第9話 部活動紹介②

「やーハル。パンフレット取った?」


 伊沢が来てすぐ、梶原の横に座ったのは、喫茶店の店員、高梨だった。制服は制服でも、今日は学校の制服だ。学校で会うのは初めてなのでその制服姿に少し違和感を覚える。


「うん。いっぱい部活あるんだね。びっくりしちゃった」


「確かに、中学の時より増えてるよね」


 もうパンフレットを見たのか。高梨の手にも当たり前ながら俺等と同じパンフレットがある。


 高梨とは小学からの友達と梶原は言っていた。ならば中学も同じだったのだろう。俺の中学でも、ここまでの部活動の量はなかった。少し圧倒されている自分がいる。入るだけなら、極端な話バスケや陸上でも良いのだが、ガチンコのクラブはでなかった時に教師に何を言われるかわからないので、できれば緩めの部活が良いが。梶原は運動部を選びそうだ。そうなれば即刻断るつもりだ。


 そして予鈴とともに司会と思しき先生がマイクを握った。概要と手順を先生が説明したあとで、別の先生が、司会の先生にマイクを譲るように促されていた。


 マイクを受け取ったのは明らかに体育会系という見た目をしている。上下ジャージにかけられたサングラス。


「この前のオリエンテーションで良い忘れていたことだが、敷畳、あー後は地面に、座るとき。男子はあぐら。まあ安座で。女子は足を横に流して。えーまあ横座りで。座ってください。これを、おー徹底してください」


 現代で何を言う。この学校は昭和なのか。それを聞いた全員が、各々指示された座り方をした。俺達はもと良いあぐらだったが、体育座りをしていた高梨はあぐらに直した。こいつがあぐらは、なんだか違和感だ。それにしてもあの体育会系は生徒指導なのだろうか。まあそんなこと言うのは生徒指導くらいか。


 一礼して去っていった体育会系からマイクをもらった司会の先生。体育会系と比べなくても落ち着いていることがわかる。そしてまぁまあ若いということも。恐らく20代後半から30代前半くらいだろうか。この先生、この部活顧問一覧の1番下に載っている先生か。湯浅という名前らしい。司会の先生の「ではお楽しみください」というアナウンスのあと、ステージ以外の照明が落とされて、オープニングを飾ったのは軽音楽部だった。


 約1時間と30分。長い間の部活動紹介聞いたり見たりした。それぞれの部活が特徴を出して、ある部活は笑いで興味を引いたり、実演をしたりして。顧問の先生は名前を呼ばれて一言言ったり、部活によっては外部コーチの紹介もされた。ただその1時間半の中で出てきた違和感を、俺は心の中で、蚊に刺されたところを書くように気にせざるを得なかった。もっと言えば、最初から集中できなかった。


 「いや~面白かった。多すぎてどれに入ろうか悩むね」


 終わったあと、体育館をでたところで外の空気をいっぱいに吸い込んだ梶原が思いっきりのびをした。


「僕は運動部以外がいいからね。海斗勝手に決めないでよ?」


 高梨がそういうということは、もしここで忠告しておかなければ梶原は運動部に入るかも知らないということか。 


 それにしてもこいつらは、気づいていないのか。今回の部活動紹介の最大とも言える欠点、矛盾というべきか。普通なら気づくはずだろうに。気づかないほうがおかしい。ここの2人だけじゃなく全1年生に言えることだ。誰も先生に意義を唱えないほうがおかしいのだ。この会も、パンフレットも。俯瞰しなくてもおかしいとわかる。そんな俺が気になったのだろうか、梶原が首をひねってきた。


「どうしたの?つばちゃん。険しい顔して」


「お前ら、今回の部活動紹介、おかしいと思わなかったのか」


 たまらず俺は口にする。しかしふたりはなんのことを言っているのかわからないといった顔で俺を見ている。


「何がさ。滞りなく終わったじゃない」


 高梨も頷いた。俺は眉に力が入る。そして思わず冷静ではいられなくなった。


「いや、おかしかった。だって全部の部活が紹介されていなかったんだから」


 俺はパンフレットを開く。そして勢いよく指さした1つの部活。


「あの会に、科学技術部の紹介は一切なかった」

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