第31話 学校での様子

 千秋と二人で行動することが多い私にはなかなかうまなちゃんと二人でお話をする機会というのものが無かった。放課後の短い時間やお昼休みにうまなちゃんが一人でいるタイミングでしか話すことが出来ないんだけど、そんな短い時間では私が伝えたいことや聞きたいこともろくに聞くことが出来ずに時間が過ぎていってしまっていた。

「あんたってさ、どうでもいいと思ってる相手には何でもズバズバ言ったりしてるのにさ、うまなちゃんには事前にまとめてた質問すら出来ないって面白いね。いや、そういう意味で面白いって思ってるんじゃなくて、あんたもそんな乙女っぽいところがあるんだなって思って面白いって言っただけだし。そんな目で睨まなくてもいいでしょ」

「別に睨んでなんてないし。千秋くらい気軽に話すことが出来ると思うんだけどさ、いざうまなちゃんを目の前にすると緊張しちゃうんだよね」

「緊張って、別に怖い人が見てるわけでもないんだから気軽に話してみたらいいじゃない」

「いや、うまなちゃんの守護霊であるイザーちゃんが凄い顔で私の事を見てくるんだって。別に私はうまなちゃんの敵ってわけでもないんだけど、どうしても他にうまなちゃんの事を守る人がいない場所だとイザーちゃんも殺気立ってしまってるんだよね。それが他の悪霊を寄せ付けない結界みたいになってるから仕方ないんだけどさ、私くらいには気を許してくれてもいいと思うんだよね」

「私がイザーちゃんの立場でもあんたには気を許さないと思うわ。だって、あんたって心の底ではうまなちゃんと何かしたいって思ってるんでしょ。ほら、あの時の駐車場で清澄さんが車に取り憑かせた幽霊に見透かされてた何かがあるって事でしょ。そんな事考えてるうちはイザーちゃんも心を開いてくれないんじゃないかな」

「別に、そういう事とか考えてないし。普通に仲良くなりたいだけだし」

「何か怪しいんだよね。あの時のあんたってお漏らししてしまうくらいビビってたって事だし、そこまで睨まれるようなことを考えてるって絶対怪しいよね。ほれ、何を考えてたのか言ってみなって。あんたがどんなこと考えてたか白状しちゃえって」

「そんなこと言われてもさ、別に友達なら普通の事しか考えてなかったんだって」

 普段であればこんなにグイグイ質問してくるタイプではない千秋がこんなに積極的なのは私の失態を見てしまったからなのかもしれない。それとも、私たちにしか見えておらず自分には何が起こっているのか全く分かっていないという焦りでもあるのだろうか。そんなモノは見れない方が良いに決まっているんだけど、千秋だけではなくうまなちゃんも私たちに見えているモノを見たいと思っているのが不思議でならない。

「本当に普通のことしか考えてなかったんだって。うまなちゃんも誘って三人で旅行に行きたいなって思っただけなんだよ。愛華ちゃんも誘って四人でもいいんだけどさ、遊びじゃなくて旅行になると愛華ちゃんも私たちもお互いに気を使い過ぎちゃって変な感じになっちゃうんじゃないかなって思ってはいるけど」

「確かに。私もうまなちゃんを誘って旅行に行ってみたいなって思ったことはあるよ。日帰りだったけど二人で遊びに行った湖とかもよかったしね」

「あそこは良かったよね。湖に行く途中にあった小屋の地縛霊が手招きして無ければもっと良かったんだけどね」

 駅から少し歩いた場所にある湖に遊びに行ったことがあるのだ。その湖は透明度も高く湖畔であれば軽く水遊びをすることも出来る場所なので家族連れなどもいて賑わっていたのだけれど、駅から湖までの道沿いに何軒か朽ちかけの小屋が放置された状態で建っていたのだ。その中の何軒かはガラスのない窓の向こうから手招きをしている地縛霊の姿を確認することが出来たのだった。

「ちょっと待って、その話って初耳なんだけど。なんでその時に言ってくれなかったわけ。あ、もしかして、湖にも何か怖いのがいたって事は無いよね?」

「え、そんなの見てないよ。私は別に何も見てないかな」

「思い出したけど、あのときってあんた何か適当な理由をつけて湖に入らなかったよね。あんなに暑くて文句言ってたのにつま先すら湖につけようとしなかったのってどういうことなのか説明してもらえるかな。もしかしてだけど、あの湖もその小屋みたいに地縛霊がいるとか言わないわよね?」

「そんなのいるわけないじゃない。あんなに広い湖に地縛霊なんていないって。私は千秋と違ってスニーカーで靴下もはいてたから濡れたくなかっただけだって。天気が良くても乾かすの時間かかっちゃうし、濡れた靴下とか気持ち悪いじゃない」

「でもさ、その後って一緒に足湯に入ってクレープ食べてたよね。足湯に入った後にあんたは鞄からタオルを出して足を拭いてたと思うんだけど、それって何か矛盾しているような気がするんだけどな」

「えっと、それはね、足湯に入る予定があったからタオルを濡らしたくなかっただけなんだよ。私の持っていったタオルって速乾タイプじゃないから乾くまで時間かかっちゃうんだって。だから、足湯まで濡らしたくないって思ってただけなんだよ」

「そうは言うけど、足湯を見つけたのって偶然だったよね。あんたも足湯があることに驚いてたと思うんだけど」

「そうだったかな。あんまり覚えてないな。クレープが美味しかったのは覚えているけど、足湯があったのを知っていたかどうかは覚えてないな」

「ふーん、別にいいけどね」

 何とかごまかすことは出来ただろう。

 千秋と一緒に遊びに行った湖は本当に底が見えるくらいに澄んでいたのだ。湖底に生えている水草が揺れているのがわかるくらいに綺麗だったんだけど、その水草の間から数えきれないくらいの目が私の事をじっと見つめていたのだ。人だけではなく、無数の動物の目も私を見つめていたのが怖くなって水に触れることが出来なかったのだ。

「私にはあんたが見えているものは見えないんだけどさ、あんたが何か見えてるんだってことくらいは気付いているんだからね。だから、隠そうとしても無駄だよ」

「え、何?」

「別に。何でもないよ」

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