第38話 雨の弊害
苦し紛れにも程がある。無理矢理作った笑顔は引きつっているに違いない。伊沢に見られていないのが幸いだ。
俺は伊沢の空気みたいな「せやな」という言葉を聞き、歩き始めた。
梶原のクラスを覗く。何度か来たことのあるクラスだから、もう梶原の席は覚えている。しかしその席を見ても梶原はいなかった。席替えをしたとは聞いてないので、単純に席を外しているんだろう。
「あ、おった」
「どこ」
「ほら」と伊沢が指さした。俺はその指先を透かしてその先を見る。窓辺で誰かと話している。あの後ろ姿は間違いなく梶原だ。何故か首にタオルをかけているようだが。
話し相手は女子だ。それもあの後ろ姿は、恐らく相川。同じクラスだったのか。梶原は人見知りもしないし自分からどんどん話しかけに行くタイプの人間だ。不思議なことではない。
人によって普通は違うが、あの梶原の行動は俺にとっての普通ではない。視界の端に映った伊沢を視界の中央に入れた。どう言葉で表せばいいのだろう。なにかを懐かしんでいる。そんな言葉が一番似合うような気がした。
「どうした」
少しして、伊沢が答えた。
「や、なんでもない」
まぁ本人が言うのならそうなんだろう。俺はそれ以上の詮索をしなかった。
「あ、時間やばない?大丈夫?」
ふと見たのだろう。伊沢が俺に催促してきた。確かに予鈴の5分前だ。
「そうだな。一回帰る。じゃあまた放課後な」
確か今日は、一緒に昼を食べる日ではなかったはず。
「ほな、おおきに」
雨は、日常生活にそこそこ支障をきたすことがある。電車の遅延や飛行機の便がなくなったり。行事と被れば中止なんてことも。野球の試合も中止になり、雨が涙に変わるなんてこともあり得るのだ。しかしそんな雨の影響はそんなハレの行事に限らず、例えば今日は、雨のせいで体育が保健の授業に変わったり、少し雨脚が強まったり雷がなれば、授業中であろうとクラス全体が少し興奮状態になる。それに伴った先生の雑談も挟まったりする。休憩中も、雨で廊下が滑りやすくなっているため、いつもより移動に注意を払わなくてはならない。昼休みも、中庭が使えないので学食の付近はさぞかし混み合ったことだろう。また普段なら騒がしい校庭も、今日は人の声というものが完全にしない。クラス内でも、雨関連の話題が多くなっていた。せっかく車を洗ったのに雨で台無しとお父さんが嘆いていたとか、洗濯物が乾かないと母さんが面倒がってたとか、そんなどうでもいい話題も聞こえた。いつもより、校舎内は普段の1.5倍うるさかった。
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