episode1-32 正念場

「×××!」


 カミサマがバリアで台風球を投げつけるのと同時に、加賀美と戦っているエルフが俺たちの方を指さして何かを叫んだ。背後の状況に意識が向いていて気が付かなかったが、いつの間にか切断されたはずの両腕が再生している。


「カミサマ! 全方位防御!!」

【言われるまでもない!!】


 それまでずっと加賀美を集中的に狙っていたエレメントとメイジーの魔法が一斉に俺たちへ放たれるのと、カミサマがバリアを張り直すのはほぼ同時だった。眼前すれすれで半透明な壁に阻まれて弾ける火の玉や水しぶきを見て、流石の俺も冷や汗を流す。

 危なかった……、あと一歩遅ければ死んでいた。後方に投げつけた台風球から小堀を守るためにカミサマ自身も即座にバリアを張り直すつもりだったのだろう。そうでなければ間に合わないほどにギリギリだった。

 それに加々美がエルフの両腕を落としていたのも大きかった。僅かではあっても再生のために時間を使うこととなり、攻勢に転ずるのを後らせたからこそ間に合ったんだ。


 伏兵による挟撃は陽動も兼ねており、俺たちがそっちに気を取られる隙をあのエルフは虎視眈々と狙っていたようだ。流石に一部隊の指揮官を任されるだけはある。

 しかも回復魔法まで使えるとは本当に厄介な相手だ。加賀美がこのまま削り切って勝つという可能性も考えていたが、一撃で致命傷を与える必要があるのならそれは難しい。喉を潰せれば勝ったも同然だが、そんなことは相手もわかってるだろうし、さっきみたいに骨を切らせてでも守ろうとするはずだ。やっぱり如月のライトニングをぶち込むのが一番確実だな。


「桜ノ宮、被害は?」

「バリアの内側にいた私と菫、りり、沖嶋くん、ゼリービーンソルジャーズの黒い子と青い子は無事よ。迎撃のために接敵してた他の召喚獣はモンスター諸共全滅したわ」

「そうか、上手くいったか」




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【Name】

 ゼリービーンソルジャーズ

【Level】

 2~12

【Class】

 召喚獣

【Member】

 レッド2(再召喚まで05:59)、ブルー2、グリーン2(再召喚まで05:59)、イエロー2(再召喚まで05:59)、パープル2(再召喚まで05:59)、ホワイト2(再召喚まで05:59)、ブラック2

【Skill】

 各種属性耐性(微)

 闇渡り(ブラック2)

【Tips】

 ゼリービーンズの兵隊たち。

 蜜蝋を固めた表皮はとても頑丈。

 お菓子のお姫様に仕えている。

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【Name】

 シロップスライム(再召喚まで02:59)

【Level】

 19

【Class】

 召喚獣

【Skill】

 物理耐性Lv1

 粘力強化Lv2

【Tips】

 全身が蜜でできているスライム。

 流動的な体はあらゆる物理攻撃を軽減する。

 お菓子のお姫様に仕えている。

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【Name】

 シロップスライム2(再召喚まで05:59)

【Level】

 1

【Class】

 召喚獣

【Skill】

 物理耐性Lv1

 粘力強化Lv1

【Tips】

 全身が蜜でできているスライム。

 流動的な体はあらゆる物理攻撃を軽減する。

 お菓子のお姫様に仕えている。

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 ステータスを確認すると、二部隊目のゼリービーンソルジャーズとシロップスライム二体は共に再召喚までのタイマーが表示されていた。前者は6時間、後者の一体目は3時間で、二体目は6時間だ。桜ノ宮の言う通りほぼ全滅してしまったようだ。だが、これで後ろを気にする必要はなくなり、作戦の有効性も確認できた。


 最深部攻略に向けて、最大の問題だったのはエレメントをどのように倒すかという点だった。

 エルフはもちろん強敵だが、指揮官級のモンスターとしては強すぎるというほどの種族ではない。この段階のダンジョンで十分に力を発揮できない今ならば、如月の魔法を直撃させれば十分に倒せるはずだと結論付けた。

 しかしライトニングをエルフに使うとなると、エレメントへの攻撃手段がなくなってしまう。俺たちの中で魔法的な攻撃ができるのは如月だけなのだから。

 そこで考案した作戦が、こっちが魔法を使えないなら相手の魔法を利用すれば良いというものだった。


 エルフが誤射を意にも介さず戦っているのは魔法耐性が高いからであり、味方の攻撃は味方に当たらないというような、コンピューターゲーム染みた都合の良いルールは存在しない。敵陣で暴れまわるゼリービーンソルジャーズ・イエロー、パープル、ホワイトを大規模な魔法で攻撃しないのは、味方であるゴブリンやコボルトへの被害を避けようとしているからに他ならない。

 つまり、敵が放つ魔法を敵に当たるように誘導さえできれば、エレメントを倒すことは出来るというわけだ。 

 しかし敵も馬鹿の集まりではない。そう簡単に誤射などしないだろうし、仮にしたとしても敵のエレメントが全滅するほどではないだろう。

 ならばどうするべきか? 答えは簡単。さっきカミサマがやって見せたように、俺たちに向かって放たれた魔法をバリアで包み込みそれをエレメントに向かって解き放つのだ。うまくいくかどうか、答えはもうわかった。

 当然、敵の魔法をバリアで包み込んでいる間俺たちは無防備になってしまうわけだが、その間に追撃で放たれる魔法は沖嶋の鎖で潰す。さっきやって見せたようにな。


「そろそろ五分だ。行けるか沖嶋?」

「大丈夫、無傷だよ」


 背後からの強襲へ対処するため下がっていた沖嶋が、再び前に出て健在を示すようにうねうねと鎖を動かして見せる。

 直接見たわけじゃないから実感しにくいが、一時的にとはいえ10体以上のエレメントの魔法をさばききって無傷とは大した男だ。


「どうだカミサマ? これなら守りは安心だろ?」

【……小僧、菫にかすり傷一つでも負わせてみろ。末代まで祟ってやるぞ】

「任せてカミサマ、絶対守り切ってみせる。だから早く隼人を助けてやって」

【まったく、なぜこの私がこんな小娘に顎で使われなければならんのだ……】


 カミサマがぶつぶつと小声で文句を言いながら、俺たちのもとを離れて激戦を繰り広げる加賀美たちへ近づいていく。

 最初からそういう作戦だったんだから今更ぶつくさ言わずにさっさと行け。


「こっからが正念場だぞ」


 イエロー、パープル、ホワイトの三体はゴブリンとコボルトの殲滅を終えてメイジーへ攻撃を始めたらしい。壁の裏で繰り広げられている戦いのためハッキリとしたことはわからないが、加賀美への魔法攻撃の数が減ったから恐らく間違いはない。

 メイジーたちは流石に前衛を失う直前には誤射も覚悟でゼリービーンソルジャーズへ魔法を放っていたようが、どういう手段を使ったのかゼリービーンソルジャーズは着実に接近できたようだ。恐らくは倒したゴブリンの死体を盾にしたのだろう。それぐらいしか思いつかない。エルフの使う魔法なら盾諸共木っ端みじんに出来たかもしれないが、メイジーの魔法にそこまでの威力はないだろうしな。


 さらにカミサマの参戦によりエレメントも足並みを乱され始める。連中は魔法耐性が紙同然であるため、適当に封じ込めた魔法を投げつけてやると面白いようにあっさりと消滅していく。カミサマに魔法を撃つのは危険だということくらいはすぐにわかったのか、エルフの指示を待つでもなく攻撃対象を俺たちに切り替えるが、統制を失った散発的な魔法は全て沖嶋の鎖で叩き落され行く。


 メイジーがゼリービーンソルジャーズにかかりっきりになったことと、エレメントの制圧的な火力が失われたことで、加賀美のエルフへの攻撃がどんどん苛烈になっていく。実質タイマンに近い状況になりつつある。とはいえ加賀美も約5分もの間敵の魔法に晒され続けたせいで大分ボロボロになっている。一番最初の一撃と同じ万全の状態ならとっくに首を落とせていただろうに、今は何とか食らいついて溜めの大きい魔法を使わせないようにするのがやっとという感じだ。


 もうすぐ加賀美の強化フォームは限界を迎える。あれが解除された後、加賀美一人でエルフを抑え続けるのは難しいだろう。その前にメイジーとエレメントを片付け、ゼリービーンソルジャーズとカミサマが援護に入れれば良いが、それが出来なければエルフの魔法がこちらに飛んでくることになる。沖嶋の鎖ではそれを迎撃するのは無理だ。

 ゼリービーンソルジャーズの中で唯一弓という遠距離攻撃を使うブルーが二体残っているため多少の援護射撃は可能だが、今のように激しい攻防の中でエルフのみを狙い撃つ技量はない。こいつらの出番は加賀美のパフォーマンスが落ちた後になるが、それだけでは心もとない。


「何か、何かないか……」


 目まぐるしく移り変わる戦況に対応するため、戦闘が始まってからステータスはほとんど確認できていなかった。目前に迫る危機に対処できる手段はないかと、改めて自分や召喚獣のステータスに急いで目を通していく。

 如月のライトニングを撃ち終わった時、俺のレベルは49だった。背面の奇襲部隊や、前方のゴブリンやコボルトなどの前衛を倒したことで、レベルが上がって新しいスキルを覚えているかもしれない。

 作戦に新しいスキルなどの不確定要素は組み込んでいないとは言ったが、伏兵による奇襲があった時点で作戦通りの筋書きなど捨てている。不確定だろうがなんだろうが、使えるものは何でも使う。そして必ず勝つ。生き残るのは俺たちだ。

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