第33話 あの車とあの霊
清澄さんがまとめてくれた資料には私が思っていた事よりも良くないことが書かれていた。
こんなことが実際に行われているのかと思うと、私はその現実を受け入れることが出来ずにいた。
「これって本当なんですか。青木たちの付き合ってる人の先輩の先輩って事は青木たちは直接関わってないって事ですよね?」
「今のところはね。ただ、この子たちも悪い大人に騙されて悪いことをさせられるのも時間の問題なんだろうね。真面目な子ほど落ちるのはあっという間だったりするしね。だから、君たちもこの件から手を引いて僕たちに全部任せてくれていいんだよ。友達の事を心配する気持ちはわかるけど、危険なことにわざわざ首を突っ込む必要なんてないんだからね」
「正直に言って、ここまでヤバいとは思ってなかったです。悪いことって言ってもタバコとかお酒くらいだと思ってました。でも、これって完全に犯罪ですよね?」
「そうだね。これは犯罪だね。それも、かなり危険な行為だよ。ちなみになんだけど、君たちは悪魔の家って聞いたことあるかな?」
色々と動揺してしまっていて頭の中が混乱していたけれど、私は悪魔の家という話は聞いたことが無かった。
「町はずれの森にある一軒の教会風の建物で悪魔召喚の儀式を行っている。なんて噂を小学生の時に聞いた記憶があります。私は直接見たことがないんですけど、写真で見た記憶があります」
「千秋ちゃんは噂を聞いたことがある程度なんだね。茜ちゃんは何も知らないって事でいいかな?」
清澄さんはいつになく真剣な眼差しを私に向けてきていた。愛華ちゃんも私を真剣な表情で見つめていた。千秋だけは不安そうな表情を浮かべていた。私も多分不安そうな表情だったとは思うけど、千秋とは違って何も知らないという事の不安な気持ちだったと思う。
悪魔の家ではかつて恐ろしい事が起こっていた。
あの家の持ち主はかつては裕福な男ではあったが、今の持ち主である中田博臣に騙されるような形で資産をすべて奪われ、最終的には自ら命を絶ってしまったそうだ。
警察も事件ではないかと捜査してはいたものの、決定的な証拠は何一つ出て来ることはなかった。それどころか、二人の間に事件になりそうなことは何一つ起きていなかったのである。
だが、中田博臣はとある人物の力を使って悪魔の家のかつての持ち主からすべてを奪い取ってしまったのだ。中田博臣に力を貸した男の名は土山久雄。その世界では名の知れた霊能の力者だそうだが、うまなちゃんの両親とは違って表に出ることは全くないので私たちみたいな一般人がその名前を知ることはない。
ちなみに、中田博臣はあの車の持ち主である金髪で感じの悪い男だという事だ。これは偏見かもしれないけど、あの人ならそんな悪いことをしてしまいそうな感じはしていた。
清澄さんも愛華ちゃんも土山久雄と知り合いらしいのでうまなちゃんを巻き込まないように説得はしてみるそうだけど、中田博臣を止めるのは難しいようだ。
「その土山って人を使って中田を止めることも無理って事なんですよね?」
「無理だろうね。土山久雄は中田博臣に弱みを握られちゃってるんだよ。僕たちも土山久雄を助けたいとは思ってるんだけど、なかなか簡単にはいかないんだ」
「それだったら、悪魔の家の元々の持ち主みたいに中田博臣に直接自分の手で命を絶ってもらえばいいんじゃないですか。私には何も見えないんでよくわかってないですけど、茜がおしっこ漏らしちゃうくらい怖い幽霊ならそんな人くらい簡単に殺せちゃうんじゃないですかね」
千秋の余計な一言で二人の視線が私に向いてしまった。私は自分でもわかるくらい顔が赤くなっていると思う。それでも、優しい二人は私が漏らしてしまったことには触れないでいてくれた。
「怖い幽霊ではあるんだけど、幽霊ってのは健康で元気な人間を呪い殺すことなんて出来ないんだよ。幽霊が相手を呪い殺すために必要なのは、幽霊である自分の姿を認識させたうえで恐怖を抱かせる必要があるんだよ。幽霊の姿が見えなくても怖いって思う気持ちがあれば多少は心を弱らせることも出来るんだけど、当然そんな事で命を奪うことなんて出来ないんだよ。人間ってのは自分で想像しているよりもずっと心が強いからね」
「じゃあ、中田に幽霊を認識させて怖がらせ続ければいいって事ですよね?」
「そうではあるんだけど、中田博臣は自分の事しか信じてないから幽霊がいても見えないんじゃないかな。千秋ちゃんと違って幽霊がいるなんて微塵も思ってないだろうからね」
「え、信じていないんだったらあの怖い幽霊を車に憑かせた意味ないんじゃないですか?」
私が思っていたことを清澄さんに聞いたんだけど、千秋も同じことを思っていたみたいで私と同じことを清澄さんに聞いていた。
「二人ともそんなに慌てなさんな。中田博臣に見えなくても土山久雄にはとっても効果が有ると思うんだ。彼が握られている弱みも命を奪われるようなモノじゃないし、あの幽霊ちゃんを見たら土山久雄も僕たちの事をわかってくれるんじゃないかな。彼を説得するための窓口になってもらおうって思ってるんだよね。まあ、話し合いの場にきてもらえないとしたらそのままあの幽霊ちゃんが勝手に行動しちゃうだけなんだけどね」
私は清澄さんの事を良い人だと思っていた。間違いなくいい人ではあるのだけど、仲間を守るためだったらどんなことでもするんじゃないかという怖さはあった。
もしかしたら、仲間というくくりではなくうまなちゃん限定の話なのかもしれない。
千秋も私と同じことを考えているのかもしれない。不安そうな表情を見ているとそう思ってしまったのだけど、千秋に目にも私が不安そうな顔をしているように映っているんだろうな。
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