episode1-25 見落とし

 沖嶋や如月たちを戦わせてモンスターを倒すことについて、さっきも一度考えた通り疑問だった点がある。

 こいつらは冒険者じゃないし召喚獣でもない。だからクラスもスキルもないし、当然レベルもない。

 では、こいつらが倒したモンスターの経験値はどうなるのか?


 その答えは俺のステータスを見れば一目瞭然だった。




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【Name】

 氷室 凪

【Level】

 36

【Class】

 菓子姫

【Core Skill】

 ☆君臨する支配

【Derive Skill】

 ◇菓子兵召喚 Lv1

 ◇フレームイン『チェイン』 Lv1

 ◇星杖起動 Lv1

 ◇マスカレイド Lv1

 ◇お願いカミサマ Lv1

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 如月の魔法によってモンスターを壊滅させる前、俺のレベルは18だった。それが、いつの間にやら倍にまで上がっている。ブラックにワーウルフを一体倒させたが、仮に折半じゃなく丸々俺に入ったのだとしてもここまでは上がらない。

 それが意味することはつまり、俺の旗下にありながらレベルを持たない者がモンスターを倒した場合、その経験値は俺に入るということだ。それが折半した分だけなのか、丸々入ってるのかまでは正確にはわからないが、この上がり方だと全て入ってる可能性が高い。


 さっきはカミサマの盾が随分都合の良いもので羨ましいなんて思ったり、如月の異能は頭一つ抜けているなんて思ったりもしたが、この菓子姫というユニーククラスも大概だ。だが今更驚かなくなってきた。いちいち、信じられない! などとオーバーリアクションをしている状況じゃない。そういうものかと思い始めている。

 他のユニーククラスも固有のものだからか一般に出回っている情報は少ないし、知られていないだけでどいつも無法と言えるほどの性能をしているのかもしれないしな。


 それにしても正直、如月の異能があそこまで強力だとは思っていなかった。魔法ということで多少期待していたのは事実だが、その期待を遥かに上回る性能だった。

 今のままでもダンジョンの指揮官に通用する可能性は大いにあるし、加えて俺のバフもある。如月がライトニングを使ったのは、俺のレベルが18の時だ。姫系クラスのレベルアップによる恩恵は精神力と支援能力の向上であり、次に撃つときはもっと強力になっている。さらに言えば、あの時俺はまだ玉座を呼んでいなかった。バフは万全じゃなく、最大火力ではなかったんだ。

 スキルポイントを消費して無理矢理戦力の補強などしなくても、如月がいればダンジョンを攻略できるかもしれない。


「討ち漏らしはなさそうだし、そろそろ進むか」

「氷室くん、その前に二つ確認しておきたいことがあるわ」


 悪臭を放つ黒焦げ死体から距離をとってステータスのチェックを行い、周辺確認も終えて再び歩き始めようとしたところで桜ノ宮から待ったが入る。


「どうした?」

「今から何をするべきかに関係するから正直に教えて。りりたちにレベルはあるの?」


 ……まあ、ダンジョンの知識があればそこは気づくよな。今から何をするべきかなんて進む以外にないと思うが、これは教えても問題ないだろう。桜ノ宮も予想はしているだろうし答え合わせでしかない。


「ない。如月が倒したモンスターの経験値は多分全部俺に入ってるな。それくらい俺のレベルが上がってる」

「そう、だったら最後の戦いの作戦を立てましょう。寄り道はなしよ。経験値稼ぎをしても、氷室くんのレベルアップはモンスターの強化に追いつけない」


 言いたいことはわかる。レベルは高くなればなるほど次のレベルアップに必要な経験値が多くなる。全ての経験値を一人に集約した場合と、全員で均等に割り振った場合だと、パーティー全体の総レベルは後者の方が高い。

 今後如月の異能を主力として運用するのであれば、まさに俺一人に経験値が集約されることになり、戦力の向上は徐々に緩やかになっていく。そうなった場合、時間が経つほどモンスターの強化に追いつけなくなると言いたいのだろう。だからレベリングはしないという話だ。だがそれは今に始まった話ではない。


「最初からそうしてるだろ」

「それは道中の戦闘を考慮してのことでしょう」

「……何が言いたい?」


 こちらから喧嘩を売らなくてもモンスターは襲い掛かってくる。最深部にたどり着くまでの間、一切モンスターに遭遇しないという可能性は低いし、そうした不可避の戦闘は勘案に入れている。今しがた如月が一蹴したのもそうだ。


 桜ノ宮は何を言いたいんだ? そりゃ最深部に突入する前は作戦会議をするつもりだが、あまり早くやっても意味がない。レベル50まで達すればDスキルがもう一つ解放されるし、俺の支援能力もあがる。出来ることの幅が広がるということだ。そうなれば作戦も練り直しになる。時間の無駄だ。


「あなたまさか、気づいてないの?」

「なに?」


 桜ノ宮が僅かに目を細めて、まるで品定めでもするかのようにじっと俺を見つめてくる。

 なんだ? 俺はなにか見落としてるのか? このダンジョンアサルトに巻き込まれるまで俺は冒険者ではなかったが、それでも冒険者の常識やダンジョンの知識はそれなりにあると自負している。まさか桜ノ宮が考え無しにこんなことを言っているということはないだろうし、俺は気づけるはずの何かに気づいていないのかもしれない。


「……いえ、少し言葉が足りなかったわね。基本的にダンジョンは異世界の軍隊がコアを掌握してるわけだけれど、だからって何でも思い通りに出来るわけじゃないのは知ってるわよね?」

「侵入者の位置がわかったりとか、強制的に追い出すようなことは出来ないって話だろ?」


 コアはあくまでもダンジョンという施設に紐づけされており、その中で動き回る冒険者やモンスターに直接干渉する機能はほとんどないという噂は聞く。


 厳密に言うと強制的に追い出すというか緊急脱出の機能はあるらしいが、それは神から与えられる冒険者の力で打ち消して無効化しているんだったか。何回挑戦しても向こうの準備が整うまで門前払いをされ続けるなんてことにならないよう対策しているのだろう。

 本人が脱出を望んでいるのならその打ち消しは働かず外に出られるらしいので、今回みたいに巻き込まれた場合はその機能を使えば脱出できるということになる。


「そうね。厳密に言うと後者は本来出来るけど、それは少し込み入った話になるから省略しましょう。良い氷室くん、コアを掌握してるからってモンスターは自由にダンジョン内をワープしたり出来るわけじゃないわ」

「そりゃそうだろ」


 そんなことが出来るなら一々壁を用意して撃ち合いなどせずとも、冒険者の背後にワープして強襲してやれば良い。挟み撃ちだって簡単だ。


「それじゃあ、ゴーレムの足の遅さはご存知かしら?」

「知ってるよ。それがなんだって……、!!」


 いや、待て。なんですぐに気づかなかった。必要な情報は全て揃っていたのに、なぜその可能性に思い至らなかった。

 最深部へたどり着くまでにレベル50くらいにはなるだろうと考えてしまっていたのか。だから|次(・)があると、知らず知らずのうちに思い込んでいたのかもしれない。


「モンスターは、異世界の軍隊は、通常最深部から行動を開始する」

「そうよ。彼らはゲームのモンスターとは違う。どこからともなく自然に湧いて出てくるわけじゃない。彼らは、拠点から進軍を始めるのよ」


 モンスターの拠点は必ずダンジョンの最深部、コアと共にある。それはコアを守るためだとか、成長前のダンジョンはその空間しかないとか、様々な説が唱えられているが、事実として奴らの拠点は必ず最深部にある。

 だとすれば、あのゴーレムもまた最深部から進軍している部隊の一員だということ。


「このダンジョンが発生してから、まだ数時間も経ってないわ」


 俺たちの存在を知ってから派遣したのか、それとも元より進軍させていたのか、そこまではわからない。だが、どちらにせよそれほど変わりはしない。ここまで俺たちはかなりの速さで進んできた。


 通常のダンジョン攻略と違い、ダンジョンアサルトに巻き込まれた場合ダンジョン内のランダムな位置に放り込まれるため、最深部の近くだったということもなくはない。その可能性は認識していたつもりだが、まさかこれほど近い場所だとは思わなかった。


「最深部はそう遠くないってわけか」

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