第4話 転がるヒント
「この消しゴムはまだほとんど使われてない。恐らく高校入学に合わせて買ったものだ。そんなものにおまじないをするとは考えられん。それに…」
少し考える。この説明をするには口だけでは足りない。
梶原の矛盾を解消したとて、誰が持ち主なのかという検討は一切ついていない。難航している。考えろ。矛盾点を。何が日常と違う。何がおかしいか考えろ。
まずはこいつの矛盾を正すのが先か。
「好きなやつなら普通下の名前で書くはずだ」
まぁ、こいつが消しゴム本体に書いてない時点で、好きな人と結ばれたいがためにしたことではないというのがわかる。
「イシイっていうくらいだから、すぐ見つかるはずなんだけどね」
言い換えれば、よくいる名前ということだ…探せばいる………か。
「1つわかったぞ」
「え?なになに?教えて!」
俺は、梶原に教室に入れてもらった。梶原の席に梶原が、その前の席を俺が借りた。椅子に反対に座り、梶原の机を使う。そして俺はメモ帳を取り出した。ペンは梶原に借りる。
「イシイ。は本名じゃない。これだけ探していないならそうだろ」
「それは薄々気づいてるよ」
期待以下の返答か。梶原は頬を膨らませた。
俺は梶原にノートとペンを出すように促し、広げさせた。
「梶原が、イシイとか有名な名字だとする。今回は鈴木とかでいい。今のお前は鈴木海斗だ」
ノートに、漢字で鈴木海斗と書いた。梶原は頷いた。
「だとしたら、お前は持ち物にどう名前を書く?」
「え?普通に鈴木って書く。ひらがなかカタカナかは知らないけど」
梶原は言いながら3行に分けて3通り、鈴木を書いた。平仮名、カタカナ、漢字。
「ほんとにそれだけなのか?」
梶原はこの時点で、不便なことをしているということに気づいていない。
「だって、自分の名前ならそう書くでしょ」
「俺なら、こう書く」
俺はその横に、かいと、カイト、海斗。と書いた。梶原はまだ完全に理解しきっていないようだ。眉を反らせて首を傾げた。
「どういうこと?」
「ありきたりな名前の名字だけを書いても、落としたらわからないってことだ。特にイシイとかスズキとかみたいにポピュラーな名字だと他にいるかもしれないからな。名字だけを書くことは避けるはずだ」
「でも、この学校にイシイはいないじゃん」
何を言っているんだ…と眉をひそめる。俺は呆れを示すため息を吐いた。少し大げさに大きく。
「今日は入学して3日目だ。あの学力試験の日の時点では2日目。ノートや教材ならまだしも、筆箱とか文房具には、予め入学前に名前を書くだろうが」
「でも名字だけを書くような面倒くさがりだったんじゃないの?」
「面倒くさがりならそもそもこんなちっぽけな消しゴムに名前を書かない」
実際、俺は自分の消しゴムに名前は書いていない。そんなもの、落としたならすぐに気づいて拾うだろう。自分のものだ。ある程度特徴は覚えている。
「あー!なるほど!」
「恐らくイシイには『イシイ』と書くことしかできなかったんだ」
「でも、ならなんでイシイって書いたのさ。これなら普通に本名で書けばよかったんじゃ」
ただの文字遊びか?ならなんのためにこんなことをする必要があるんだ。
「文字遊び……漢字……国語……?」
いやいやそんな理由ない。国語好きだからと言って、石井と名のないこのクラスに偽名を名乗る必要はない。
「国語がどうかしたの?まさかただの国語好きがしたイタズラとか言うんじゃないだろうね」
不服そうにいう梶原だが、俺もその意見には賛成だ。
「だがもうそれしか考えられん。一応見てくれ」
梶原は、後ろに掲示されている係、委員会表の方に目を向けた。それを見たあとで、「
そして先刻座っていた席から、よく響く声がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます