第34話 日差しの強い日

 最近にしては珍しく太陽が燦燦と輝いていて手を額に当てて日陰を作らないと目をあけるのも辛いくらいだった。

 うまなちゃんは相変わらず青木グループと楽しそうに話をしているところを見ると、土山久雄や中田博臣から青木たちに何らかの連絡はいっていないようだ。もしかしたら、青木の彼氏が話を止めているという可能性もあるのかもしれないが、今のところは目立った動きも無いようであった。

「こんなに太陽が強いなんて珍しいよね。校門のところに蜃気楼が出来てるよ」

 千秋の言葉で顔を上げて外を見てみたのだけれど、相変わらず今日は日差しが強くて外を見ることすら大変だったりする。そんな中、校門を見ているといかにも幽霊ですと言ったような人たちが集団で行進しているのが目に入ってきた。

 当然千秋はそれを見ていないとは思うんだけど、こんな昼間から幽霊が行列を作って歩いているなんて幻覚なのではないかと思ってしまった。だが、今日くらい日差しが強い日の方が幽霊としても過ごしやすいのかもしれないな。そんな事はないと思うけど。

「蜃気楼って、この距離でもわかっちゃうんだ。ちょっとおもしろいかも」

「厳密に言うと蜃気楼じゃないかもしれないけど、そんなのはどうだっていいんだよ。それくらい日差しが強くて外も暑そうだって事だから」

 蜃気楼に見える現象が幽霊によって引き起こされていると言っても誰も信じないだろうな。そもそも、こんなに太陽がまぶしい時間帯に幽霊がいると言っても誰も信じてくれないだろう。それくらい荒唐無稽なことだというのはわかっているけれど、それが事実なのだからどうすることも出来ない。

 それから気になってちょくちょく校門を確認しているんだけど、どれだけの幽霊が列を作ってどこに向かっているのだろうという疑問が出てきた。さすがに授業を抜け出して確認に行こうなんて気はさらさらないし、この陽気では外に出ることすら面倒に感じてしまいそうだ。

 結局、授業が終わったころには幽霊たちもいなくなっていたのでアレがいったい何だったのかわからずじまいだった。


 夕方になっても強い日差しは変わらず帰るのも面倒に思っていた私と千秋は珍しく学校で宿題を終わらせてから帰ろうという事になっていた。何人か他の生徒も私たち同様残って宿題をしているようなのだが、その中にはうまなちゃんたちの姿はなかった。

「宿題を終わらせたら日差しも落ち着いているかと思ったけどさ、あんまり変わらないね。これだったら急いで家に帰ってもあまり変わらなかったかもね」

「そうかもしれないけどさ、あんたほとんど授業中に終わらせてたでしょ。私が真面目じゃないみたいに見えるじゃない」

 私は別に頭が良いというわけではない。たまたま宿題の範囲が好きなところだったというだけの話なのだ。むしろ、私よりも千秋の方が真面目で頭もいいと思うんだけど、ほんの少しだけ要領が悪かったりするのでその差が出てるだけなのかもしれない。

「あの、話をしているところ悪いんだけど、坂井さんたちも宿題やってるんだよね?」

「うん、そうだけど。山田さんたちも残って宿題やってるの?」

「私たちも宿題やってるんだけどね、わからないところがあるからちょっと教えてほしいなって思ったんだ。もし良かったらなんだけど、どういう風に考えればいいのか教えてもらえたりしないかな」

「良いけど、この範囲だったら私よりも茜の方が詳しいから茜が教えてあげなよ」

「え、私が?」

「そう、あんたさっき私に教えてくれたみたいに山田さんたちにも教えてあげなよ。どうせ外もまだ暑いんだからそれくらいしても良いと思うよ」

 外が厚いのと私が教えるのに何の関係があるんだろう。そう思いながらも、山田さんたちに期待されては断るなんて出来やしない。出来るだけわかりやすく説明しようと心掛けながら、私は何故かみんなに宿題の解説をしていたのだった。


「やっぱりあんたって教えるの上手いよね。自分の好きなモノに限るって話だけど、凄いことだと思うよ」

「私から見たら千秋のセンスの良さの方が凄いと思うけど」

 あれほど強かった日差しも和らいで普通に歩いて帰れるくらいになっていた。私と千秋はいつもよりゆっくりと歩いていたところ、後ろからやってきた車がクラクションを鳴らして私たちの少し先で止まった。

 車から降りてきたのは愛華ちゃんで、私たちに向かって車に乗るように手招きをしていた。

「ごめんね、連絡してから来ればよかったんだけど、二人はまだ学校にいるよってイザーちゃんが教えてくれたんで急いできちゃった」

「急いで来たって、何かあったんですか?」

「ビックリするようなことが起こったんだ。零楼館についたらわかると思うけど、土山久雄が真名先輩の事を訪ねてきたんだよ。多分、車に憑いている霊が真名先輩の伝言を伝えたからだと思うんだけど、それにしては早すぎると思うんだ。きっと、何か他にも隠していることがあるんだと思うよ」

「隠している事って何ですか?」

「これは私の予想なんだけど、近いうちに悪魔の家で悪魔を召喚する儀式でもやるつもりなんじゃないかな。そんな儀式をやったところで悪魔なんて呼び出せないと思うんだけど、それにうまなちゃんが関わるってのは避けたいんだよね」

 私も千秋も何をすればいいのかわからず、重なっていた手をお互いに強く握っていたのであった。

 何があるのか聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な心境ではあったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る