episode1-15 合流
沖嶋と如月の異能に関する検証、それから先ほどの戦闘で成長した俺とゼリービーンソルジャーズのステータス確認については後で進みながらするとして、問題はどの道を進むかだ。
広間の壁にはいくつもの横穴が空いており、軽く覗いてみると光魔石の杖が設置されている通路と薄暗い通路に分かれている。
「血痕が続いてる道はなさそうかな」
「もしかしたら例のコボルトが最深部まで逃げてるかもと思ったんだけどな」
さっきのように負傷したまま逃げ出した奴の血痕がないか手分けして探してみたが、流石にそう都合よくはいかないらしい。広間には派手にぶちまけられたモンスターの死体が散らばり地面は血で濡れているが、通路の先にまで続いているものは確認できなかった。
「沖嶋くん! 氷室! ちょっとこっち来て!」
分担した横穴の確認を終え、一旦合流した俺と沖嶋に如月が大声で呼びかける。
「どうしたのりりちゃん?」
「なにか見つかったか?」
「これ、さっきの犬じゃない?」
如月が確認していた場所に移動して指さす先を見てみると、そこには壁にもたれかかるようにして座るコボルトの姿があった。
「おい」
少し距離をとってから言葉少なにゼリービーンソルジャーズへ命令すると、グリーンがコボルトを軽く小突いた。コボルトは殴られるがままに地面へ倒れ伏しぴくりとも動かない。よく見れば背中に深い切り傷があり、もたれかかっていた壁にはべったりと血の跡がついていた。
「死んでるな。ここまで道標を残してたのはこいつか」
さっきの戦いでコボルトはいなかったはず。だとすれば、ゼリービーンソルジャーズとの戦いから逃げ出したコボルトがここで力尽きたと考えるのが自然だろう。
「手がかりは完全にゼロになっちゃったってこと?」
「ううん、多分ある程度までは絞り込める。そうだよな氷室」
「まあな。あんまり小さい横穴はあのセイレーンの巨体じゃ通れない」
セイレーンの体高はざっくり目算で4~5メートル程度。それに対してほとんどの横穴は沖嶋の身長よりいくらか高い程度か、それ以下しかない。しゃがんで進むにも限界はある。
「俺が確認したあたりだと該当しそうなのは一か所だけだった」
「こっちは全くなし。俺でもしゃがまなきゃ通れなさそうなとこばかりだったよ」
続きを促すように、沖嶋が如月へと視線を移す。
「え!? ごめん、そんなの気にしてなかった」
「血痕はあったか?」
「それはなかったよ」
「よし、それだけでも十分時間の短縮になる。気にすんな如月」
いちいち地面まで照らして血の跡を確認する手間が省けたと考えれば十分だ。
そもそも、横穴の大きさに気づいたのは手分けして確認を始めた後だった。遠目からは横穴のサイズなんてわからないし、セイレーンが通れそうかどうかなんて全く思いつかなかったのだが、いざ横穴の前にまで行った段階で思っていたよりも小さいのが多いということに気づいたんだ。沖嶋も多分俺と同じくその段階で気づいたのだろう。
「とりあえず如月が見たあたりの横穴を全員で――」
「ああーーーー!! 無事だったんだな陽介!!」
そうして再び横穴を確認するため動き出そうとした俺たちは、不意に投げかけられた大声に驚いて咄嗟にその声が聞こえた方へ振り返った。
比較的近い横穴から紫色の光を伴って姿を現したそいつは、俺たちの方へと走って近づいてくる。
咄嗟に前に出ようとしたゼリービーンソルジャーズを俺は手で制した。あれは敵じゃない。
「ほんっとうに心配したんだからな! このこの!」
「いたいって。でも、それはこっちのセリフだよ。無事で良かった隼人」
前髪をかきあげ、サイドは軽くかりあげた束感のある黒髪の長身男が、沖嶋に勢いよく抱き着き、流れるようにヘッドロックに移行して沖嶋のこめかみあたりを指でぐりぐりと軽く押している。
沖嶋は少し困ったような顔をしながらもその声音から嫌がっている感じはせず、むしろ安堵を感じさせるような穏やかさがあった。
この男は
直接話したことは少ないが、声がデカいから盗み聞きする気がなくても会話が聞こえてきてしまい、サッカー部所属とか別のクラスに彼女がいるとか知りたくもない情報が頭に入っている。
それにしてもこいつ、馬鹿みたいな大声をあげて近づいてきたが冒険者なのか? 敵に見つかる可能性を恐れていないのだとしら、ユニーククラスか? もしくは元から冒険者だったという可能性も……。
「陽介、それに如月も無事で本当に良かった!!」
「加賀美もね。それより葵と菫は?」
「それよりはひどくね!? 心配すんな、二人とも無事だよ。ほら……ってあれぇ!? つかこいつらなに!?」
芝居がかった仕草で自分の背後を親指で示す加賀美だが、その後ろには誰もいない。
しかも今更気づいたのか、ゼリービーンソルジャーズを見た途端沖嶋から離れて大きく後ずさりを始めた。
不注意が過ぎるだろ……。多分残りの二人は、こいつらが気になって出てこれないんだな。
「こいつらは俺の召喚獣だ!! モンスターじゃない!! 安心して出て来い!!」
「え、誰だ?」
しょうがないので加賀美が出て来た方の横穴に向かってそう言ってやると、誰かが入り口からほんの少しだけ顔を覗かせてこちらを見た。
その人物は注意深く辺りを見回して、散乱するモンスターの死体のあたりで何度か視線を止め、最後にもう一度こちらに視線を向け、ゆっくりと横穴から出てこちらへ近づいてきた。その堂々とした佇まいは、こんなところでも相変わらずだ。
そしてその後ろにさらに一人、こちらは前者とは打って変わって不安そうにおどおどしながらゼリービーンソルジャーズに視線を向けて歩いている。
「加賀美くん、何度も言ってるけどあまり大きな声は出さないで。モンスターに見つかったらどうするの?」
「そ、そうだよっ」
「あ、わりぃわりぃ。でもさ、陽介と如月が無事だったのが嬉しくてつい」
……へぇ
藍色の髪を腰辺りまで伸ばした、品のある立ち振る舞いの美しい女生徒が加賀美を叱りつけ、淡く薄い桃色の髪をセミロングにした女生徒が少しどもりながらそれに同調する。
前者は
特筆すべき点があるとすれば、桜ノ宮は日本でも5指に入るとされる財閥系企業桜ノ宮グループの親族であること、なんらかのホルダーであるらしいこと、そして小堀は九十九憑きだということだろうか。
予想通り、やっぱりこいつらもダンジョンアサルトに巻き込まれていたし、一緒にいるということは分断されずに済んだのだろう。
「まったく……。でもそうね、無事でなによりだわ、りり、沖嶋くん」
「りりちゃんっ、沖嶋くんっ、ほんとに、うぅ、よかったよぉ……」
「桜ノ宮さんも小堀さんもよく頑張ったね。無事でよかった」
「もう! 心配したんだからね二人とも!」
「ちょっと、りり」
「わっ、り、りりちゃん」
先ほどまでの凛とした感じから少しだけ雰囲気がやわらいだ桜ノ宮と、今にも泣き出しそうな小堀を、如月が両手を広げて抱き寄せる。桜ノ宮は困った子とでも言いたげだが優しい微笑みを浮かべており、小堀は目尻に涙を溜めながらも控えめに笑っている。
さて、友人との感動の再会も結構だが桜ノ宮が一つ気になることを言っていたな。
モンスターに見つかったらどうするの、と。それはつまり、モンスターへの対抗手段がない、ということではないだろうか。だとすれば加賀美は冒険者じゃないということだ。声がデカいのはいつものことで何も考えていなかっただけらしい。
さっきまでだったらガッカリしていたかもしれないが、「君臨する支配」の効果がある程度わかった今、むしろ好都合だ。
条件が五分の場合論戦で桜ノ宮に勝つのは恐らく難しい。実際に舌戦をしたことはないが、軽く話しただけでも頭のデキの違いがわかる。
問題になるのは今後の方針だ。進むか、戻るか。もちろん俺に戻るつもりは更々ないが、それをこいつらが納得するか。
性格を考えれば、沖嶋は今更意見を翻すことはないだろう。
如月を納得させた主な要因は友人を助けるという目的。これはすでに達成されてしまっている。だが、沖嶋が来るなら最終的には如月も来るはずだ。
加賀美に与えるべき
小堀は普段の様子から見ても流されやすいタイプのようだし、倫理的正論でごり押しすれば多分なんとかなるだろう。
だからやっぱり、桜ノ宮がどう出てくるか。それだけが問題だ。
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