episode1-9 スキル

 毒々しい紫色の光を頼りに、暗い洞窟の中を俺たち3人と7体は進んで行く。

 この光魔石がとりつけられた杖は異世界でのスタンダードな光源のようで、分隊規模で現れたコボルトたちの半数がそれぞれ持っていたため数には困らなかった。

 俺と沖嶋と如月はそれぞれ一つずつ持って集団の中央を歩き、前方はレッド、グリーン、イエロー、パープルが固め、後方はブルー、ブラック、ホワイトが守っている。ゼリービーンソルジャーズたちは光源がなくとも問題なく行動できるようだから杖は待たせず、武器を構えさせている。

 また、地雷や落とし穴などのトラップが仕掛けられている可能性もあるため、前方のゼリービーンソルジャーズは横一列に並んで歩かせて、俺たちはその後を続くようにしている。


「ねぇ~、これ重いんだけど……。あたしも持たなきゃ駄目なの?」


 左手で持った光魔石の杖とは別に、右手に持った片手剣の柄をこちらに向けて如月が文句を垂れる。

 コボルトの死体から奪い取った戦利品であり、小柄なコボルトでも扱える程度のサイズだが重さはそれなりにある。金属の塊だしな。


「いざって時黙って殺されても良いなら好きにしろ」

「でも氷室は持ってないじゃん」

「俺はこいつらが装備みたいなもんだから良いんだよ」


 前を歩くゼリービーンソルジャーズたちを指さしてぶっきらぼうに答える。

 これは半分本気で半分建前。実は俺もコボルトの装備を持って行こうと思ったのだが、引きずるのがやっとで持って歩くことなどとても出来そうになかった。どうもこの身体は元の俺より随分筋力が落ちているらしい。そうでなければ如月が持ち歩ける程度の重さを持てないなんてことにはならない。


「ごめんりりちゃん、俺が異能を使えれば良かったんだけど」

「沖嶋くんは悪くないよ! 異能を使えないのはあたしも同じだし!」

「わかったら精々ちょっとでも自分の身を守れるようにしておくことだな」

「もー! あいっかわらず偉そうでムカつく! わかったよ、持ってれば良いんでしょ持ってれば!」


 そういえば、沖嶋の異能がフレームだってことは知ってるが如月の方は知らないな。

 というかこいつ、ホルダーだったんだな。学校じゃそんな素振りは全然なかったから気づかなかった。


「ところで如月はどういう異能を使えるんだ?」

「……よくわかんない」

「はぁ? お前、俺にはクラスを聞いといて自分はそれかよ」


 思ってたより強かというかなんというか、自分の異能を隠すっていう程度の知恵はあったのか。


「人聞き悪いんだけど! 別に言いたくないとかじゃなくてあたしもよくわかんないの。お爺ちゃんがくれたこの星の杖が一応あたしの異能なんだけど、使ったことないし」 


 如月が自分の胸元を照らして首にかけられているネックレスを揺らす。よく見てみれば確かに小さな杖のような装飾が吊るされているが、あれが異能?


「あたしがキーワードを言うと次元収納? とかいうのが展開されてちゃんとした杖になるんだって。それで、えーっと、なんて言ってたっけ……。たしかメモリーカード? に星の記憶が刻まれてて、魔法を再現するとかなんとか……、とにかくそんな感じ」

「りりちゃんのお爺さんが作ったんだよね? その杖」

「うん、最近何かと物騒だからって」


 そのせいでダンジョン内で何も出来ずピンチとは、報われないなその爺さんも。

 だけどまあ、だいぶふわふわした説明だったが種類はわかった。


「科学系の異能か。お前の爺さん、名のある研究者だったりするのか?」

「さあ? お爺ちゃんが何の仕事してるかなんて知らないし」


 このどうでも良さそうな態度。すっとぼけているのではなく本当に知らないんだろう。貰うだけ貰って一度も使ってないっていうのも多分本当だ。俺にはまったく理解できないが、どうも如月は異能に対して興味がないタイプの人間らしい。


 科学系の異能というのはその言葉通り、現代科学のレベルを大きく上回り異能と呼べる領域にまで至った技術、あるいはその技術によって生み出された道具や能力を指す。

 大変革によって人類の技術は飛躍的に進歩した。中には異常なほどの発展を遂げた分野もある。人為的に怪人と呼ばれるような存在を作り出して悪の組織を結成する者もいれば、同じく科学の力によって生み出されたヒーローも存在する。

 そうした人類の科学力を基盤とする異能はざっくりひとまとめに科学系の異能と呼ばれているのだ。


「無事にここを出れたらちょっとは試しといた方が良いと思うぞ。いざって時それじゃあ、持ってる意味がない」

「余計なお世話なんだけど」

「でもりりちゃん、俺は氷室の言ってることも一理あると思う。異能は磨かなきゃ宝の持ち腐れだよ」

「うん! じゃあその時は沖嶋くんも付き合ってね!」


 こいつ露骨すぎだろ。

 しかし、異能は磨かなきゃか。フレーム使いが言うと重みが違うな。




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【Na蜑】

 氷螳、縲?蜃ェ

【L縺医Χ縺l】

 5

【繧ッ繝ゥss】

 菓子姫

【Core 謚?】

 ☆蜷幄?する謾ッ驟

【豢セ逕溘繧 Skill】

 ◇菓子兵召喚 Lv1

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 沖嶋の言葉に促されるように、ずっと出しっぱなしにしていた自分のステータスを改めて確認する。

 一般的に、召喚獣がモンスターを倒した場合その経験値は召喚主と折半になる。どうやらその原則はこいつらにも適用されているようで、俺のレベルはさっき見た時から3上がっていた。

 レベルアップによる恩恵はクラスによって大きく異なるとされており、剣士や騎士などの前衛職であれば筋力や打たれ強さが強化されるが、魔法使いや僧侶などの後衛職は魔力やスキルそのものの効果の強化が主になる。

 Cスキルが読み取れないため正確な方向性はわからないが、少なくともこの菓子姫というクラスは後衛職にあたるのだろう。もしも前衛職ならレベル5にもなってコボルトの装備一つ持ち歩けないなんてことはありえない。


 ざっと見たところレベル以外に変わったところは見当たらない。出来れば文字化けが直っていて欲しいと思ったのだが、相も変わらず意味不明な文字が並んでいるだけだ。


 余談だが、冒険者のステータスは基本的に名前、レベル、クラス、Cスキル、Dスキルの五つの項目で構成される。

 生命力や魔力、いわゆるHPやMPというものも概念としては存在しているらしく、スキルの発動にはMPを消費するのだが、これはステータスには載ってこない。俺のステータスがバグってるのは確かだが、それとは関係なく一般的にそういうものらしい。

 だから魔法使いや僧侶のようにMPの消費が激しいクラスなんかは、自分の現在MPがどの程度で、どのスキルでどの程度のMPを消費するのかということを感覚的に理解し管理する技術を求められる。それをどこまで正確に出来るかというのも実力の指標の一つなんだとか。

 前衛職の場合はこのMPの話がHPになるわけだ。もっとも、HPは目に見えて大きな負傷をすればそれに応じて減少するらしいからMPほど難しくはないという話だ。




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【Name】

 ゼリービーンソルジャーズ

【Level】

 2~3

【Class】

 召喚獣

【Member】

 レッド、ブルー、グリーン、イエロー、パープル、ホワイト、ブラック

【Skill】

 各種属性耐性 Lv1

【Tips】

 ゼリービーンズの兵隊たち。

 蜜蝋を固めた表皮はとても頑丈。

 お菓子のお姫様に仕えている。

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 あわせてゼリービーンソルジャーズのステータスも確認するが、こいつらもレベル以外は変わってないな。レベルの表記に幅があるのは、恐らくレッドとグリーンだけ倒したモンスターが多いからだ。


 あと確認できそうなところは……、あぁ、そういえばCスキルを見てなかったか。




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☆蜷幄?する謾ッ驟

閾ェ蛻?r荳ュ蠢?→縺励◆荳?螳夂ッ?峇繧呈髪驟阪☆繧九?

遽?峇蜀?↓縺?k譌嶺ク九?霆榊兇縺ョ蜈ィ縺ヲ縺ョ閭ス蜉帙r?難シ撰シ?シキ蛹悶☆繧

縲占サ榊兇縲


・ゼリービーンソルジャーズ

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 さっぱりわからん。

 ここにゼリービーンソルジャーズの名前があるってことはこいつらにも関係する、もしくは影響するスキルのはず。

 姫系クラスのCスキルで有名なのは魅了効果のある「王者の風格」とか、味方を強化する「プリンセスエール」なんかだが、味方に影響があるとするなら後者の強化系スキルの可能性が高いか?

 ……駄目だな。予想は出来ても結局名前がわからなくちゃ意味がない。冒険者のスキルは音声起動だから効果だけわかっても発動出来ない。このスキルはないものと思っておいた方が良い。


 ただでさえなりたくもない冒険者になっちまったてのに、しかもわけのわからない文字化けなんて、運が良いんだか悪いんだかわからんな。せめて、もう一人くらいまともな冒険者がいてくれれば攻略の可能性はグッと高まるし、時間も短縮できるのにな。

 堀口のやつは、……確かもう下校してたんだったか。肝心な時にいないなんて何のために冒険者になったんだか。

 あいつ以外にうちの学校に冒険者はいたか? ……多分いない。有栖先生が言ってた通り未成年の冒険者は少ない。それも学校に通いながらとなれば更に減る。今回のダンジョンアサルトで冒険者になった奴は多少いるだろうが、どこまで使い物になるか。


 負けるつもりは毛頭ないが、先が思いやられるな。

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