第39話 雨宿りは部室で
雨脚は、時間を追うごとに強まっていった。6時間目が終わる頃には、耳に障るほどうるさくなっていた。流石にこの中を帰る気にはなれない。部室で雨が弱まるのを待つとしよう。
先に誰かがいるだろうという予想の下、技術棟に来たが、予想は当たったらしい。技術棟の扉は鍵が開いていた。雨に当たらないように早めに中に入る。
部室までの階段を歩く途中でも雨の音が微かに耳に入ってくる。
部室に入ると、俺を見てわざとらしく驚いた男がいた。
「やぁつばちゃん。呼ばなくても来るのは珍しいね」
「雨だからな。弱くなるのを待つ」
窓の外を見る。まだ雨が止む気配はない。最近は梅雨の癖して雨は降らなかったのだが…晴れの埋め合わせとでも言うのだろうか。
「それより、2人は来ないのか」
「たけちゃんは来るって言ってたよ。ハルもきっと来る」
なんだ、今日は千春とは会ってないのか。そういえば…今朝の伊沢の様子を思い出した。
「今日、伊沢になにか変わったところはなかったか?」
梶原は、首を傾げて眉毛をひそめた。
「おかしなところ?特になかったけどね」
「そうか」
あれは俺の思い過ごしだったのか?まぁそうなんだろう。梶原もきっと、人の変化には敏感な方だろうと思う。こいつが気づいていないということはそういう事だろう。
「たけちゃんに何かあったの?」
「あぁいや。朝元気がなさそうだったからな。ちょっと気になっただけだ」
「ふーん。いつも通りだったけどね。眠かったのさきっと」
なるほどな、と小声を漏らす。確かに朝の伊沢というのはあまり見たことがなかった。単純に眠気というものを考えていなかった。不服だ。そんな当たり前のことに気づいてなかったのか、俺は。
少しすると、2人がやってきた。千春もどうやら雨上がりを待つらしい。彼の見た予報によれば、あと1時間もすれば弱まると言う。
「雨、すごいね」
席につくと、窓の外をみた千春が困り顔で言った。
「これから1週間この調子みたいやわ」
なんだ、今朝とはまるで違う笑顔じゃないか。
「雨が好きなのか?」
「うん」
窓の、そのまた遙か先を眺めているような気がした。俺達には見えないなにかを、伊沢の目は捉えているようだった。今朝とは大違いだな。と思わずいいそうになった。
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