episode1-4 菓子姫
「ゼリービーンソルジャーズ」
その名前を口に出して、ふと違和感を覚える。
どうして俺はこいつらの名前を知ってるんだ?
こんなわけのわからない生き物、俺は見たことも聞いたこともない。
それなのに、俺は今、自然とゼリービーンソルジャーズという名前を呟いた。
それに、いきなり現れた正体不明の化け物だというのに、俺はこいつらを味方だと確信している。
こいつらの出現に関して、別に
あるいは、俺が助けを求めたから、それに反応した?
だとすれば、こいつらは、こいつらこそが俺の異能
「あ、おい!」
このカラフルで珍妙な生き物について深く考える暇もなく、そいつらが勝手に動き出す。
両手で大きな剣を持った赤色と、無手の緑色。その二体が沖嶋たちの方へ猛スピードで走っていき、残る五体は俺を包囲するように取り囲む。
いや、最初に根拠もなく味方だと確信したように、やはり敵意は感じられない。
もしかしてこいつらは、俺を守ってるのか?
「グルルルッ」
「ガウゥゥ」
ゼリービーンソルジャーズが出現した際のエフェクトは沖嶋たちは勿論のこと、二足歩行の犬たちにも届いていたらしい。
今にも如月に襲い掛かろうとしていた怪物も、沖嶋を追いかけまわしていた怪物も、どちらも警戒したように武器を構えこちらを見て威嚇の声を上げている。
「な、なに? 今の音と光?」
「りりちゃん、こっちに!」
怪物たちの意識が自分たちから逸れたのを理解してか、沖嶋が素早く如月を抱えて怪物たちから距離を取った。
直後、赤色に先行して緑のゼリービーンソルジャーズが二足歩行の犬にたどり着く。
ゼリービーンソルジャーズを警戒していた二足歩行の犬は接近してきた緑に対処しようとする仕草を見せたが、実際に何かをする間もなく小さな拳で殴り飛ばされた。
「キャインッ!」
速い。目で追えないというほどではないが、攻撃の直前緩急をつけるように急激に加速した。全速力を温存していたのだろう。俺があの犬の立場だったとしてもあれはきっと避けられない。
殴り飛ばされた犬の怪物が壁らしきものに叩きつけられ、重力にひかれて地面に落ちるよりも早く緑の飛び膝蹴りが犬の顔面に直撃する。
それとほぼ同時に、一拍遅れてもう一匹の二足歩行の犬に接近した赤色が横なぎに大きな剣を振るう。
二足歩行の犬は片手で持てる程度の大きさの剣でその一撃を受けるいなすかしようとしたようだが、赤色の持つ剣とぶつかった瞬間木っ端みじんに粉砕され、上半身と下半身が泣き別れすることとなった。
「ガァゥ……」
二匹の悲鳴とうめき声は断末魔の声でもあったらしい。身体を真っ二つにされた方は勿論、緑に飛び膝蹴りを食らった方もぴくりとも動かなくなり、場に静寂が訪れた。
終わったか。ひとまずこのゼリービーンソルジャーズは敵ではないようだし、ようやく落ち着いて今の状況を整理できそうだ。
ああ、だがその前に……
「ステータス」
□□□□□□□□□□□□□□□□□
【Na蜑】
氷螳、縲?蜃ェ
【L縺医Χ縺l】
2
【繧ッ繝ゥss】
菓子姫
【Core 謚?】
☆蜷幄?する謾ッ驟
【豢セ逕溘繧 Skill】
◇菓子兵召喚 Lv1
□□□□□□□□□□□□□□□□□
呟いた言葉に応じるように、空中に投影されたホログラムのようなウィンドウが目の前に浮かぶ。
ステータス、それは冒険者の力を可視化する神の加護だ。これが出てきてしまったことへのショックはあるが、今は気にしている場合じゃない。それより菓子兵召喚Lv1、多分これだ。
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◇菓子兵召喚 Lv1
スキル「菓子兵召喚」を強制起動する。
▽菓子兵召喚
お菓子の国の兵士を召喚して従える。
・ゼリービーンソルジャーズ
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菓子兵召喚の文字をタップすることで開かれた2つ目のウインドウ。そこに求めていた答えはあった。
召喚系スキル……、ゼリービーンソルジャーズ。そんな気はしていたが、この文字化けはなんだ?
特異変性がステータスにまで影響するなんて話は聞いたことがないぞ。
……まあ、今は良い。
いつの間に発動していたのかわからないが、恐らく特異変性で意識が朦朧としていた時にでも無意識的に使っていたのだろう。だからこいつらは敵じゃないと俺は確信した。
だが沖嶋たちからすれば、恐ろしいモンスターが仲間割れを始めたようにも見えるだろう。そして戦いが終わった今、ゼリービーンソルジャーズが自分たちを襲わないなんてことはあいつらにはわからない。
「沖嶋! 如月! こいつらは味方だ! ひとまず安心してくれ!」
沖嶋が如月を抱えて距離を取ったところまでは見えていたが、犬どもが持っていた光源は地面に転がってしまったようで、今はあいつらがどこにいるのか暗闇に隠されて見えない。
だから声を張り上げてゼリービーンソルジャーズが味方であることを伝えたのだが、違和感を覚える。
んん? やっぱり、声がいつもと違うな。少しというか、かなり甲高くなったか? 声変わり前の自分よりも更に高い、女の子みたいな声だ。
自分で言うのもなんだが、俺は結構高身長でガタイも良いし、見た目とのギャップがえげつないことになるな。
「っおわぁ!?」
気づけば身体の痛みや熱さもなくなっていたため、俺は沖嶋たちを探そうと立ち上がる。
しかし、どうしたことかいつの間にか靴が脱げており、加えてズボンを履くのに失敗した時のようなつんのめり方をして転んでしまう。
いてて……、なんだこりゃ? ズボンがブカブカになってるのか? 今更気づいたがシャツも大きくなって袖が余ってしまっている。てか、なんか髪、長くね……?
「ありがとう、助かったよ。君名前は? なんでそんなブカブカの男子制服を……」
俺が転んだり服の大きさ等に気を取られている間に、いつの間にか沖嶋たちは近づいて来ていたらしい。思いのほか近くで声をかけられて、俺は少し頬を掻きながら視線を声の方へ向ける。
こけてるところを見られてたら恥ずいな。
視線の先で、沖嶋は二足歩行の犬が持っていた光源、紫色の光を発する石が先端にとりつけられた杖を俺に向けて訝し気な表情をしていた。
というか、名前は? 何を言ってるんだこいつ?
「うわ、ちっちゃくてかわい~。あたしは二年の如月だけど、一年? てか、どっかで見たことあるような……」
ちっちゃくて、可愛い?
俺は後ろを振り返ってみるが、誰もいない。
いや、正確にはゼリービーンソルジャーズがいるが、いくら如月が馬鹿でもこいつらに一年かなんて聞くわけない。
「いや、いやいや、ちょっと待て」
転ばないように気を付けながら立ち上がる。
沖嶋は俺より背が少しだけ低く、いつもなら僅かにではあるが見下ろすような形で話すことになる。
それなのに今、俺の目の前にいる沖嶋は俺よりデカイ。見上げなければ沖嶋と目が合わない。
そして如月。正確な数字は知らないが、平均的な女子の身長程度だったはず。なのに、その如月すら、俺よりデカイ。
「マジ、か」
縮んでいる。
それだけならまだ良い。
髪が異様なほどに伸びている。
自分の口から発せられる唖然とした声は、意識して聞いてみると高いだけではなく可憐なようにも聞こえる。
筋肉質で逞しかったはずの二の腕を触る。ぷにぷにしている。
「……ない」
生まれた時から共にあった相棒の存在を探し、けれどもそれが見つからない。
あるべきはずの物が、そこにはなかった。
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