第2章 ゲート発生
第9話 違和感の正体
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——東京、魔族討伐部隊クリムゾン本部。
テーブルを挟み、将棋盤を睨み合うオレと那由他さん。
英雄候補生特殊訓練施設に教官として配属されてから1ヶ月が経過した。
今回はその定期報告で本部を訪れたのだが、気が付けばなぜか将棋を指すことになっていた。
「どうだ? 英雄候補生は魔族七将を討ち破る器になりそうかい?」
「片鱗が見えてる生徒もいます」
駒が目紛しく盤上を駆け回り、現在は那由他さんが優勢の局面を迎えている。
「ほう、奈津隊員の目から見て一番の有望株は誰かな?」
「そうですね」
盤面の何手先まで見えているのか、こちらが駒を動かしてすぐ間髪入れずに那由他さんが次の一手を打ってくる。
「亜紀隊員は抜きにしよう。彼女は別格だからね」
那由他さんも亜紀の実力を認めている。
亜紀の真髄は3系統ある神能の極地の1つ『広範囲攻撃』にある。
訓練では使用する機会が無い為、八神の指導に徹してもらっているが相手が魔族、それも数が増えれば増えるほど亜紀の力は強大になっていく。
「まだ荒削りですが
「奈津隊員がそこまで言うとは興味が湧いてきたな」
二階堂の父、鷹斗は第一次魔族大戦で戦死している。
鷹斗を殺した相手こそ宮城県仙台市の
先日、施設を訪ねて来た神能十傑の五色大和とオレの模擬戦を見てからというもの何かに触発されたのか訓練に取り組む姿勢が変化した。
復讐すべき対象と常日頃から相対している大和を見て目標が明確になったのか。
訓練に取り組む彼女は鬼気迫るものがあった。
それに引っ張られるようにして同じメニューをこなす
雷の神能のコントロール、威力調整、二重攻撃。
いずれもかなりの完成度で習得している。
1ヶ月前の魔狼戦とは比べものにならない。
亜紀と近接戦闘を行う八神も我流ではあるが体術を身に付けた。
最初こそ乱暴な振る舞いが目に付いたが、今では亜紀と師弟関係のような形になっており心から亜紀を尊敬しているのが見て分かる。
亜紀と初めて対戦した際に完全に心を折られたのが八神にとっては良いきっかけだったのかもしれない。
その他の生徒も基礎訓練を一通り終え、次回からは戦場での対人戦闘を想定した訓練に入ろうかというところだ。
「魔族側の動きはどうですか?」
「2週間ほど前に東京でそれなりに大きな動きがあったが君の父、
「そうですか」
「宮城は大和隊員から報告は受けているがあれから4週間経っても魔族に動きはないようだ。突然発生型のゲートも観測されていないしな」
4都市を防衛する神能十傑の活躍によって平和は保たれている。
このまま誰も欠けずに何事もなければとつい心の中で願ってしまうがこの瞬間も世界は着々と終わりに向かって近づいている。
「これだけ盤面が見えているのなら那由他さんの目には世界の終着点が見えたりするものですか?」
オレの何気ない質問に将棋を指す那由他さんの手が止まった。
「面白い質問だな。世界の終着点か。私が思うにその瞬間は2度訪れると考えている」
「滅びと再生を繰り返すということですか?」
「奈津隊員は言葉の表現が面白いな」
那由他さんが感心したように微笑んだ。
世界の終着点は2度訪れる。今まで考えたこともなかった。
2年11ヶ月後に世界のリセットが行われる。
世界のリセットは滅びを意味するのか、再生を意味するのか。
オレが思考の海に潜っていると那由他さんがそっと将棋盤から手を離した。
「王手だ」
意識が現実へと引き戻されたのと同時にドアが勢いよく開かれた。
「那由他さん緊急事態です!」
駆け込んできたのは那由他さんの秘書をしている
桃色の髪が乱れており息も上がっている。
「そんなに慌ててどうした?」
「宮城県の安全区域において突然発生型のゲートが多数出現したと報告が入りました! 神能十傑の九重さんに討伐要請を依頼しましたがゲートの数が多く対応に時間が掛かることが予想されます!」
「複数のゲートが同時に発生したか」
「それと1箇所だけ魔力の高いゲートが確認されています!」
大和さんの予想が嫌な形で的中した。
魔力の高いゲートが発生したということは敵は軍師級の魔族を投入した可能性が高い。
九重さんがいるとはいえ、安全区域の住民を避難させながら複数の魔族を相手にするのは難しい。
実戦を経験していない英雄候補生も現段階では足手纏いになるだろう。
「奈津隊員、宮城に向かうぞ」
「分かりました」
那由他さんが部屋の隅に飾られていた青黒い柄が特徴的な刀を手に取った。
そのまま腰に差して足早に廊下へと向かう。
オレは詰んだ将棋の盤面を見下ろしながら以前から抱えていた違和感の正体について考えていた。
唐突に前線を外され、宮城県の安全区域で英雄候補生の教官を務めるよう任命された。
それと時を同じくして宮城県の
そして、オレが東京に出張したタイミングでゲートが複数発生した。
これらは全て偶然なのか?
偶然がいくつも重なればそれは偶然ではなくなる。
「三刀屋さん、どうかしましたか?」
「いえ、少し考え事をしてました。行ってきます」
百園さんに頭を下げ、オレは小走りで那由他さんの背中を追うのだった。
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