第12話 三獣士・爆撃鳥のクロウ

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 ——四宮叶しのみやかなう&八神省吾やがみしょうごペア、八神省吾視点。


「おいおい、冗談じゃねーぞ。火の海じゃねーか」


 安全区域に配備されていた魔族討伐部隊の援護を受けつつ中央エリアまで足を進めた俺と四宮は燃え盛る住宅地を前に呆然と立ち尽くしていた。

 辺り一面が火の海に包まれている。

 四宮の水の神能で消火を行うにもどこから手を付ければいいのか分からない状況だ。


 安全区域を取り囲む四方の壁の一角、九重先生が向かったエリアに近づくにつれて黒い霧が濃くなってきた。

 魔族討伐部隊の中でも勘の良い奴が数人気付いているみたいだが、あそこには魔狼や魔猿とは比べものにならない何かがいる。


「空から何か降ってくるぞ!!」


 器用に外壁を登り屋根に飛び移った魔猿を銃撃していた隊員の1人が壁の方角の遥か頭上を指差す。

 霧に隠れて目を凝らさないと見えないが、バスケットボールほどの大きさの漆黒の球体が複数降り注いでいる。

 地上に球体が落下すると民家を消し飛ばす勢いの爆発が巻き起こった。

 瓦礫が吹き飛び、中央エリアの至る所で火の手が上がる。

 このままだと安全区域が更地になるのも時間の問題だ。


「四宮、大丈夫か?」


「大丈夫な訳ないじゃないですか。爆弾ですよ。あんなのに当たったら一発で死にますよ。神能十傑の九重先生ならまだしも英雄候補生の私達じゃ足手纏いですって。八神さんは死にたいんですか?」


 ここまで口数の少なかった四宮が一気に捲し立ててきた。


「死ぬつもりなんてこれっぽっちもねーよ。俺は俺よりも強い奴を喰らう。それが俺の行動原理だ。だから負けない」


「この間、三刀屋さんに負けてたじゃないですか。そんな戦闘狂みたいな考えだといつか命を落としますよ」


「チッ、四宮お前意外と言うじゃねーか」


 普段喋らないから大人しい奴かと思っていたがそうでもないらしい。

 周囲を見渡し被害状況の確認。

 魔族討伐部隊の隊員に被害は無し。隊員の数は3人。装備している武器は銃と刀。降り注ぐ爆弾を防ぐ術は無し、か。


 上空に目をやると鳥の群れが隊列を組んで飛んでいた。

 カラスのような黒い見た目。大きさはカラスの倍以上はありそうだ。

 爆弾を投下しているのはあいつらで間違い無い。

 だが。


「魔鳥の群れにしちゃ隊列を組んでるのはおかしいな」


 魔鳥は魔狼と魔猿と同じで低級に分類される。

 人間を殺すことに快楽を覚える奴らが他の個体と隊列を組んで飛行しているのに違和感を感じる。

 つまり魔鳥を統率している上位種がいる。


「八神さん後ろ!」


 背中に悪寒が走る。

 四宮の瞳に映る黒い羽の生えた獣人族のシルエット。

 黒翼を羽ばたかせてこちらを見下ろしている。


「我が名は爆撃鳥のクロウ。魔族七将・氷狼のヴォニア様の直属護衛軍、三獣士が一席」


 人間の言葉を話す魔族。

 軍師級。魔族の中でもかなり上位に位置する個体だ。


「愚かな人族に問う。氷騎士はどこだ?」


「氷騎士?」


 四宮はあの場にいなかったから知らないのも無理はない。

 氷騎士は教官が神能の武装化を発動した姿だ。


「遅い」


 クロウが風を切りながら地上に向かって急降下してきた。

 刀を構える魔族討伐部隊の3人の腹部に掌打を叩き込む。

 刹那、隊員の肉体が木っ端微塵に弾け飛んだ。

 俺と四宮は粉々になった隊員の肉片と血飛沫を全身に浴びる。

 あり得ない。

 レベルが違い過ぎる。

 隊員だって決して弱い訳じゃない。

 連携を取って魔狼や魔猿を難なく討伐していた。

 その隊員が反応すらできなかった。


「人族は戦場に子供を投入しなければならない程切羽詰まっているのか? だとすれば我々魔族が勝利するのも時間の問題。それで少年、答える気にはなったか?」


 クロウから向けられる冷酷な視線。

 返答を間違えれば命は無いだろう。


「ここにはいない。出張で東京に行ってるはずだ」


「そうか。どうやら嘘は言っていないようだな。であればお前達も用済みだ。街もろとも吹き飛ぶがいい」


 上空で待機していた魔鳥の群れが再び爆弾を投下。

 意識が上空に向いた一瞬で対峙していたクロウが懐に飛び込んできた。

 距離を取るべくバックステップで四宮が控える後方に下がるが、クロウはさらに地面を蹴り距離を詰めてくる。

 空からは爆弾が降り注ぎ、正面からはクロウの掌底が迫る。

 殺された隊員の姿が頭を過ぎる。

 触れられたら俺の肉体は跡形も残らず弾け飛んでしまうだろう。


「氷拳ッ!」


 突然現れた三刀屋の正拳突きがクロウの掌底と衝突する。

 爆発が起こるが三刀屋から放たれる強烈な冷気が爆発と爆風を相殺する。


氷山障壁アイスバーグカーテン


 上空に巨大な氷の塊が出現。三刀屋が神能を注ぎ込み規模を拡大していく。

 傘で雨を凌ぐように氷山の壁が爆弾を全て受け止めた。


「八神さん、四宮さん、遅くなってすみません。怪我はありませんね?」


「ああ、でも隊員が殺された」


「そうでしたか」


 三刀屋が地面にできた血溜まりを見つめて短く息を吐いた。


「氷の異能。この威力。氷騎士の血縁者か?」


「私の兄に何か用ですか?」


「我々は彼を殺さねばならない。ヴォニア様もそれを強く望まれている」


「兄さんを殺す? そんな物騒な話を聞いてしまってはあなたを生きて返す訳にはいきませんね。まあここで私が手を出さなくても獣人風情に兄さんが負けることはあり得ませんが」


 溢れ出る氷のオーラ。

 兄が標的にされていると知り、三刀屋の怒りのボルテージが上がった。


「黙って聞いていれば人族が調子に乗るな」


 クロウが黒翼を羽ばたき三刀屋の間合いに入り込む。

 再び氷を纏った三刀屋の拳とクロウの掌打がぶつかる。

 威力は完全に互角。

 爆煙を振り払うようにクロウが空に飛び立つ。


氷柱吹雪アイシクルブリザード


 三刀屋が氷の礫を複数展開してクロウ目掛けて一斉に放出する。

 クロウは空中で方向転換して寸前のところで回避した。

 鳥の獣人。

 フィールドが地上から空中に移ってしまってはこちらは成す術がない。

 実際にクロウの遥か上空にいる魔鳥は無傷だ。


「八神さんと四宮さんは住民の避難誘導に回って下さい。爆発に巻き込まれて動けなくなっている住民が多くいるはずです」


「分かった。四宮、行くぞ。俺達が残っても三刀屋の邪魔になるだけだ」


「はい」


 魔鳥をジッと観察していた四宮の手を引く。


「そう簡単に逃がす訳が無いだろ」


 撤退する俺と四宮を逃がすまいとクロウが高速で黒翼を振るう。

 矢のように放たれた鋭い黒羽が俺達の背中を捉える寸前、地面から氷の柱が生成され攻撃を防いだ。


「あなたの相手は私です。よそ見をしている暇はないと思いますが」


「いいだろう。お前の屍を餌に氷騎士をおびき出すとしよう」


 英雄候補生の首席・三刀屋亜紀と魔族七将・氷狼のヴォニア直属護衛軍、三獣士が一席・爆撃鳥のクロウが激突する。


 俺にもっと力があれば三刀屋と並んで戦うこともできただろうが、今のレベルじゃ逆立ちをしても無理だ。

 口ばかりで行動も実力も伴わない自分に腹が立つ。

 だが、今は死んだ奴らの分まで救える命を救うだけだ。

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