第28話 第3の目撃と空白の1日

 梶原から聞いたのだが、俺達が図書室のひとりでに動くカーテンを見たあとの次の日(いわゆる水曜日)。図書室の鍵はちゃんと閉まっていたらしい。生徒会の先輩から、梶原はこのことを聞いたと言っていた。


 それを聞いたのは部室にいるときだったが、何故かその日は悲鳴を聞くことはなく、1日聞いていないだけでもう終わったのかもしれないと思い込んでいた。


 それを思い出しながら今日(金曜日)の昼休憩、俺達はいつものように中庭で4人仲良く?4人用テーブルを囲んでいた。学食利用者も使うためここで弁当を広げるのは少し気恥ずかしい気もするが……教室では十分なスペースも取れないのでここに来るしかないのだ。


 そして昨日(木曜日)、俺が部活にいない間に、また幽霊騒動を見たという生徒が出たらしい。


「今度は男だってさ」


「男の幽霊ってこと?」


 梶原は横に首を振る。


「男が見たんだって。教室に黒い長髪の女の幽霊を」


 声を潜めているが、3度も幽霊騒動が起こってしまっては、もう全校生徒の間ではトレンド入りの話題だ。教室でもこの学食でも、もうその話は何度も聞いている。まぁ事実とは違い誇張の入ったものも幾分かあったようにも思える。


「今度は影じゃないんだな」


「うん。ほんとにこんな感じ」


 ウラメシヤ〜と有名ゼリフでも吐きそうなポーズだ。しかしこいつがすればただ下を向いて手をフラフラさせている男子生徒。恐らくほんとは髪も長くて顔も見えないほどに長いんだろう。


「きょうは僕たちも見てみたいなあ」


「せやなあ。ふたりは見たんやろ?羨ましいわ」


「そんなに良いものじゃないって!」


「あんなのは見るだけ無駄だ」


「なんで一昨日に限って出ないんだろうね。それまでは2日連続で出てたのに」


 一昨日は俺も部活に出ていたが、悲鳴や叫び声を聞くことはなく、平和に終わった。昨日は昨日で、叫び声も特段聞こえたわけでもないため、3人は梶原が噂を聞くまで騒動に気づかなかったと言う。それが不服な2人は、今日少しご機嫌斜めのよう。伊沢は


「幽霊も過重労働なんちゃう?」


 と冗談を言う。


 冗談ぽく笑っている2人だが、実際に現場を見たおれたちにはもう、冗談で笑えることはできない。梶原は、2人の会話に割って入るように疑問を投げた。


「にしても不思議だよね」


「なにがだ」


「だって、図書室はあのとき閉まってて、翌日も閉まってた。俺達とは違う。俺達は翌日開いてた」


 たしかに不思議だ。まぁ…考えたところで


「幽霊の仕業やなくて?」


 と伊沢は言う。こいつ信じてるのか信じてないのかわからんやつだな。幽霊説の困るところは前にも言ったように、何でも片付いてしまう。幽霊の力なんて俺らにはわかりしれないことだ。鍵がなくても開けたり閉めたりすることが可能だと言われても肯定はできないが、否定も完全にはできない。


「幽霊じゃないかも」


「実際に見たのに?まだ言うの?海斗」


 それは、俺も思う。こいつは1番幽霊説を信じてきた。そして実際に見ている。

「他のなにかは考えれない?動物とか」


 机上の空論だ。と俺は投げ捨てた。


「ない。猫や犬だとして、最初の3人組が見た手はどう説明するんだ」


 梶原は「あ…」と口にしたあと、『そっか、忘れてた』と言わんばかりに固まってしまった。


「例え犬や猫だとして、鳴き声が聞こえないのは不自然だ。他の動物って言ったって、自力でカーテンを閉めたり鍵を開けたりするほど手懐けられた動物がいるとは考えにくい」


「そもそも、この高校動物の持ち込み禁止や」


 隠し持って入るのもリスクだし、第一そこまでして動機はなんだ。という謎まで出てくる。


 閉まってた……といえば俺達が部室にいるときの技術室での幽霊騒動。あのときも技術棟の鍵は閉まっていた。図書室も幽霊騒動直後に梶原と確認しに行ったが鍵は閉まっていた。でも翌日に開けられていたのは俺らの棟の鍵だけ。教室は鍵を閉めるなどという習慣はないだろうから今回は除外してもいいだろう。


 少しわかったが、まだ足りない。まだあと数個……。


「そのせいで最近は部室でゆっくりできないよね」


 気を張っているのか。千春も意外と神経質なんだな。


「大丈夫や。また楠木君がどうにかしてくれる」


「あまり頼り切るのはよしてくれ。……梶原、今まで幽霊騒動があったのは技術室、図書室、教室。だな?」


「そう。どれも今週の出来事さ」


 この4日間で急激に増えた幽霊騒動。4日の内3日で……


「あの…席いいですか?」


 考えに耽ていると、女子生徒から声をかけられたのがわかった。


「すみません。良いですよ」


 梶原は手早く弁当箱を閉じて椅子から立ち上がる。俺も少し急ぐ。女子生徒5人組が学食で注文したであろう定食を手に持っている。席を譲って、俺らは自分たちの教室に戻った。


 

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