第40話 夢がないこと

「それよりみんな、中間試験はどうだったのかな」


「初めてにしてはそこそこやったな」

 

 伊沢のそこそこが、どのくらいなのかわからないが、穏やかに笑う顔から見るに、まぁ50から60が平均と見ていいだろう。


「梶原君と千春君やったら、どっちが頭いいんや」


 それは、俺自身も気になっていた。ナイスクエスチョン伊沢。


「海斗のほうがいいよ。僕は勉強があんまり得意じゃないから」


 意外だなと感心する。こう言っちゃ悪いが、梶原は頭が悪いと思っていた。少なくとも千春よりかは。


「文理で得意不得意があるじゃないか。文系科目なら俺は手も足も出ないだろうね」


「梶原は理系なのか」


「ああそうとも。文理選択は理系を選ぶよ。どうも国語ができなくてね」


「でも文系科目でも僕より良い点取るんだよ」


 千春の頭が悪いせいで大して頭の良くない梶原の点数がよく見えているのか、千春は別に頭が悪くないが梶原の頭が本当に良いのかは分からないな。


「ハル、今回のテストはどうだったんだい?数学Ⅰは」


「展開はできたんだけどね。因数分解がちょっと難しかったかな。それでも68点だった。平均より取れてた」


「平均より上から上々だよ。いやぁ教えた甲斐があったよ」


 68なら普通に悪くない。なら後者だったのか。感嘆していると、伊沢が俺に興味の眼差しを向けてきた。


「楠木君はどないやってん」


「俺か、まぁ、そこそこだろうな」


「平均点は」


「86.7」


 全員驚いていたが、一番驚いていたのはやはり梶原だ。


「高っ!つばちゃんそんなに頭良かったの!?」


 ちゃんと俺だって2週間前から勉強はしている。それに一学期の中間だ。1番点が取れなくてはならない試験。妥当だろう。これからの下がりようには見ものだ。


「いいなぁ。今度勉強教えてよ」


「能ある鷹は爪を隠すってやつかいな」


「大げさだ。元々ちと勉強ができただけだ」


「地頭がええねんな。羨ましい」


 伊沢は褒め上手だな。地頭がいいのはそっちもだろうに。


 千春が、文字通り何かを思い出したように梶原に話を振った。


「そう言えば、今日海斗自転車で来たの?」


 梶原は、日によって自転車できたり徒歩できたりというなんとも気まぐれな登校を送っている。


「今日は自転車さ。カッパを着てきたんだ。それでも濡れたね。タオルを持ってきておいて良かったよ」


 確か、朝も梶原は首にタオルをかけていた。あれは濡れた体を拭いていたためだったのか。


 今朝と言えばもう一つ…。


「梶原、今朝教室の窓際で相川と何を話してたんだ」


 なぜ俺はこんなことを聞いたのだろう。そんなこと聞く必要なんてないのに。梶原が誰とどんな話をしようと俺には無関係なことのはずだ。梶原さえも、一瞬珍しそうに俺を見ていた。


「相川から話しかけてきたのか?」


「違うよ。俺から話しかけたんだ」


「なんで?」と千春が聞く。俺と伊沢が聞きたかったことを代弁してくれて助かった。


「そりゃクラスメイトだからさ。気になることがあれば話に行くものだよ」


 そういうものじゃないだろ。やはり俺と梶原はずいぶんと違うんだなと実感させられる。


「そんな気になることあったんや」


「うん。雨の日だけずっと窓の外を見てるから話を聞いてみたんだ」


 雨の日だけ…。また限定的な。


「単純に雨が好きなんだろ」


「夢がないことを言わないの」

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