雨と雪と泡沫と
第37話 静かな関西人
雨、という漢字は、雨が降る様子をそのまま漢字にしたという説もある。そんな雨を一番実感させられる季節毎年5月の末から6月にかけての梅雨だ。湿度も気温も高い季節は、誰しもが「嫌だ」と感じたことがあるだろう。実際、俺も、俺の隣にいるやつも怪訝そうだ。
「毎日が雨やとやになんなぁ」
校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下。縁の淵に肘をついて伊沢が不服そうに言う。
伊沢から外へと視線を移す。雨音と車の音に負けないくらい生徒の無邪気な、子どものような声が響く。空は世界が終わってしまいそうなくらい暗い。
「湿度と気温、両方高いのはいただけないな」
雨粒は細かいが、どこまでも続く厚い雲を見ると、とてもいい気分にはなれない。しかしまぁ喜ぶ生徒もいるようで、俺達の後ろではこんな会話も聞こえた。
「なぁ今日オフじゃね?」
「それはアツいな。この雨ならあり得る」
「オフだったらカラオケ行こうぜ。久々に歌いたい」
「いや、ありや。うわテンションあがってきた」
運動部だろう。中学の時は、部活がなくなり落ち込むやつもいたが、高校になるとそうも行かないらしい。それほどまでに練習がきついのだろう。そんな話も、俺達には無縁だ。
しかし…ここまで伊沢は静かだったか?いつもうるさいというほどではないにしろ、無口なやつではなかった。
「そういえば…梶原たちはどこに行ったんだ」
あたかも今思い出したみたいに言う。実際は雨でテンションが落ちている伊沢の気を少しでも和らげてあげようなんていう気持ちもあったのかもしれないが、自覚すると恥ずかしくなってくる。
ただどこに行ったのか気になるのは本当だ。よく4人で集まるが、梶原だけは皆勤賞だ。その他はポツポツいたりいなかったり。千春も、今朝は伊沢といっしょに来ていたはずなのだが。
「荷物はあったからなぁ、トイレとちゃう?」
心なしかいつもよりテンションが低いようだ。もうなんだかんだ言って2ヶ月ほどの仲になるから少しわかってきた。
「そんなに嫌か、雨は」
あまりにも元気がなさそうなので、たまらなくなって聞いてみた。
「……」
伊沢が答えない…。俺は地雷を踏んでしまったのだろうか。不安になってもう一度その名を呼んだ。
「伊沢」
「なんや?ごめん聞いてなかった」
なんだ、単純に聞き逃しただけか。ただもう一度雨についての好悪を聞く気にはなれず、慌てて話題を用意した。
「か、梶原のクラスに行ってみるとしよう。トイレから戻って来ているかもしれないしな」
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