に浮かび上がってきて、闇の中から私が嫌な人間だと指をさして笑ってる。
これを読むあなたには、教訓だとちょっと偉そうかもしれない。まぁ、とにかく私と同じ目には合わないようにしてほしいの。
世界平和の思いは『祈り』になって。
不幸を願う思いは『呪い』になる。
あの頃も、今も私はぐだぐだと思い悩んでる。
本人に言い返すこともできない弱さ。だからこそ後味が悪いと思うのかもね。
中学には熱血教師で生徒に好かれているが、私とはなんだか合わない女がいたの。
『夏休みの目標』を貼るための掲示物のデザインを押し付けられた。
夏休み、ということで『お化け屋敷』を提案したのだが、『花火』『夏祭り』などではないということで小一時間も怒られた。
「夏休みの間に『自殺します』とでも目標を書けばいいわけ!?」
思えば、明るく前向きな目標を掲示するのだから、夏っぽい楽しいイベントの掲示物を作成しろという意味だったと思うけど。
その頃からその教師に対して『死ねばいいのに』を思うようになった。
私が不幸を願っているのとは真逆に、結婚して苗字が変わり、子供が出来た。
その間もずっと『死ねばいいのに』『不幸が起きればいいのに』。
そして願いが届いたのかもね。
教師の子供は流れた。
私が思ったから? 偶然なのは分かっているけれど、この事は私の心の中にずっと残っている。
中学生の頃の自分が笑いながら「死ねばいいのに」ふと指さしてくるのよ。
SNSで正義ぶって事件に評論とかしてしまう時ってない? カッとしてしまって、書き込んでいたりすること。
そんな時に、あの頃の自分が笑うのよ『死ねばいいのに』って」
ざわざわと騒がしい居酒屋で、私たちの周りばかりがしんと静まり返っている気がする。
マッチングアプリで出会った女が、私の隣でハハハと笑う。
怖い話を集めていた私は、話題作りのためにも「怖い体験ってしたことある?」と聞いたのだ。
女の、楽しそうにする口元とは反対に、深い闇を見つめた目が私を捕えていた。
その後は、私が今までに聞いた怪談なんかを話してその時のデートはお開きになった。
「ありがとう、今日は楽しかったよ」
駅で女と別れた。家に帰って個人チャットを開くと女のアカウントにはブロックされていた。
私と会っている間、きっとあの女は私のことを呪っていたのだと思う。
祈呪 夏伐 @brs83875an
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます