第12話 網の目
否定したのは、高梨だった。俺はそれに付け加える。
「高梨に先に行くと連絡されたんだよな、梶原。でも体育館に高梨はいなかった。遅れてきたときこいつはなんて言ってたか覚えてないのか」
「…トイレ、か」
人差し指を顎に当てて考えた梶原はすぐに答えていた。
「お腹痛くて」
高梨が両手でお腹を触る。まるで雷からおへそを守る小さな子供のようだ。
つまり高梨がトイレに入っている時に俺らが先に体育館に入り、その後すぐに出てきた高梨が俺達と合流。といったところか。
「わかった!ハルがトイレに行く前にあのパンフレットに落書きをしてトイレに入ったんだよ。だから犯人はハルだ!」
こいつは何を…。
仲間を売るのか。
「おい待て。高梨がいった頃にはもう先生は来ているはずだ」
高梨は頷いているが、梶原の向いている角度的に梶原は高梨の顔を見られない。
「授業でもないのに先生がいるのはおかしいじゃん」
「じゃあ高梨はどうやって体育館に入った」
「開いてたんじゃないの?」
「いや、僕が入った頃には先生が中にいたよ」
先生がいない無法地帯の体育館を開けたままにするのはどうなのかと思う。開いていて中に誰もいないのであれば、極端に言うと家の鍵を閉めずに出かけるようなものだ。
「他の生徒がどこかに隠れてたとか!部活動紹介って言うくらいなんだから、体育館に部活の先輩たちは待機してたんだよ?その人たちがやったんだよきっと」
その線もあるのか。ならやはり生徒がやったもので間違いないだろうか。……だがあまりにも難易度が高すぎやしないか。もし部活の生徒がやったとしたら、あの体育館にいる何人もの顧問の先生の目をかいくぐりパンフレットに落書きをしたことになる。そんなのルパンでも無理だ。顧問の先生の前となれば、一層気が引き締まるだろうし、そんな悪戯に走るような人は現れないだろう。
やはり科学技術部なんて部活はなかったのか。いたずら……。ならなんのために。なぜ科学技術部という部活なのか。愉快犯か。単純にそれを取った人の困惑を狙うため、か?動機も人もわからん。消しゴムのようにうまくはいかないか。
んーわからん。なんでこんなことを。
「会を壊したかったとか?」
「いや、それならもっと大胆なことをすればいい。落書きももっと雑で良かった」
自分で言ってあれだが、これでは余計にややこしくするのと同然だ。
結局、教室に帰るまでにはわからなかった。
部活に入るタイミングは各々の自由なので今日決定する必要はない。短いホームルームを終えて家に帰る。帰りには少しこの謎について考えていた。だが家に帰って家事やらなんやらをしていると、そんなことはすっかり忘れていた。
夜ご飯を食べてソファでだらけながらテレビを観ていると、世間というのは残酷なもので、マイナスなニュースが流れてくる。特殊詐欺事件だったり、11年前に起こった殺人事件の犯人が警察だったり、強盗事件だったり。この国は本当に良い治安なのかと疑ってしまう。本当は悪いのではないかと確信せざるを得なくなってしまう。
ふと思い出した、昼間のこと。
部活の顧問たちは全員体育館にいた。部活の生徒も体育館にいた。一番最初についた俺が取ったパンフレットには既に科学技術部という落書きは書かれていた。俺らより早くついた高梨にもちゃんとしたアリバイがある。生徒が誰もいない体育館に忍び込むことは不可能に等しく、生徒が体育館に入る=先生も体育館の中にいる。ということになる。
テレビでしていたニュースも思い出した……。そうか!
俺は考えがまとまった。
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