episode1-16 毛嫌い

「それで、そろそろ紹介して欲しいのだけど、そちらのお嬢さんとカラフルな子たちは?」


 ひとしきり再会を喜んだあと、桜ノ宮が気を取り直し俺に視線を向けてそう尋ねる。

 あんまり長くなりそうならこちらから割って入るつもりだったが、流石にそこまで油断はしていないようで安心した。


「氷室だよ。クラスメイトの氷室凪。俺とりりちゃんがあの時近くに居たでしょ? 咄嗟に俺が氷室の手を掴んだから分断はされなかったけど、特異変性でこうなっちゃったんだって」

「そういうことだ。よろしくな」


 沖島たちにそうしたように生徒手帳を見せようと思ったのだが、今身に着けているのはドレスだと思い出し、行き場を失った手をひらひらと振る。

 そういえばこのスキル、制限時間とかないのか? 解除したら元の服とか私物は帰ってくるんだろうな? もしくは部分解除とか出来ないのか? このドレスめっちゃ動きづらいし、ブカブカでも制服の方がマシなんだが……。


「っ!?」


 服だけでも何とかならないかと考えていたら、急にドレスが光り輝いて弾け飛び、その後には元々自分が着ていたブカブカの男子制服を身に纏っていた。咄嗟に沖嶋の方を見てみるがフレームは装着したままになっているので、「君臨する支配」そのものが解除されたわけではないみたいだ。どうやら部分的に解除することは可能らしい。

 ちょうどいいので加賀美たちにも生徒手帳を見せてやる。


「えぇ!? お前、あの氷室なのか!?」

「うそ、だって私より……」


 加賀美が信じられないというように目を見開いて俺を凝視し、小堀は身長を比べるように俺の頭の上で手のひらを水平にしてから自分に近づける。

 小堀は如月よりも頭一つ分ほど背が低く、クラスで一番というほどではないが平均より小柄だ。どうやら今の俺はそれよりさらに背が低いらしい。


「ここを出たら魂の証明は出来る。今はひとまず信じろ」

「疑ってるわけじゃないわ。いくつか予想してた中ではあり得る方よ。ただ不可解なのはさっきの服装。特異変性は身体的、または精神的な不可逆変化のはずよ」


 流石に詳しいな。話が早い。

 加賀美と小堀はダンジョンについてあまり詳しくないようで、特異変性とはなんぞやという感じのようだが、そこは沖嶋が説明してくれてるみたいなのでそっちは任せるとしよう。


「あれはスキルだ。俺のクラスは菓子姫。Cスキルがあのヒラヒラした邪魔くさいドレスとかあっちの玉座で、こいつらがDスキルの召喚獣、ゼリービーンソルジャーズだ」

「そう、クラスにスキル。冒険者になったのね、氷室くん」

「そうだ。知ってると思うけど沖嶋と如月はホルダーだから冒険者じゃない。そっちは?」

「残念ながら、全員ホルダーよ」


 予想通りだが、よくここまで無事だったな。


「一応言っておくと、ここは中々の規模のモンスターが陣取ってた。さらにここまで来る道中でもな。恐らく周辺の斥候や戦闘員をそれなりに召集したんだと思うけど、お前らよく見つからなかったな?」


 この広間から続くいくつかの通路、横道には、光魔石の杖が壁に設置されている場所と設置されていない場所がある。前にも言った通り、杖が差し込まれた通路はモンスター共が探索済みの可能性が高い。そして桜ノ宮たちが出て来た横穴には、ここからでも薄っすら光が見える。


「時間の問題だったわ。あの通路は結構長いけど最後は袋小路で、ゆっくりとモンスターの足音が近づいて来てたもの」

「なんとか3人で静かにして隠れようと思ってたんだけどさ、なんか急にあいつら引き返して行って、かと思ったらなんか騒がしいし人の声が聞こえる気がするしで、一か八かってことで俺たちも慎重に様子を見てみることにしたんだ」

「あそこにいるだけじゃ、いつかは見つかっちゃうから……」


 九死に一生を得たわけだ。俺たちがあんまりモタモタしてたら間に合わなかったかもしれないと思うと、やっぱり急いで正解だったな。


「……パッと見た感じ、戦力はセイレーンとゴブリンが数十体ってところよね。明らかにこの段階のダンジョンでひよっこを相手にするには過剰戦力。よく勝てたわね。菓子姫なんてクラスは聞いたことがないけれど、やっぱりユニーククラスなのかしら」

「だろうな。スペックがとてもノーマルやハイのレベルじゃない」

「ふぅん、そう。それじゃあこれはなに?」


 桜ノ宮はおもむろに沖嶋に近づいて、コンコンとフレームをノックする。


「これ、フレームよね? りりが持ってるのは知らないけど、あれも異能? どうしてダンジョンの中で異能が使えるのかしら? 沖嶋くんでもりりでも良いけど、なにか知ってるなら教えて欲しいわ」

「あ、それ俺も思った! なんで陽介フレーム出せんの? 俺は異能使えなかったぜ?」

「私も、今はカミサマとお話できないよ……?」




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☆君臨する支配

自分を中心とした一定範囲を支配する。

範囲内に存在する旗下の軍勢の能力を強化し、スキルの強制起動を可能にする。

【軍勢】


・ゼリービーンソルジャーズ

・沖嶋 陽介

・如月 りり

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 まあ、増えてるわけないよな。

 やっぱり特殊なケースだったのは如月じゃなくて沖嶋の方なのか。考えてみれば、何の説明もされてないのに旗下に入っているという方がおかしいのは当然と言えば当然か。

 まだ条件が確定したわけじゃないが、仮説だけでも説明しないと旗下に入れるのは難しそうだな。


「俺のCスキルは旗下の軍勢に恩恵をもたらすスキルだ。その恩恵の一つに、異能の強制起動がある。つまり俺の旗下に入ればダンジョンでも異能を使える。沖嶋と如月は俺の下についたってことだ」

「沖嶋くんはともかく、りりが?」

「如月がお前に!?」

「えぇっ!? りりちゃんが!?」


 三人は一斉に如月の方を向いて驚きの声をあげる。

 おい、まず驚くとこはそこなのかよ。俺はどんだけ如月に嫌われてたんだ。


「い、今はいがみ合ってる場合じゃないでしょっ!!」

「如月お前、大人になったなぁ」

「りりちゃん、えらいね」

「も~! 馬鹿にして~!」

「ダンジョン内での異能発動……」


 こんな状況だというのに学校の時のようにじゃれ合ってる如月たちを尻目に、桜ノ宮はぽつりと呟いて黙り込む。

 気持ちはわかるぞ桜ノ宮。そんなの聞いたこともないし、あり得るのかって思うよな。だけど今はありえるかとか、どういう理屈で、なんて考えてる場合じゃない。


「……旗下の軍勢って、具体的な定義は? 氷室くんをリーダーだと思えば良いの?」


 やっぱり、話が早い。


「残念ながらそこがハッキリわかってない。二人とも話し合あって、本心から俺を認めなきゃいけないんじゃないかって仮説は立てたけどな」


 正直打算で仲良くやっていこうということになったのが本心から認めたってことになるのかは疑問だが、とにかく上っ面だけの承諾に意味はないってことだけは間違いない。


「参考までにスキルの名前を聞いても?」

「ん? あぁ、別に良いぞ。「君臨する支配」、それが俺のCスキルだ」

「そう、君臨する支配・・……。加賀美くん、菫、今から私たちの指揮は氷室くんに任せるわ。彼をリーダーだと思って、彼の下につくと自分に認めさせて」


 桜ノ宮は腕組みをしながらそう言って、自分は静かに目を閉じた。

 如月がそうだったように、やれと言われてはいそうですかと出来るものでもないと思うが、桜ノ宮にはそれが出来るのだろうか。


 それに物分かりが良いのは結構なんだが、まだ俺たちがダンジョン攻略を目指してるってことを伝えてないんだよな。仮に三人とも無事旗下に入っても、そこで意見が割れたら結局外れてしまう気がするが……。


「ん、別に俺はそれで良いぜ。よくわかんねぇけど、氷室に任せりゃなんとかなるってことだろ?」

「それでカミサマが出てこれるんなら、氷室くんの部下でもなんでもいい、かな……」


 加賀美と小堀は深く考えた素振りもなくそんなことを言っている。

 まったく、わかってないなこいつらは。如月との一連の流れを知らないからそんな簡単に言えるんだ。




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☆君臨する支配

自分を中心とした一定範囲を支配する。

範囲内に存在する旗下の軍勢の能力を強化し、スキルの強制起動を可能にする。

【軍勢】


・ゼリービーンソルジャーズ

・沖嶋 陽介

・如月 りり

・加賀美 隼人

・小堀 菫

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 はぁ!?

 いやいや、そんな馬鹿な。

 見間違いか?


「大丈夫氷室? 目でも痛いのか?」

「いや、気にするな」


 ごしごしと目をこすってからもう一度見てみるが、結果は変わらない。さも当然のように、加賀美と小堀は旗下の軍勢に加わっていた。


 じゃあ如月のやつはなんだったんだよ!! 嫌われてるとは思ってたけどどんだけだよ!!

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