第29話 分断と襲来

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 魔族七将・氷狼のヴォニアと三獣士。

 この4体を倒せば作戦は完了する。

 作戦の鍵を担うのは亜紀だ。

 必殺とも呼べる広範囲攻撃をぶつける事ができれば数の差なんてあってないようなもの。

 できる限り亜紀を温存した状態で敵の本陣に突撃する。

 そこに至るまでの障壁はオレ達で取り除かなければならない。


「八神、空港での三刀屋先生の話はどう思った?」


「教官は簡単に言ってたけどそれが難しいから人類は押されてんだろ?」


 仙台空港から仙台駅までは17キロ。

 鍛え抜かれた隊員達であれば1時間30分あれば仙台駅まで辿り着く事ができるだろう。

 先頭集団を走る二階堂兄と八神は会話をする余裕を見せている。

 これも日頃の訓練の成果だ。


「下級や知略型の魔族を従えているのが軍師級と将軍級。確かにその4体を倒せば指揮系統は崩壊して安全区域襲撃の時のように掃討戦ができなくはなさそうだけどあの時とは桁が違う」


「雑魚を従えてるなら指示だけ出して高みの見物でも決め込んでんじゃねーのか?」


「まあその可能性もあるだろうね。ただ前線には五色さんと九重先生がいる。大敗して後退したとは言っても下級と知略型だけで討ち取れるとは敵も思っていないはずだ」


 二階堂兄の分析は正しいが八神の疑問もあながち外れてはいない。

 今回の戦争の構図はあくまでも人類が攻め、獣人族が守りだ。

 初動で攻めの姿勢を見せたものの結局のところ獣人族は魔族の大黒門イビルゲートを死守しなくてはならない。

 人間界と魔界を繋ぐ唯一の移動手段だからな。

 それと同時に力の源である魔素を大量に排出する役割も持ち合わせている。

 掴みの一戦で前線のラインを上げることに成功したヴォニアは魔族の大黒門イビルゲートの守護に専念する可能性も十分に考えられる。


 が、しかし、1万を超える大軍を起こした背景を汲み取るに短期決戦で決着をつけにきたとも捉えられる。

 氷狼のヴォニアは力に絶対的な自信があるタイプだと言われている。

 オレ個人としては大和さんと九重さんを倒しに自ら出向いている線が濃厚だと思う。


「本当に勝てんのか?」


 八神の問い掛けに二階堂兄が黙り込む。

 隊員の中にも八神と同じ気持ちを抱えている人は多いはずだ。

 その証拠に2人の会話を聞いていた隊員達が苦い表情を見せていた。

 それくらい人類は危機に立たされている。


「獣人族の狙いは三刀屋先生だ。俺達が前線に辿り着いた時、この戦争の最終局面を迎える。負けたら全てが終わるんだ。俺達でどうにかするしかないだろ」


 勝てる、勝てないではない。

 やるしかないと二階堂兄は断言した。


「そうだな」


 今回、仙台駅に向かうルートとしてJRの線路沿いを進む経路を採用した。

 仙台空港から最寄りの名取駅まではアクセス線が通っている。

 距離にして8キロと少し。

 残りの9キロは名取駅→南仙台駅→太子堂駅→長町駅→仙台駅とJRが通っている。

 当然電車は止まっているので自分の足で向かうしかない。


 全体の半分に差し掛かろうかという地点。

 名取駅を射程圏内に捉えた頃。

 そこで異変が起きた。


『「全隊員戦闘態勢ッ!」』


 魔力反応を感知したオレと天草さんの声が重なった。

 隊員達は足を止めて武器を構え、周囲を警戒する。

 次の瞬間、大量の爆撃と共に地震のような揺れが襲い、大地が四方に裂けた。

 深淵が顔を覗かせ、逃げ遅れた隊員が次々と闇に飲み込まれていく。


「くそッ、戦力が分断された。大丈夫か亜紀?」


「はい、問題ありません。ですが今のでかなりの人数がやられてしまいました」


 大きな魔力反応は3つ。

 それぞれが大軍を率いている。

 その内の1体が上空からこちらを見下ろしている。


「各自目の前の敵を討伐する事だけに神経を注げ!」


 漆黒の羽を生やした獣人族を睨みつけながら全隊員に指示を出す。

 四方に裂けた地面を飛び越えることは不可能。

 神能で氷の橋でも架ければ行き来はできるが敵がそれを許すはずもない。

 500人が4つに分断された以上、それぞれが目の前の敵を倒すしかない。


「ぐああああああああ!!!!」


 背後から聞こえる隊員の断末魔。

 周囲を見渡した感じ、軍師級の他にも知略型が多く混ざっているな。

 かなりの苦戦を強いられるだろう。


 亀裂の向こう側、隣のフィールドで炎の壁が円形に展開された。

 そのおかげで黒い霧による視界不良は多少改善されたが、戦闘の様子がまるで分からなくなった。

 確か獅子の見た目をした魔族と八神、四宮がいたはずだ。


「喜べ、クロウ隊。どうやら我々が当たりを引いたようだ」


 三獣士・爆撃鳥のクロウが黒翼を羽ばたかせ、空中で静止する。

 クロウの背後には魔鳥の群れが控えている。

 正面には魔狼、魔猿、黒焔狼、白月猿が興奮した様子で開戦の合図を待っている。


「今度は逃げなくていいのか?」


 神能の武装化『氷騎士』を発動。

 生成した氷剣に手を掛け、敵を挑発する。


「氷騎士、威勢の良さだけは褒めてやろう。だが背後は深淵、空と陸は獣人族の精鋭が抑えている。ここがお前の墓場だ。クロウ隊行け!」


 一斉に飛び出した魔族を横目に亜紀に視線を送る。


「亜紀、準備はいいか?」


「はい、いつでも行けます」


 拳に氷を纏い、口から冷気を吐き出す亜紀。

 完全に戦闘モードに入った。


「よし、行くぞ!」


 4つの戦場で同時に戦闘が始まった。

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