第32話 可愛らしい双子

 話の流れで秋の防災キャンペーンのポスター用の写真を撮ることになったんだけど、今回は私ではなく双子の中学生の女の子がモデルになるようだ。

 なぜ私が呼ばれたのかというと、前回モデルをやったことで感じたことを双子の女の子に伝えるためらしい。

 というのは建前で、本当はその後に清澄さんから霊の車についての話を聞かせてもらえるという事なのだ。


 双子の女の子は私の時と違ってかなり緊張しているのか終始うつむいたままで挨拶をしても目が合うことはなかった。一瞬だけ顔を上げてくれた時もあったのだけれど、その時も厚い前髪が壁となって目を見ることは出来なかった。

 それでも、モデルの仕事には興味があるようで私が話している時に一人は真剣に頷きながら聞いてくれていたし、もう一人の子は熱心にメモを取っていたのだ。双子とはいえそう言った細かいところは意外と違うもんなんだという事がわかって少し面白かった。

「あの、私たちと一緒に写真を撮ってもらってもいいですか?」

 話が一通り終わって帰り支度をしていた時に双子が同時に私に話しかけてきた。

「別にいいけど、写真を撮るなら愛華ちゃんにお願いしてこようか」

 零楼館は写真館であってそこにプロのカメラマンがいるので写真を撮るならプロに頼むのが当然だと思った私は友人でもある愛華ちゃんに当たり前のように頼もうと思っていたのだが、双子が私と一緒に取りたい写真というのはそう言ったプロが撮った写真ではなくいつもとっているような日常的な写真だったようだ。

 私としてはプロにちゃんとしたカメラで撮ってもらった方が良いのではないかと思っていたりもしたけれど、双子ちゃんたちは自分のスマホで自撮りすることに意味があるようだった。

「ありがとうございます。私たち茜さんの写真を見て感動してモデルの仕事に応募してみたんです」

「そうなんです。私たち二人とも茜さんの大ファンなんです。だから、こうして一緒に写真を撮ってもらってすごく嬉しいです」

 ポスターを見た人から話しかけられることはそれなりにあったけれど、こうして面と向かってファンだと言われたのは初めてだったので少しむず痒い気持ちになってしまった。

 隣にいる千秋がそんな私を見て嬉しそうにしているが、何か変なことを言い出したりしないか少しだけ心配になってしまった。この前の私の失態を言ったりなんてしないだろうなと考えていたけれど、千秋はそんな事を言う子ではないというのは昔から知っているのだ。

「良かったじゃない。あんたのファンだって言ってくれた人は私が知ってるだけでも初めてだよね。他に誰かからファンだって言われたことあるの?」

「無いよ。写真良かったよとか綺麗だねとか世界一可愛いとかこのままミスユニバースに出ちゃえとかは言われたことあったけど、ファンだって直接言われたことは初めてかも。なので、ちょっと驚いちゃったけど嬉しいよ」

「あんたね、ファンだって言われて嬉しく言ってのはわかるけどさ、そんなしょうもない嘘つかなくてもいいでしょ」

「嘘じゃないよ。近所のおじいちゃんが言ってたもん」

「ああ、あのおじいちゃんなら言いそうだわ。私の事もそんな感じで誉めてくれるからね。あのモデルの子より美人になるよって言われたし」

「確かに。その可能性はあるかもしれないな。千秋は私よりスタイルもいいし出てるところもちゃんと出てるもんね」

「こらこら、そこは私を誉めるところじゃないでしょ。そこの二人も茜に同調しないの」

 その後も少しだけお菓子を食べながら他愛もない話をして楽しい時間を過ごしていた。二人が帰った後はあまり楽しくない話を聞くことになるんだという事は何となくわかっていたので、私は四人で楽しく過ごしている時間がとてもかけがえのない時間だと感じていたのだ。

「ほら、もう双子ちゃんが帰る時間になっちゃったじゃない。楽しい時間ってあっという間ね。っとその前に、あんたのスマホ貸しなさいよ」

「なんで貸すの?」

「なんでって、あんたのスマホでも写真撮らなきゃダメでしょ。あんただってファンだって言われて嬉しいんだろうし、ファンとの写真も一枚くらい撮っておきなさいよ」

 なんてことはない休憩室で撮った一枚の写真は私の大切な一枚になるだろう。

 私の事を好きだと言ってくれる二人と一緒に写った写真。

 そんな写真を撮ってくれたのが私の一番の親友であるという事実。

 愛華ちゃんに撮ってもらった写真の方が何倍も綺麗に撮れているという事は誰が見ても明らかだと思うけど、私は千秋が撮ってくれた写真の方が特別な気がしていた。

「そうだ。さっきみたいな写真もいいけどさ、三人で腕組んで撮ろうよ。いや、二人とも茜に抱き着いちゃっていいよ。その方が可愛い茜が見れると思うからね」

 千秋の提案を聞いて二人は少し躊躇していたようだが、千秋が何度も頷いているのを見た二人が同時に私に抱き着いてきた。

 嫌な気持ちなんてしないし嬉しいくらいだったけど、抱き着いてくる感じは二人とも同じなんだという事がわかり、やはりこの子たちは双子なんだという事を実感したのであった。

「良い子たちだったね」

「そうだね」

「あんたは抱き着かれた時に怒るんじゃないかって少しだけ思っちゃった」

「そんなことするわけないでしょ」

「それもそうか。でも、本当にいい子たちだったね」

「うん、千秋のおかげでそれが良くわかったよ」

「本当はあんたを困らせたいって思っただけなんだけどね」

「知ってる。それがわかってるから素直に受け入れられたのかも。素直に受け入れたら千秋が驚くかと思ったからね」

 いつまでも楽しい時間が続けばいいな。

 私と千秋は自転車に乗って帰っていく二人の背中を黙って見送っていた。

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