第21話 悪魔の家と呼ばれている理由
遠くに見える車が近づいてきているのを見ていたのにもかかわらず浩二君がカーテンを閉めてしまった。
「ちょっと話があるから集まってもらっていいかな?」
あくまでお願いするという感じを装っているのだけれど、浩二君の表情と声は私に対して断ることは許さないという意思を感じさせるものであった。
あの車が本当にここにやってくるのか気になる所ではあるが、あの道を通っているという事はここにやって来ることは間違いないという事だと思う。他に行く場所もないしココに来る意外にあの道を走っている理由なんてないのだ。
「うまなちゃんってさ、詩織たちの事を信用してくれてるんだよね?」
「うん、もちろんそうだけど。それがどうかしたの?」
「いや、そう思ってくれるのは嬉しいなって思ってね。俺の事も少しは信用してくれてるかな?」
「それはどうだろう。詩織ちゃんが浩二君の事を頼りにしてるってのはわかるから私も信じていると思うんだけど、正直に言うと勇作さんはあまりそうじゃないかもしれない。ベンチに座っていた男の人もちょっと怖いなって思ったんだけど、あの人はそんなに悪い人じゃないのかなって思ってるよ」
浩二君は嬉しそうに笑ってくれたけどすぐにその表情から笑みが消えていた。
急にどうしたんだろうと思って詩織ちゃんたちに話しかけようと思ったのだけど、詩織ちゃんたち三人は何やら相談をしているようだ。私がそこに近付いていくと三人の口がピタッと塞がってしまったかのように黙ってしまった。どうして黙っているのだろうと思っていたけれど詩織ちゃんたちは私が何か言う前に浩二君の方を向いてしまった。
「ねえ、私たちもう帰りたいんだけど」
「ごめん、もう少し待ってもらっていいかな。勇作さんが電話してるんでそれが終わるまでは我慢してくれよ」
「わかったけどさ、ココってちょっと不気味なんだよね。ほら、茉子も友紀も見えるようになっちゃったんで不安がってるんだよ。うまなちゃんは相変わらず見えないみたいだから問題はないんだろうけど、それはそれで危ないんじゃないかなって思うんだ。だからさ、勇作さんに言って早くここから帰らせてもらえないかな」
「無理だと思うけど電話が終わったら聞いてみるよ」
勇作さんは浩二君を避けるように窓側へ移動すると先ほどの私と同様に少しだけ暗幕をずらして外を確認していた。
電話の相手と楽しそうに話をしている勇作さんではあったけれど、時々私たちの方を見ては楽しそうに話をしているのであった。
それにしても、私が車を見てから随分と時間も経っているように感じるのだが、車が近づいてきている気配は一切していなかった。ゆっくりと走っているようには見えたけれど、それにしても遅すぎるような気がしていた。
電話を終えた勇作さんはそのまま入り口の扉をあけて顔だけ外に出して何かを確認しているようだった。
わざとじゃないかと思うくらいの音を立てて扉を閉めた。その音に驚いている私たちのすぐ目の前のベンチに腰を下ろした勇作さんに向かって詩織ちゃんたちが詰め寄っていた。
「私たちはもう帰りたいんですけど。車を出してもらってもいいですか」
「そいつはちょっと無理かな。ほら、もう少しここでゆっくりしていったらいいと思うよ。君たちの友達が見えるようになるためにもみんなで協力しないといけないと思うからさ。そんな風に焦って帰ろうとしている君たちだって自分一人の力で能力を得たわけじゃないんだからね」
勇作さんの言葉を聞いて詩織ちゃんたち三人は顔を見合わせて困っているように見えた。「ここに来たのはうまなちゃんも私達みたいに見えるようにしてもらえるからって浩二から聞いたからなんです。だから私たちはもう帰ってもいいんじゃないかなって思うんですよ。ココはなんか怖い感じがしてるんでもう帰りたいんです。お願いですから私達だけでも返してください」
詩織ちゃんたちは私のためにここにやってきたと言ってはいるけれど、私はそんな事を頼んだ覚えはない。ちょっと前までは幽霊の姿を私も見てみたいと思っていたけれど、お地蔵さんを見つけることが私だけ出来なかった時点で本当に才能がないんだなと実感して諦めることが出来たのだ。それなのに、そんな風に詩織ちゃんたちが動いてくれていたというのはちょっと意外だった。
それからしばらくの間詩織ちゃんたちは勇作さんにお願いをしていたのだが、その状況が変わることはなかったのだ。むしろ悪化してしまったかもしれない。
「ココから逃げようとしたって無駄だよ。外に出るには鍵をあけなきゃいけないんだけど、その鍵って俺と今からくる博臣君しか持ってないからね」
「ちょっと待ってください。博臣君が来るのって俺たちが帰ってからじゃないんですか?」
「そんなわけないでしょ。お前らが帰ってから博臣君が来て何すると思ってるのさ。若くて可愛い子が四人もいるんだぞ、博臣君がそんな状況を放っておくわけないじゃん」
「話が違いますよ。詩織たちは見逃してくれるって約束したじゃないですか。栗宮院うまなを差し出せば今までの事を水に流してくれるって言いましたよね」
「言ったよ。間違いなく言ったよ。でもさ、今までの事は水に流したとしても、これからの事は関係ないよね。お前だって彼女以外の女とやってみたいって言ってたよね。浩二君」
「そんなの冗談に決まってるじゃないですか。男らしく約束は守ってくださいよ」
「何言ってるんだか全然わかんないわ。俺は別に約束なんて破った覚えはないけどね。ここに入ってきたのだってお前たちが自分の意志で入ってきたんだぜ。悪魔の家って知ってて入ってきたんだから、それ相応の報いは受けるべきなんだよ」
浩二君と勇作さんが揉めている。話の流れが良くわからないが、私たちは凄い窮地に立たされているんだという事だけは理解できた。
「博臣君は今到着したみたいだよ。大丈夫、博臣君は見た目はちょっと良くないかもしれないけど、君たちに新しい世界を見せてくれるからね」
私たちは自然と入り口に注目していたのだ。
浩二君は今にも泣きだしそうな顔で小さく震えながら何かを呟いているようだった。声が小さくて聞こえにくいけれど、かすかに聞こえてきた言葉をつなぎ合わせると謝罪をしているかのように聞こえてきた。
詩織ちゃんたちは浩二君を盾にして扉が開いて誰かが向かってきても大丈夫なようにしているのであった。
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