第20話 悪魔の家

 三角屋根が特徴的な家の前で車は止まった。悪魔の家について説明は何もなかったのにもかかわらず、車から降りて一目見ただけでこの家が悪魔の家と呼ばれている理由が何となく察しがついた。

「悪魔の家って言われてるだけあってカラスが多いよね。これだけカラスが多いってのは何か理由でもあるのかな」

 誰かに質問するかのように詩織ちゃんは呟いていたけれど、それにこたえる人は誰もいなかった。私は当然ここがどういう場所なのかわからないし、茉子ちゃんも友紀ちゃんもそれは同じだと思う。浩二君と勇作さんは何か知っていそうに見えるのは二人が妙に落ち着いているからなのかもしれない。

「とりあえず、中に入ってみようか。そうすれば悪魔の家って呼ばれている理由がわかるかもしれないよ」

「中に入るって、勝手に入って大丈夫なの?」

「それは大丈夫。管理している人にお願いして鍵も借りてあるからね。何の問題もないよ」

 勇作さんは私たちに見せるように一本の鍵を取り出すと、それをゆっくりと差し込んで当たり前のように回していた。管理している人が誰で何の目的でココを所持しているのかも気になる。たぶん、今ここでそんなことを質問しても答えてはくれないだろう。

 本当は中に入りたくないんだけど、ここで断ってもどうやって帰ればいいのかわからない。お父さんかお母さんに迎えにきてもらうにしてもココの場所をどう説明すればいいのだろう。もしかしたら、悪魔の家という事を伝えれば場所がわかるのかもしれないけど、そんな場所に私がいるなんて知ったらどう思われちゃうかな。

「ちょっとどころか凄く怖いんだけど。本当に入って大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。俺がついているし、勇作さんもいるからね。それに、ココは悪魔の家って呼ばれてはいるから変な奴はやってこないと思うし」

 不気味に鳴いているカラスの羽音が不安をあおっているように感じてしまいこのまま中に入らないのも怖いのではないかと思ってしまった。外にいてもカラスが怖いのだけど、いつの間にか屋根や電線に止まっていたカラスたちが家を取り囲む塀の上に移動していたことに気付いてここに立ち止まっていたら危ないのではないかと思ってしまった。他のみんなも私と同じことを思ったのか我先にと家の中へと入っていった。

 先に入った勇作さんが壁際にあったスイッチを押すと室内にぼんやりとした明かりが灯った。弱い明りのため全体をハッキリと見ることは出来ないのだけど、どうやらここはテレビや映画でよく見る教会のようになっていた。

「教会って初めて来たかも。ここって結婚式とかも出来たりするの?」

 茉子ちゃんの質問は私が思っていたことと全く違ったので一瞬何を言っているのだろうと思ったのだが、そんな素っ頓狂な質問にも勇作さんは真面目に答えてくれていた。

「やろうと思ったら出来るんじゃないかな。ここには神父さんがいないからどこかの神父さんにお願いする形になると思うけど、引き受けてくれる人がいるんだったら出来ると思うよ。ただ、どんなにお金を積んでも引き受ける人なんていないと思うけどね」

「それってどういう意味ですか?」

 先ほどの質問とは違って今度の茉子ちゃんの質問は私が考えていたことと同じだった。

「君たちは気付いてなかったかもしれないけど、ココの十字架って上下が逆になってる逆十字なんだよね。悪魔を崇拝しているとか言われがちなんだけど、特別そういう意味はないって言ってたな」

「それって、断られるのとどういう繋がりがあるの?」

「断られる理由ってのは、ココが教会なんじゃなくて教会風に作られた個人所有の家なんだよ。悪魔を崇拝しているという事でもなければ教会でもないただの家なんだ。そんなところに普段から付き合いのない人が来てくれるとは思わないからね」

 誰かの家という事だが、趣味が良いのか悪いのか判断に困る。外観に比べればカラスがいないだけマシかもしれないけど照明が暗すぎるのがあまり良くないような気がする。窓もいくつかあるのだけどすべての窓に遮光カーテンが設置されていて日差しは一切入ってこないようになっている。外が見えたとしてもカラスの姿が気になってしまうんじゃないかな。そう言えば、中に入るとあれだけ聞こえていたカラスの鳴き声が一切聞こえなくなっていた。


 カーテンを少しだけずらして外の様子を見ていると塀の上にとまっていたカラスたちが一斉にこちらを見て目が合ってしまってビックリしてしまった。私と目が合っているカラスは小さく飛び上がってから向きを変えて背中を見せると、誰かを迎えるかのように手招きでもするかのように二度翼を動かしていた。

 私には見えない何かを出迎えているのかと思って目を凝らしてみていたところ、私たちがやってきた方から一台の車がゆっくりと向かってきていた。この建物は行き止まりにあることからあの車もココへやって来るのだとは思うのだけど、いったい誰が何の用でここまでやってこようとしているのだろう。

「ココを貸してくれた人ってさ、君たちみたいな若い女の子が好きなんだよね。若いってより幼い感じの子もいるけどさ、そんなのってあの人から見たら誤差みたいなモンなんじゃないかな。久雄さんは君たちに興味ないみたいだけど、君たちみたいに若い子に興味ある男は多いからね」

 勇作さんはやたらとスマホを見ていた。その横で浩二君がうつむいていた。勇作さんは私たちの事をゆっくりと嘗め回すように見ていたけれど浩二君は顔を上げることもなく何も言ってくれなかった。

「悪魔の家って呼ばれている本当の理由、すぐにわかるからね」

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