第2話 私、本当はこれが好きなの

「ネコも可愛かったし、私はもう十分かな。白石さんはどうだったかな? ネコ好きなんですよね?」


 白石響輝しらいし/ひびきは彼女と共に街中を歩いていた。


「あ、まあ、そうだね。良かったと思うよ。ネコとか」


 響輝は上手く笑えていなかった。


 動物を触るのは、人生で初めてだったからだ。


 実際にネコを触ってみて、犬と比べてまだ可愛い方であり、全部の動物が怖いモノではないと理解する事は出来た。


 そういったきっかけを作れたのは良かったと思う。


 まだ犬に対しては若干苦手意識があり、さっきのアニマル系の喫茶店内では犬には触らずに、店を後にしていた。


「白石さんは、動物って飼っているの?」


 街中を一緒に歩いていると、星野優花里ほしの/ゆかりから質問される。


「俺は……飼ってないよ」

「そうなんだね」

「逆に、星野さんは?」

「私も飼ってないんだよね。やっぱり、私の家族が動物アレルギーってことがあって。だからね、たまに、あの喫茶店に足を運んでいるの」


 優花里は、その場に立ち止まり、さっきのアニマル喫茶店の外装を遠くから眺めていた。


 彼女は動物が好きらしい。

 特に小動物の類が好みのようだ。


 動物を飼うかどうかは家庭の事情が絡んでくることもあり、そればかりはしょうがないと思う。


 響輝は、どうにかしてあげたいと内心感じていた。


「じゃあ、動物のぬいぐるみでも買う? 俺、それなら買えるけど」

「い、いいよ。そこまでは。むしろ、私が白石さんのためにお礼をしないといけない立場なのに」


 優花里は全力で遠慮していた。


「でもさ、俺、十分お礼をして貰ったし。さっきの喫茶店でも、コーヒーやケーキもご馳走になって」

「私からしたら、どうしても納得が言ってないの。だから、もう少しだけ。今日はまだ時間があるし、もう少しだけ、そのお礼をさせてほしいの」


 彼女から懇願ざれた。


 こんなことってあるのか。


 ここまで親切にされたことなんて、人生で一度もなかった。


 今まで陰キャでオタク寄りの生活をしてきたことも相まって、正直びっくりしていた。


「白石さんは、今度はどこに行きますか? 私、今日はどこでも行きますし、なんでもしますから!」

「な、なんでも……?」

「え、は、はいッ! ですが、なんでもって、本当になんでもまでは無理ですけど。可能な限りは、できます! た、多分ですけど……」


 優花里は頬を真っ赤にしながら言う。

 最後の方になるにつれて、言葉には自信がなくなっていた。


「それで、どこに行きたいんですか? 私、どこにでも行けます」


 優花里はグッと距離を詰めてくる。

 そして、彼女の爆乳が、響輝の胸元に強く押し当っていた。


 アニメでしか見たことのない展開に今、追い込まれている状況だった。


「えっとさ……この先にアニメショップがあると思うから。そこに行こうと思っていたんだけど」

「アニメ?」

「もしかして、好きじゃなかった?」

「いいえ、好きですよ。私も、アニメも見ますから」

「そ、そうなんだ」


 よかったと、内心思う。


 アニメというと、オタクっぽくて少し距離を置かれることもある。


「私も、アニメショップに行くこともありますし」

「じゃあ、大丈夫って事で」

「はい。ちなみに、白石さんは、どんなアニメを見たりするんですか?」

「そ、それは」


 それについて女の子の前で言ってもいいか不安になる。


「えっと……まあ、簡単に言うと、ファンタジー系の奴かな」

「異世界系とかですかね?」

「そ、そうだな。まあ、そんな感じ」


 響輝が見ているアニメというのが、少しエッチ系な内容なのだ。


 動物系の女の子が、爆乳なのに関わらず、胸元が空いた感じ如何わしい恰好をしている。


 ゆえに、そんなアニメの詳細を女の子の前では口が裂けても言えなかった。


 アニメショップに行ったら、どの道バレてしまうかもしれないが、そこは上手く切り抜けるしかないだろう。


「では、行きましょう!」


 優花里から右手首を掴まれ、再び街中を歩き始めることになる。


 爆乳な女の子と共に歩いていると、やはり、周囲からの視線を強く感じる。


 隣にいる彼女の爆乳さが私服越しでも際立っているのだ。


 響輝は周りを気にせず、見ないようにし、歩いて目的地へと向かうのだった。






「私、これ好きなんですよね」


 店内に入った瞬間、アニメグッズ売り場にて、彼女は目を輝かせていた。


 優花里はアニメグッズの中で特にコスプレアイテムを見、どれにしようか迷っていたのだ。


「もしかして、それ、買いたいの?」


 響輝は伺うように、彼女の背後から慎重に問いかけた。


「え、い、いいえ。今日は買うつもりではなかったんですけど。売っていたので、つい欲しくなってしまって。でも、今日は我慢しておきます」


 彼女は背中をビクつかせ、振り返る。


 優花里が目にしていたのは、響輝がよく見ているアニメキャラのコスプレ衣装だった。


「えっと……星野さんも、そのアニメ見るの?」

「……はい」


 彼女は申し訳程度に頷く。


 まさか、エッチ系の作品を見ていたとは衝撃であり、見た目からして想像もつかなかったのだ。


「……俺も見てるんだけど。星野さんも見てたんだね、それ」

「はい。でも、こういうのって、男性がよく見てますよね?」

「そ、そんな事は無いと思うけど。今の時代は。でも、意外というか」


 響輝は優花里のからだ全体を見渡すように見てしまう。


 そのアニメキャラには、爆乳キャラが登場しているのだ。


 よくよく見れば、そのキャラに途轍もなく似ていた。


 コスプレをすれば、ネット上で、かなりの人気を獲得できそうな気がする。


「今は白石さんのための時間ですものね」

「それにしなよ」

「え?」


 優花里は目を丸くしていた。


 同時に、響輝自身も何を口走っているんだろうと、心がドキッとしていた。


「そ、それを買っても良いってことで。その、まあ、簡単に言うと、そのコスプレをしてほしいってことなんだけど」

「こ、コスプレ、ですか?」

「う、うん。でも、なんでもしてくれるって。お礼として」

「いいですけど。私に似合いますかね?」

「に、似合うと思うよ」


 響輝は激しく同意するように頷いていた。


「でも、無理だったらいいんだけど」

「わ、分かりました。一度決めた事なので、私、これ買いますね」

「お金とかは大丈夫なの?」

「はい。一応、お金には余裕があるので」

「なら、いいんだけど」


 響輝はとんでもない事を口走ってしまったと気まずくなる。が、結果として、本当に見たいモノが見れると思ったら、これはこれで成功だったかもしれないと、心で納得するのだった。


「でしたら、私の家に来てくれませんか?」

「今から?」

「はい。買い物が終わってからですけど。そこでなら、見せられると思うので。どうでしょうか?」


 優花里から上目遣いで問われていた。


 答えは一つ。

 すでに決まっている。

 それは彼女の家について行く事だ。


 響輝は彼女のコスプレ衣装を妄想しながらも、彼女と共に再びアニメショップでの買い物を続けるのだった。

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