第28話一級フラグ建築士

 その後祇鏖は、香椎に電話をした。

 勿論、白夜から聞いた話を香椎達と情報として共有する為だ。 



 向こうはさわりを聞いただけで、大慌てで自転車を飛ばして事務所に現れた。

 そりゃそうだろう、漣のは電話で済ませて良い話ではないからだ。



 「・・・・・・いやはや・・・どうしたもんか」



 香椎が唸る。祇鏖から聞いた話はどれもこの好矢見町では死亡フラグまっしぐらだからだ。

 今迄は、白夜やその他の力ある妖達が漣を影となり日向となり守って来たようだが、漣は今ひとりでこの町に居る。



 今迄の調子で居れば、確実に死ぬのは間違いない。



「誰か寄越してもらうのは無理なんですか?」



 側で聞いていた艶鵺が疑問を呈した。

 すると祇鏖は、鬼瓦がゴーヤを生で嚙み砕いたような苦み走った顔をして、ちらと艶鵺を見る。



「・・・白夜殿も最初はそれを考えたらしいんだがなあ・・・・・・」



 白狐の神使たる白夜の元には、大小様々な力を持つ妖が集っていた。

 最初は白夜の養い子だからと何くれと無く構ってやっていたのだが、この通りの死にに行こうとしているとしか思えない漣の行動に、死んだ者、または去る者も居て大分減ってしまったようだ。



 そして白夜自身も、一度死んだ漣を生き返らせる為に寿命を大きく減らした。



 流石に、最後まで残ってくれた者達を使うのは気が引けたのだろう。

 しかしせめてもと言う思いがあるのだろう、祇鏖に少しでも気にかけてもらえぬかとお願いして電話を切った。



「しかし俺には慈雨が居る。気に掛ける以上の事は出来ん、だから済まんが香椎よ頼んだぞ」

「・・・・・・ええ、部下ですから気に掛けるのは当然ですが・・・しかしなあ」



 無駄に妖に向かって死にに行こうとする行為を、どうやって止めればいいのか香椎には分からなかった。

 何せ、そう言ったタイプは誰からのどんな説得であろうと聞き入れない者が多く、そのくせ悪運が強く生き残る事が多い。



 勿論、その分沢山の犠牲を払っているのだけれど。



「本人にその自覚無し、ですからねえ・・・・・・」



 艶鵺は嫌そうに、溜息と共にそう呟いた。



「取り敢えず、その事で我々は宵闇町の住民を巻き込まないように気に掛ける事はするが漣自身がどうなろうと知った事では無い、と言うのだけは覚えておいてくれ」



 冷たい事を言っているが、祇鏖達はあくまで宵闇町の住民達を守るのが仕事で、その他の、外の住民は彼らの範疇外なのである。



「ええ、勿論肝に銘じておきますよ」



 香椎はそう言って、事務所を後にするのであった。



自転車に乗り、漕ぎだすと香椎は大きく溜息を吐いた。



ああ、多分蓮見は長くないだろうなあ、と思ったのだ。

長年の感、と言うか経験と言うのか漣のようなタイプが無事にこの好矢見町から離れて行った試しがないからだ。



 大抵は死体が見つからず行方不明のまま、二階級特進である。



「やれやれ、定年まで穏やかに過ごしたかったんだがなあ・・・・・・」



 香椎はそうぼやきながら派出所に帰るのであった。



 

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