第14話 正の道は

ボソッと呟いた。誰かに聞かれまいとするとかではなく、ほんとに無意識に心の声がでた結果だ。


「メッセージ性って?どんなの?」


 高梨が机に手をおいて聞いてくる。前のめりの姿勢には申し訳ないが、その疑問に答えれるだけのものが今揃っていない。


「つばちゃん。この落書きを残したのは湯浅先生で間違いないんだよね」


「俺の予想が正しければ、だ。まあ9割9分合ってると思う」


「大層なご自信をお持ちのようで」


 両手のひらを上に向けて言われると、呆れられているのではと思う。


「それがどうかしたの?」


「だから、湯浅先生に直接聞けば良いんだって」


 そうか。その手があったのか。俺は納得して、身構えていた体から力が抜けるように肩がストンと落ちた。


 昼を食べ終える頃には、もう休憩時間は終わりそうだったから、湯浅先生に話しを聞きに行くのは放課後ということになった。


 放課後、2階にある俺の教室に来た梶原と、高梨。そして伊沢。段々人が増えてないか。気の所為ではないだろ。


 梶原を先頭に歩き出した俺の達は、職員室を目指した。といってもただ階段を降りていつものように出口に向かうだけだが。東階段を下り昇降口に向かう途中に、校長室、放送室と並んで職員室がある。


「すみませーん。湯浅先生いますかー?」


 職員室内に梶原はそこそこ大きな声で呼びかけた。すると1番手前に座っていた先生が梶原の声に気付いたようで回転椅子で振り返った。


「湯浅先生に何か用?」


「はい!部活のことで」


 ほんとにこいつは誰にでも自分を出して話せるんだな。こういうやつが俗に言う陽キャラというやつなんだろう。


「あー……」


 目線を斜め上にあげ、頬をかいている。なにか不都合か。


「湯浅先生は今いないんだ。まだ帰っきてないのかもね」


「僕がどうかしましたか」


 西階段方面から来たのは、部活動紹介の司会兼代表、湯浅先生だった。これほどの都合がいいことがあるだろうか。深緑色の髪と黒い正装。大変落ち着いているという印象。実際、少しおっとりとした喋り方や生徒にも敬語を使って喋る当たり、落ち着いているんだろう。


「あー先生。この子達が用だって。じゃあ俺はこれで。あとはよろしく」


 湯浅先生に敬語を使わないあたり恐らく、湯浅先生よりもこの先生のほうが歳上なんだろう。


「湯浅先生って、変わってますよね」


「たしかにな。なんかずれてる。あういうのギャップ萌えとかなんないの?」


「ギャップがあればいいってものでもないんですよ。湯浅先生のギャップは恋愛とか以前です」


 職員室内で、男女二人の教員が湯浅の名前を聞いて噂話のように話しているのを聞こえた。特に気にしていたわけでもないのでちらりと目にした程度だった。


 職員室に戻っていく先生に軽く会釈をした湯浅先生は、俺達に向き直って「どうかしましたか」と聞いた。


 梶原は目線で俺を見た。パンフレットを見せろということらしい。


「これを書いたのは湯浅先生で間違いないですね」


 湯浅先生は一歩ひいた。まさかといった表情だ。そして反応は予想通り「まさか見つけてくれる人がいるとは思いませんでした」


「こんなにわかりやすく書いているのにですか?」


 俺の斜め前で梶原が首を傾げる。


「名前をどこにも書かなかったから、正直僕までたどり着いてくれるか心配だったんです」


「あのパンフレットの教師一覧には『部活顧問』の見出しで囲まれていました。その中にあなたも司会兼代表として入っていました。部活の顧問と無関係なら、あの場所には書かれないでしょうからね。そう考えるならあなたにたどり着くのは難しくありません」


「どういうことや?」


「部活動の先生があの枠には入ってるんだよ。その中に湯浅先生もいたから、何かしらの部活関連ってことじゃないかな」


 後ろで高梨と伊沢が耳打ち話をしている。バッチリ聞こえているがな。そのとおりだぞ高梨。


「これを書いたのがあなたで間違いないのなら、湯浅先生が科学技術部の何かしらの関係者であることは確かです。制作者である校長先生の名は、この枠に入っていないので」


 制作者の校長の名前は、右下に載っている。もし湯浅先生が部活となんら関係ないのなら、ここの校長と一緒に名前があるはずだ。


「すごいですね。あなたたちの言う通りです。僕が科学技術部顧問、湯浅正です」


 湯浅先生は両胸の間に右手を置いた。かしこまって少し頭を下げた。


「じゃあ科学技術部は実際にあるってことですね!」


「はい。ありますよ」


「じゃあなんで部活動紹介で紹介されなかったんですか?」


 斜め後ろで高梨は前のめりに聞いた。それにも落ち着いて湯浅先生は軽く微笑む。


「生徒がいなくて。紹介もできないし、活動内容も特にないので紹介されなかったんです」


 部員がいないってことか。そりゃ紹介のしようもないな。あの場で何もなかったのも納得だ。


 梶原は、感心したように、またどこか呆れたように言う。


「大胆でしたね」


「他に方法が思い浮かばなくて。生徒が先生に異変を言わないか心配でしたよ」


 とんだ賭けに出たんだな…。


「用はそれだけですか?」


 少しの間を置かれた。


「俺、科学技術部に入部しようと思ってここに来たんです」


「それはありがたいですね。では明日入部届を。そちらの3人も、ということでいいですか?」


「はい、大丈夫です」

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