第27話祇鏖困惑す
祇鏖は警備員詰所の、自身のデスクでノートパソコンを覗いていると手元に置いていた携帯が震えて着信を知らせた。
「おう、白夜殿ではないか」
スマフォの画面に出た名前が、近いうちに連絡を取ろうとしていた相手だったので丁度良かったと、祇鏖はボタンを押して通話に出た。
「もし、祇鏖だ」
『祇鏖殿、久しいな。私だ、白夜だ』
「うむ、久しぶりだな。で、どうしたんだ」
と、問うとスマフォの向こう側でも分かるぐらい言い淀んでいた白夜だが、意を決したように口を開いた。
『うむ・・・・・・其方の派出所に、蓮水漣と言う者が配属されたのだが・・・知っているか?』
「おう、勿論だ。挨拶にも来たぞ」
そう答えると、白夜は大きく溜息を吐いた。
『実は・・・・・・私は何処に配属されるの聞いておらんのだ』
それを聞いて祇鏖は、以前から半ば予想はしていたが実際に聞くとショックを受けている白夜を哀れに思った。
自分とは違い、本当に赤子の頃から育てた我が子同然の子にそのような対応は確かに悲しかろう、と祇鏖は考えた。
「・・・・・・そうであったのか・・・で、どうやって知ったのだ?」
『うむ、実は烏天狗の小太郎、と言うのがうちに居てな。そ奴が色々と調べて私に教えてくれたのだ』
なるほど、と祇鏖は呟いた。
「しかしまあ、色々本人にも思う所があるのだろう。漣もいい大人なのだし・・・・・・」
『いや・・・・・・違うのだ、アレに対してだけはそれが通用しないと言うか・・・・・・何と言うか・・・・・・』
と、言い淀む白夜。そして次に告げられた事実に流石に驚いた。
『漣は・・・確かに良い子なのだが・・・如何いえば良いのか・・・・・・』
そう言って語り出した。
漣は人間側の、いわゆる世間一般常識と言われる感覚はしっかりしており、道路交通法もしっかり守るし困っている人を手助けする優しさも兼ね備えている。
しかし、何故か妖側の事となるととんと守れなくなるのだと言う。
例えば、この道は痴漢が出るから通ってはいけないよと言えばその道を避けるのに、この道は妖が出るから通ってはいけないよと言うと、何故か巻き込まれに行くらしい。
何度も命の危機に晒され、一度は本当に死んだこともあると言うのに何故か首を突っ込みに行く漣。
どうあっても改心する事なぞ有り得ない妖に何度も騙され、殺されかける事数度。
封印された箱や祠を開ける事も一度や二度じゃない。
と、延々と愚痴とも恨み言ともそのすべてが混じったような事をつらつらと言いつのる白夜に、祇鏖は黙って聞くしかなく。
リアルに「お、おう・・・・・・」と言う日が来ると思っていなかった祇鏖は、地雷原へとタップダンスを踊りに行く漣の話を聞かされ続けた。
祖母譲りの霊力がある訳でも、妖に特別空かれる素養がある訳でも無く。
それなのに何故か、妖に関連する事件に首を突っ込みたがる。
「それは・・・困ったものだな・・・・・・」
『困ったなんてもんじゃない、漣はどうして好矢見町勤務が決まってしまったのだ⁉』
「うむ・・・多分だが、漣はいわゆる”零感枠“で選ばれたんじゃないかと思う」
何も見えない感じない、と言うのはある意味最強だからだ。
下手に己の霊力に自負がある一般人は扱いに困るので、一般人で零感で真面目そうなタイプを選ぶのが慣習化していたのだ。
そうすると、時々漣のように神の強い加護を持った者がすり抜けで配属される時があるのだ。
勿論、漣が霊能者として修業している者であればそれでも良かったのだが、それも無いただの一般人、その上野次馬根性が人よりあるタイプはかなり厄介だ。
そう言ったタイプは、此処では高確率で死ぬ。
しかしその事を白夜に告げるのは酷だと、祇鏖は流石に言い淀んでしまった。
白狐は取り敢えず、近いうち漣に会いに行くつもりだと告げ、その時に都合が良ければ飲もうと約束して通話を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます