第33話異界・陰陽課
東京都、陰陽課────。
都庁内にある陰陽課は確かに陰陽課ではあるものの、それはいわゆる出先機関のようなもので、本当の陰陽課は異界にある。
行き方は極秘で、それを知るのは一部の人間しかいない。
艶鵺は、その一部の人間であった。異界の陰陽課はまるで平安時代で時が止まったような寝殿造りをしていた。
そしてここで働く人々もスーツ姿の人と狩衣姿、または神主が着る白衣や女性は緋袴の巫女姿と様々である。
そう言った人々が忙しく行きかう中、艶鵺はピンストライプスーツ姿でその隙間を縫って歩き、とある場所に向かっていた。
陰陽課室長室。目的地はそこだ。
窓やドアなどは無く、
「失礼しますよ」
艶鵺は御簾の隙間からするりとその身を滑り込ませて、中に入る。
板張りの室内、文机に座る黒いスーツの男。五十代程の、七三分けの髪形をした男だ。鋭く頬が削げ、眼光鋭いこの男こそ、陰陽課室長であり当代の安倍晴明であった。
本名を安倍靖幸だが、安倍家の当主を継ぐ際に「清明」を名乗るのが現在の安倍家の掟であった。
「ご足労様です、蘆屋殿」
「いえ、此方こそ。仕事が完遂できなかったのに、依頼料を全額頂いてしまって申し訳ない」
嫌味では無く本当にそう思ったのだが、安倍は少し眉を顰めてばつの悪そうな顔をした。
「此方から依頼しておいて・・・・・・愚息が申し訳ない」
「いえいえ、将来が楽しみな息子さんだ」
雑談を交えながら仕事報告をしていた艶鵺が帰ってしまうとまた、安倍は書類仕事に戻った。
「・・・・・・」
暫く無言を貫いていたが、深々と溜息を吐いて気配のする方を見ることも無く冷たい声音で壁際に居る者に声を掛けた。
「・・・いつまでかくれんぼをしているつもりだ?」
すると、やっと気付いたか、と言う顔でSEI☆MEIこと
「何しに来た? 呼んでも無いのに此処へは来るなと言っている筈だが」
「・・・・・・だって、蘆屋道満の子孫が来る、って聞いたからどんなヤツかなって思ってさ」
ニヤニヤと、あまり上品とは言い難い表情をその可愛らしい顔に浮かべて艶鵺が去った方をちらと見た。
「なぁーんか、ザコっぽいじゃん。何であんなのに仕事依頼しちゃったのかなあ、俺の方が・・・・・・」
言い掛けた鴇弥に、安倍は猛禽よりも鋭い視線で睨んで黙らせた。
「貴様如きが蘆屋殿を語るな」
息子に対するものとは思えない、鋭い眼光と声音だった。鴇弥は、びくりと身体を震わせたが直ぐにキッ、と父親を睨み返した。
「・・・っ、本当のコトじゃんッ! 昔から蘆屋道満は安倍晴明に勝ててないし!」
すると、安倍は呆れかえったような溜息を深々と吐いた。そして、侮蔑の籠った視線を投げかけ、息子に言った。
「初代に勝てなかったからなんだ? 少なくとも・・・・・・比べるのもおこがましいが、艶鵺殿は貴様よりは優秀な陰陽師であり霊能者だ」
「・・・・・・」
鴇弥は俯き、肩と拳をブルブルと震わせた。
「もう良いだろう、帰れ」
にべもない態度に、鴇弥は室長室を飛び出していた。
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