第3話 神能十傑の血族

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「命令する。英雄候補生を殺せ。殺すことができた奴はオレの縛りから解放してやる」


 魔狼が囚われた檻の前に立ち、強烈なプレッシャーを掛ける。

 氷結縛鎖フリーズドスレイブからの解放。

 報酬をチラつかされた7体の魔狼は鋭い目つきでグラウンドで待機する英雄候補生を睨みつける。


 檻の扉を開き、魔狼の首から伸びる氷の鎖を握り締める。

 獲物を前にして魔狼は興奮を抑えられないといった様子。

 よだれを垂らし、尖った牙をガチガチと鳴らしている。


「よし、準備はいいか? これからお前達が戦う相手だ。1人1体倒すことを初回の講義の最低条件とする。達成できなかった者は魔族討伐の適正無しと判断してここから去ってもらう」


 魔族には階級がある。

 ピラミッドで例えると下から、知能が低く人間を襲うことに快楽を覚える戦闘要因。兵士的ポジション。

 知能が高く、自身で物事を考え他の個体と連携を図る知略型。

 人間の言葉を操り、時には罠を仕掛け、大勢の配下を抱えている軍師ポジション。


 今回、英雄候補生が戦う魔狼はピラミッドの最下層に位置している。

 しかし、人間を殺せば拘束から解放されるという分かりやすい報酬を提示した為、魔狼が必死になるのは容易に想像できる。


 四足歩行で地を駆ける俊敏性。

 強靭な顎と鋭い牙。


 神能を顕現させていない魔族狩人イビルハンターが相手をするとなると苦戦を強いられる可能性も十分あるが、さて神能十傑の血族だとどうなるか。


「い、いきなり実戦だなんて……」


「いいねー、面白くなってきた」


 青髪の少女、四宮叶しのみやかなうが怯えた視線を魔狼に向ける中、八神は好戦的な笑みを浮かべていた。

 他の英雄候補生も覚悟を決めたのか戦闘態勢に入った。


「始め!」


 掛け声と共に魔狼の首に繋がれた氷の鎖を解除すると魔狼が一斉に飛び出した。

 英雄候補生もグラウンドに散らばって戦闘スペースを確保し、魔狼を迎え撃つ態勢を整える。

 オレは英雄候補生の名簿に記載されていた情報を参考にしながらそれぞれの戦闘スタイルを見極めることにした。


一条織覇いちじょうおりは18歳。神能は雷」


 すらっとした体型に金髪が映える少女。

 指先から電撃を放出させ、魔狼を仕留めようと軌道をコントロールしているが魔狼の俊敏性に翻弄され振り回されている。


二階堂紅葉にかいどうくれは16歳。英雄候補生の中では最年少。神能は炎」


 燃えるような赤髪に魔狼に対して敵意剥き出しの切長の目。

 火球を生み出し、中距離から魔狼に投げつけている。


二階堂星夜にかいどうせいや18歳。紅葉の兄。神能は同じく炎」


 腰に差していた剣を抜き、正眼に構える。

 一連の所作からそれなりの実力者であることが窺える。

 剣に炎を纏い、飛びついてきた魔狼目掛けて一気に振り抜く。

 が、魔狼もただではやられない。

 鋭い牙で剣を受け止めるとそのまま二階堂兄に体当たりをした。

 二階堂兄は後方に弾き飛ばされるも勢いを上手く流し、バックステップで距離を取り、再び正眼の構えを取った。


三刀屋亜紀みとやあき17歳。神能は氷」


 亜紀に関して言えばこの程度の魔族であれば何ら心配はない。

 1つ気を付けなければならない点があるとすれば神能の威力が強すぎて周りを巻き込む恐れがあるくらいか。

 亜紀は頭上に氷柱を展開し、迫り来る魔狼に高速で投げつける。

 魔狼は被弾する寸前で左右に跳躍してそれを回避。亜紀との距離を確実に詰めるが全ては亜紀の計算内。

 一条の雷と二階堂の炎。2人が魔狼に対して闇雲に攻撃を繰り出していたのに比べ、亜紀は氷柱を囮に使い魔狼を自身の間合いの中へと誘い込んだのだ。

 右拳に氷を集約させ、飛び掛かってきた魔狼の腹部に強烈な一撃を叩き込む。

 衝撃に耐え切れなかった魔狼はたちまち黒い塵となって霧散した。

 亜紀が褒めて下さいとばかりにこちらにドヤ顔を見せているが、他の候補生の前なので気付いていないフリをしておこう。


四宮叶しのみやかなう17歳。神能は水」


 膝を抱えて小さくうずくまり、魔狼に背を向けている四宮。

 魔狼にとっては格好の餌だ。


「もう嫌だ。なんで私がこんなことに。私には魔族と戦う勇気も覚悟も無いのに」


 四宮が小声でぶつぶつと呟いている間にも魔狼はすぐ背後にまで接近していた。

 気配を感じ取った四宮は片手を後方に向ける。

 そして。

 次の瞬間、地面から巨大な水の柱が空まで駆け抜けた。

 空中に放り出された魔狼は水に飲まれて霧散。

 グラウンドに大粒の雨が降り注いだ。


五色響ごしきひびき17歳。神能は風」


 素行の悪い八神とは対照的な優等生特有の雰囲気を放つ五色。

 風の刃を魔狼に放ち切り傷を与え、魔狼の攻撃は風の壁を展開して防御。

 教科書通りの攻守バランスの取れた戦い方が見て取れるが、逆に言えばどちらも突き抜けて目立ったポイントが無いのが欠点だろう。

 四宮のような爆発的な火力があれば魔族にも十分通用するが、耐久戦となるとジリ貧になる一方だ。


「最後に八神省吾やがみしょうご18歳」


 魔狼に素手で挑む八神の戦闘スタイルは一昔前の不良の喧嘩を連想させられる。

 魔狼の爪で肉体が切り裂かれて出血しているが、八神は苦悶の表情を浮かべるどころか不気味に微笑んでいた。

 振り下ろされた魔狼の腕を掴み、背負い投げの要領で地面に叩きつける。

 魔狼は頭を振って立ち上がり、八神の腕に噛み付いた。


「クソッ、離せクソ犬が!」


 魔狼を引き剥がそうと顔面に拳を叩き込むが魔狼はびくともしない。

 強靭な顎で八神の肘を骨ごと噛み千切る勢いだ。

 これには流石の八神も顔を歪ませた。


「食われる前に俺がお前を食ってやる」


 八神は肘を顔に引き寄せて魔狼の首元に噛み付いた。

 魔狼の肉を噛み切り、そのまま迷い無く飲み込む。

 すると、八神の目の色が変わり、歯が魔狼のように鋭く伸びた。

 再び魔狼の顔面に噛み付く八神。

 二度、三度。八神が魔狼に噛み付く度に不快な咀嚼音が耳に届く。

 必死に抵抗していた魔狼は断末魔を上げて霧散した。


「フッ、食われる側の雑魚が調子に乗ってんじゃねーよ」


悪食あくじき。食らった魔族の能力が付与される神能か」


 かなり強力な神能だがゼロ距離まで接近しなくてはならない事を考えると敵が上位種になるほど難易度が上がる。

 魔族七将が相手となれば一撃を食らえば致命傷になりかねない。

 八神の父、八神一虎やがみかずとらは肉体を鍛え上げ、武術や剣術を磨くことで魔族に対抗していた。

 気性の荒い八神にアドバイスを送ったとしても聞く耳を持たないのは目に見えている。

 壁にぶち当たり、自分で答えを見つけられない瞬間が訪れたら助言すればいいだろう。


 八神に限らず今回の講義でそれぞれ課題が見つかったはずだ。

 対魔族を意識した訓練。

 初回から試練を与えたが脱落者は0だった。

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