第27話 第2の目撃
遥か遠くに聞こえるが、確かにこの学校内からだろう。女の声での叫び声。複数聞こえたところ…生徒たちの声だろうか。
「また?!」
梶原が一般棟に振り返る。
「それと特定するには早いんとちゃう。他の事件ってことも」
伊沢。それはこいつに余計に油を注ぐぞ。
「だとしても、何かあったなら行かなきゃ!」
はあ、やっぱり。
案の定梶原は、勢いよく席を立ち、教室を出ていこうとした。
「俺も行く」
声の聞こえた方へは、俺と梶原だけで行くことにした。伊沢と千春には、また俺らが鍵をかけられたときのことを考えて部室に待機してもらっている。
外から聞こえたという千春の耳を頼りに、俺達は外に出た。すると駐輪場に続く道のところで固まって蹲る数人組の女子がいた。俺らの歩く左手にはグラウンドがあり、陸上部やサッカー部、野球部など多彩な運動部が活動をしている。その生徒たちは、見向きもせずに部活に必死だ。
「どうかしたの?」
こうやって人と話すのは、梶原の役目だ。俺はあまり人と話すのが得意でもないし、上手でもない。梶原の声に振り向いた女子生徒の顔色はとても青ざめていた。こいつらの方が、幽霊として相応しく思えるが。
「と…図書室に…誰かいるの」
図書室に?そんなの普通じゃないか。図書委員でもいるんだろう。そうでなければ先生だ。これには流石に梶原も俺と同意見だったようで、首を傾げていた。
「それがどうかしたの?」
とまったく信じていない。その軽蔑のが目を見たら分かる。
「違うの。見えるはずの人が見えなかったの」
「どういうこと?」
梶原は全く持って何もわかっていないようだ。俺も、そうだ。
「最初は、カーテンに影が映ってたんだ。だから誰かいるんだってのはわかったの。でもカーテンが途切れるところまで行ったら、その人がいないの」
影が消えた。ということか。俺は図書室を見上げた。
「……!?」
な、何だあれ。
「お、おい梶原」
肩をつつく。俺は図書室を指さして梶原にそこを見るように促した。
「ええ?!うわーーー!」
俺が見上げた図書室では、ひとりでにカーテンが閉まっていたのだ。当然映るはずの人影もない。機械でスイッチでも入れないとおかしい。ひとりでに動くなんて。明らかに風による動き方ではない。
「行ってみよう!」
梶原は大いに驚いたあと、走り去るようにして昇降口へと向かった。俺も後を追う。ここから図書室へ行くには。昇降口に入る→技術棟と反対にある第2一般棟に入る→4階まであがる。という作業をしなくてはならない。入学のオリエンテーション以来、第2一般棟には入っていないが、図書室が最上階だということは覚えている。下から見たが1番西の教室だ。
駆ける梶原をなんとか追い、やっとの思いで図書室についた。俺が着く頃にはもう、梶原は図書室の扉を開けにかかっていた。
「うそ…でしょ?」
しかしどういうことだろう、どんなに強い力で開けようとしても扉はびくともしない。梶原は鍵の開いた扉を開けれないほど非力ではない。その動作を数回繰り返して諦めた梶原は、中に誰かいないかを確認するため強めの力で扉をノックし始めた。叩く度、引き戸が大きな音を立てている。
「あの!誰かいませんか!」
「…………」
中からの返事は無い……。逆に開いていなくて良かったと安心する俺もいた。今までは噂にしか思っていなかったものを、この目で実際に見てしまったのだ。怪現象を。
耳を澄ませたが、音もしない。引き戸のガラスは元々の作り上、透明度の薄いガラスのため中の状況は見れなくなっている。お手上げだな。
「仕方ない。引き返そう」
俺は両手をズボンのポケットに突っ込んだ。梶原を見ずに階段に足を下ろす。
納得行っていないようで返事はなかった。だが踊り場まで降りて振り返ると、残念そうに階段を1段ずつ降りてくる梶原が見えた。
その後技術棟に帰ったが鍵は閉まっていなかったし、伊沢と千春にきいても特に何もおかしな点はなかったと言う。
妙に気になってきた。なぜ鍵が開いてないんだと。外から見て図書室に電気はついていなかった。中に誰もいないというのは鍵がかかっていたという単純な理由では証明できない。中に入ったことがないのでなんともいえないが、鍵を中から閉められるなら、人間がいるということを隠し通せるが、そこまでする理由が見当たらない。故に自分で立てたこの説に白旗を立てる。
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