第3章 嫉妬と憧れと絶望と別れ
第17話 魔族討伐部隊クリムゾン緊急会議
—1—
魔族七将・氷狼のヴォニアの直属護衛軍『三獣士』の襲撃から2日。
オレは安全区域の住民の避難先である小学校の職員室にいた。
会議中という張り紙をドアに貼り付けてすでに人払いは済ませてある。
これから魔族討伐部隊クリムゾンの緊急会議が行われるのだ。
とは言っても各都市を防衛している神能十傑が同じ場所に集まることは不可能なので
プロジェクターを壁に投影し、会議に参加している人の数だけ画面が分割されている。
『
隊長の那由他さんはそう言いながら感慨深そうに笑みを見せた。
振り返ってもこのメンバーが揃ったのは第一次魔族大戦以来だ。
普段はそれぞれが那由他さんと直接やり取りをする為、全員が招集されること自体が珍しい。
『大和、宮城は大丈夫なのか? 安全区域が襲撃されたそうじゃないか。脇が甘いんじゃないのか?』
大和さんと親交の深い御影さんの棘のある発言に空気がピリッと締まる。
『一月前に異変は察知していたんだが、その後前線で変わった動きが無かったから意識が薄れていた。俺の失態だ』
『それで言うなら一月前に大和くんは自ら安全区域に忠告をしに来ていた。果たすべき役割を全うしていたと私は思うよ』
九重さんが大和さんのフォローに入る。
大和さんのおかげで敵が奇襲してくるかもしれないと身構えることができたのは大きい。
軍師級クラスには歯が立たなかったものの英雄候補生が下級の魔族を相手にしつつ住民の避難や救出に貢献できたのは大和さんの忠告あってのものだ。
『時間が惜しい。誰かの責任を追求している暇があるなら今後の対策を話し合った方が合理的だ』
『邦春さんの言う通りです。ですよね隊長?』
真桜さんが父さんに賛成する形で会話の主導権を那由他さんに戻した。
『御影隊員の宮城を心配する気持ちは最もだと思う。それを踏まえて情報共有と今後の方針について説明させてもらうよ』
那由他さんが画面を共有モードに切り替えてスライドを表示させた。
【魔族七将】
人魔族 不敗のチェイン『北海道』
獣人族 氷狼のヴォニア『宮城』
竜族 赤燐のフレディーネ『東京』
鬼族 屍術の黒鬼・夜叉『大阪』
×機械族 創造のユノ
×巨人族 戦鎚のギガス
×妖精族 悪夢のオボロン
『現在生き残っている魔族七将は4体。右が拠点を置いている都市名だ。一方で神能十傑の生存者は5人』
スライドが切り替わる。
【神能十傑】
×
×
×
×
×
魔族七将と同じように名前の横に防衛都市名が記載されている。
4体と5人。数では人類が勝っているが第一次魔族大戦の被害を考慮すると安心はできない。
『神能十傑は神能を宿した各血族の最も戦闘能力に優れたメンバーで構成されている。それでも魔族大戦で半数が犠牲になってしまった。これまで魔族側に目立った動きが無かったから欠番扱いにしていたけど、先日の東京や宮城の襲撃を受けて空いた穴を埋めたいと考えている。みんなの意見を聞かせて欲しい』
神能十傑の復活。
厳密には欠番の補充だが。
戦場で名前の通っている隊員は何人かいるがお世辞にも神能十傑レベルには届いていない。
良くても知略型と互角といったところだろう。
『実力が伴っていなければ称号は飾りにしかならないと思うぞ』
『邦春隊員、それは理解している。だから今すぐに全員分を埋めるつもりはないよ』
段階を踏み、何らかの功績を上げて神能十傑に認められた者が空いた椅子に座る権利を得る。
そんなところか。
『隊長はならないんですか?』
真桜さんが素朴な疑問をぶつける。
『私は神能を宿していないからそもそもその資格が無い』
人類最強と呼ばれる那由他さんだが彼の本質は剣術にある。
神能を宿す家系に生まれながら神能を宿さなかった那由他さんは刀を手に取り稽古に励んだ。
ひたすらに剣を磨き上げた結果、彼の剣術は唯一無二の武器となった。
それは神能をも凌駕する。
『資格がどうとか言っている状況じゃないんじゃないか? 魔族討伐部隊クリムゾンの隊長が神能十傑になると言うのなら反対する者は出ないはずだ。違うか?』
御影さんの問い掛けに神能十傑のメンバーは黙り込む。
少なくてもこの場に反対する者はいないらしい。
『真桜隊員、御影隊員、少しだけ考えさせてくれ。他に意見がある人は?』
『俺は枠を埋めることには賛成する。人数が増えれば今回の宮城のような奇襲にも対応できるからな。だが基本的には邦春の意見と同じだ。実力が伴った人を神能十傑に迎え入れるべきだ。そういった意味でも現時点で即戦力なのは奈津くらいだろうな』
思わぬ形で大和さんからボールが回ってきた。
『魔族七将・戦鎚のギガスを倒した実績と前線の防衛。うん、良いんじゃないですか?』
真桜さんが乗っかってきた。
『奈津隊員も20歳を超えたことだし、表舞台に立つ頃合いだと思うがどうだろう?』
戦鎚のギガスを倒した時は15歳。
力を利用しようとする悪意ある大人からオレを守る為に那由他さんがその事実を隠蔽した。
20歳を超え、もう守る必要は無くなったという那由他さんなりのメッセージだろうな。
『評価して頂いてる点は率直に嬉しく思います。しかし、オレがギガスを倒したことは世間に公表されていません。にも関わらず神能十傑に名前を連ねてしまっては組織の内外から納得しない人間が出てくると思います』
『そこに関しては心配いらない。これから実績を作って貰えばいい』
那由他さんが不敵に微笑んだ。
オレの頭に那由他さんと交わした約束が過ぎる。
東京から宮城の安全区域に向かった際、魔狼の進化形態である黒焔狼を使役していたことを明かした。
許可の無い魔族の使役は規定違反だ。
罰として那由他さんの命令を何でも1つ聞くという約束を結んだのだ。
『奈津隊員にスポットが当たったからちょうどいい、先日の安全区域の襲撃について話そう。魔族を率いていたのは魔族七将・氷狼のヴォニア直属護衛軍の三獣士と名乗る3体。爆撃鳥のクロウ、怪猿のバオ、炎獅子のライオネルだ』
神能十傑の話から安全区域襲撃の話にすり替わった。
『爆撃鳥のクロウと交戦した八神省吾隊員、三刀屋亜紀隊員の証言によると敵の狙いは奈津隊員だったそうだ。正確には氷騎士と呼んでいたらしい。どうも氷狼のヴォニアと戦鎚のギガスは親密な関係だったらしく、ギガスを殺した奈津隊員に復讐することが彼等の目的のようだ』
『復讐の連鎖ですね』
モニター越しの真桜さんの呟きが職員室に吸い込まれる。
『今回は偵察を兼ねた襲撃だったことが予想される。つまり近いうちに敵の本陣が攻めてくる可能性が高い』
那由他さんの言葉に大和さんの表情が引き締まる。
『これまでの我々であれば待ちに徹していたが今回は敵の目的も明確になっている。万全の状態で攻められる前にこちらから総攻撃を仕掛けたいと思う』
ここで那由他さんの発言に繋がってくる。
「実績を作って貰えばいい」。
命令されたら断れないオレを総攻撃のメンバーに加え、氷狼のヴォニアを討ち取らせるということか。
『奈津隊員、大和隊員と共に氷狼のヴォニアを倒してくれ』
全員がオレの返事を待つ。
「分かりました。全力を尽くします」
『では、詳細は後ほど改めて話す』
会議はその後もしばらく続いた。
各防衛都市の定期報告が行われ、オレは英雄候補生を英雄にするまでのプランを話した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます