第39話 二人のギャル

 愛華ちゃんから詳しい話を聞いて私と千秋は何が出来るのか考えていた。

 私たちに出来ることなんて何もないかもしれないけれど、このまま黙って見ているだけなんて耐えられない。ほんの少しでも私たちが力になれることがあれば何でもやると思っていたのだ。

「そんな事を計画しているなんて許せないよ。私も千秋もうまなちゃんがそんな目に遭うなんて嫌だ」

「私も茜と同じ気持ちです。今から中田のところに行って何とかしましょうよ。あの車がとまってた場所にいるんですよね?」

 千秋の言葉を聞いた愛華ちゃんは首を小さく横に振った後に軽く息を吐いていた。私と千秋の顔をゆっくりと見た愛華ちゃんは申し訳なさそうな表情を作って失神している土山久雄の様子を眺めていた。

「申し訳ないんだが、中田博臣はあの場所にはいないようだよ。この町のどこかにいることは確かなんだけど、どこに隠れているのかわからないんだ」

「わからないって言っても幽霊を使って探すことは出来るんですよね。この町にたくさんいる幽霊に探してもらえば簡単に見つかるんじゃないですか?」

 普段は意識して見えないようにしているだけでこの世界にはどこにだって幽霊は存在している。その幽霊たちとコミュニケーションをとることで隠れている人を探し出すことなんて余裕だと思うんだけど、なぜか愛華ちゃんはそれをしようとしないのだ。監視カメラよりも死角のない幽霊たちの包囲網から抜ける方法なんて無いと思うし、霊能力のない中田博臣が幽霊たちの視界から逃れることなんて出来ないと思うのだが。

「それなんだけどね。今はちょっと無理なんだよ」

「無理ってどういうことですか?」

「どういう事って言うか、今この場で起こっている状況を見てもらうと理解してもらえるんじゃないかな」

「この状況を見てもらうとって、私には何もわからないんですけど」

 私は愛華ちゃんの言った今はちょっと無理という言葉の意味を多分理解出来たと思う。幽霊が見えない千秋にはわからないと思うけど、この町にいる幽霊のほとんどは土山久雄を噛むための行列に並んでいるのだ。多分、この行列に並んでいない幽霊もそれなりに入ると思うけど、それだけでは監視網としては隙間が多すぎるのだろう。そんな状況で霊能力のない中田博臣を探し出すというのは難しいのではないだろうか。

「簡単に言っちゃうと、監視網を構築するだけの幽霊がこの町には存在していないって事なんだよ。土山久雄の力を食べるためにほとんどの幽霊が行列を作っているんだよ。行列を無理やり解散させてコレを終了させることも出来るんだけどさ、そんな事をしちゃうとここに並んでいた幽霊たちが悪霊になってしまう可能性もあるんだよね。というか、そんな事をしてしまうとこの町のバランスが壊れて悪い考えを持っている人が増えてしまうんじゃないかな」

「そんなの関係ないですよ。今こうしている間にもうまなちゃんが酷い目に遭うかもしれないんですよ。愛華ちゃんはそれを黙って見過ごすって言うんですか?」

「千秋、それは言い過ぎだよ。愛華ちゃんだって黙って見てるだけじゃないはずだよ」

「それはわかってるけど、こんなのっていやだよ」

 私も千秋も愛華ちゃんもみんな黙ってしまった。今は何をすればいいのか、何をするのが正解なのか全く分からない。中田博臣の居場所を突き止めてやろうとしていることを止めるのが正解だとは思うんだけど、どこにいるのか皆目見当もつかないのだ。

 何も手がない状態になってしまった私は時々ビクッと動いている土山久雄から何か情報を引き出すことが出来ないかと考えていた。その時、清澄さんが私と千秋の肩を叩いて話しかけてきた。

「君たちはさ、中田博臣の居場所を探そうとしているみたいだけど、そんな事をする必要なんて無いんじゃないかな?」

「何でですか。清澄さんはうまなちゃんがどうなっても良いって言うんですか?」

「そんな事は思ってないよ。というよりも、わざわざ中田博臣のいる場所に行かなくても良いと思うんだよね」

「でも、中田を止めないとうまなちゃんが大変なことになっちゃうじゃないですか?」

「それはそうだよね。でもさ、中田博臣を止めるって言うんだったら、居場所を突き止めようとするよりも郊外にある偽教会に行って待ってた方が確実じゃないかな。仮に中田博臣の居場所を突き止めたとしても、そこに向かっている間に偽教会に行かれちゃったら突き止めた意味も無くなっちゃうと思うんだよね。だから、うまなちゃんが心配だったらあの偽教会に行って中田博臣が来る前に片付けちゃってもいいんじゃないかなって思うんだよ」

 私は清澄さんの話を聞いてなんでそんな事に気が付かなかったのだと思っていた。確かに言われてみればそうだと思う。わざわざ中田のいる場所を探して止める必要なんてないんだ。中田がやって来るのをわかっているならそこで待ち伏せすればいいだけの話だった。

「愛華ももう少し冷静になろうね。土山久雄を見てて冷静さを失っちゃったのかな。それとも、これだけ多くの幽霊に接したことで普段とは違う思考になっちゃったって事なのかもね。君はもっと多面的に物事を見れるようにならないとこの先一人で解決することは難しい事態に陥ってしまうかもしれないんだから、もっと冷静になることを心がけようね。それと、二人はうまなちゃんの事を本気で心配してくれてありがとう。君たちがそう思ってくれているなら絶対にうまなちゃんは平気だから安心してね。僕がそれを保証するからね」

 私は清澄さんの言葉を聞いて安心したのか少しだけ涙がこぼれてしまった。私の手を握ってくれていた千秋の目にも零れ落ちそうな涙が溜まっていたのを見てしまった。

 握っていた千秋の手をギュッと力を込めて握ると千秋も同じように力を入れて握り返してくれていた。お互いに言葉には出していないけれど信頼しているというのは伝わっているのだ。

「じゃあ、中田博臣が行動する日がわかったら連絡するね。愛華はしばらく土山久雄を見ていないといけないけど無理はしないでね。土山久雄が消えたことで中田博臣も警戒して当日までは姿を現さないと思うんだけど、君たち二人はうまなちゃんが危ない目に遭わないように見守っていてくれると嬉しいな」

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