第26話 鍵の開いた技術棟

翌日、俺たち3人に約1時間遅れて部室に走ってきた梶原は、満面の笑みで俺達に学校のホームページを見せてきた。そこには『何でも屋相談コーナー』というものができていた。その説明でも受けていたから遅れたのだろうか。それより……よりによってこのタイミングかよ…。もう何かしら来てるんじゃないのか…?


 伊沢も千春も飛び上がってパソコンの画面に釘付けだ。俺も興味はあるし見たいが、わざわざ行こうとまでは思えない。いつものように頬杖をつきながら3人の笑顔を見ている。


「いやー相談が来るのが楽しみだね」


 作っただけでここまで満足そうな顔をされては、相談が来た時には口が裂けるくらい笑ってしまいそうだ、こいつなら。


「それで、昨日の幽霊は何かわかったの?」


 ふたりは、一気に黙り込んだ。そう言えば、考えといてなんて昨日言われてたような。まぁ……信じたくはないがそうだろうな。


「幽霊と決まったわけでもないぞ」


「じゃあ他に何があるっていうのさ」


 何かしらの科学的な、化学的な現象なら、俺は管轄外だ。科学技術部だが無理だ。


「そう言えば、昨日みんなで戸締まりしたよね?」


「したした」


 千春の言い草は、昨日も聞いたような気がするトピックだ。……まさか。


「俺と、たけちゃんとハルとつばちゃんで!……ってあれみんないる」


「お化けでたらあかんからって、みんなででたやないの」


「そうだった」


 後頭部をかき、照れ笑いを見せてきた。まったくしっかりしてくれと言いたいものだ。


「閉めたよね」


「閉めた。自分やからはっきり覚えてるで」


 そうだ。昨日は伊沢が鍵を閉めて職員室に返しに行くまでを、正門の前で待っている。


「先生がまた『戸締まりはしっかりしてください』って言ってたんだけど」


「それはおかしいやろ!」


 思わず声を上げたのは伊沢だ。彼は着るべきでない罪を着せられているようなものだ。


「でも、戸締まりの時は開いてたって言うんだもん。僕も信じがたいけど、先生に言われちゃったら何も反論できない」


 戸締まり……。俺らは6時過ぎにここをでた。その時俺は技術棟の鍵を中から開けて外に出た。そして4人で鍵を閉めた。一般棟に入って伊沢以外は下駄箱に行った。そして正門から伊沢が出てくるのを待っていた。


「僕は、誰も疑いたくないけど……。伊沢君、違うよね?」


 千春は、悲しみに満ちた目をした。それを向けられる伊沢は動じなかった。


「つまり、自分が鍵を返すふりをしてもう一回開けに行ったってことやな。みんなの目を掻い潜って」


 いや、そんなことは不可能だろう。一般棟と技術棟を結ぶ通路は十字路だ。当然俺たちはそこを通って正門に行くし、正門からもそこの通路はみえる。技術棟の扉も同然に。俺らの目をかいくぐることは物理的に不可能ということだ。故に伊沢は犯人じゃないと断言できる。そう言うまでもなく、梶原の反対によって伊沢の潔白は証明された。


「2日連続やしなあ。自分らのせいやないから余計に腹立ってくる」


 今週の2日間で2回も冤罪疑惑をかけられた伊沢の運のなさに手を合わせよう。と俺は伊沢に合掌をした。


「なんしてんねん」


「もしかしてだけどさ、鍵を閉めた人と開けた人も幽霊てことはない?」


「ハルの理論だと、この棟には本当に…」


 お前が持ちかけた噂だろうが。何を今更ビビっている。


 千春の理論で片付けてしまえば楽だ。だが俺にとっては楽ではない。こう1度気になってしまえば、モヤモヤして仕方ない。忘れてしまえばそれこそ楽なのだが。


「キャーー!!!」

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